俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
310 / 317
第5章 聖地崩落編

9.破魔の巫女

しおりを挟む

「男…………………いや、『おとこ』か?」

 カーテンの向こうから現れた巨人を見上げて、俺は茫然とつぶやいた。
 見るからに屈強そうな筋肉を纏ったその人物はまるで終末の世界に現れた救世主のような姿をしており、いったいどれほど代謝が良いのか肌からはうっすらと湯気まで立ち上っている。

「ふっ……よく言われるな」

 俺のつぶやきが耳に届いたのか、巨人はニッと口をもとに笑みを浮かべた。
 こんなナリをしているくせに声だけは高い女性のものなのが、余計に気持ちが悪かった。

「しかし、私は生まれたときより女以外の性別になったことはない。心も身体も正真正銘の女人だよ」

「……そう、なのか?」

「疑うようならば脱いで見せるが?」

「結構だ」

 俺はきっぱりと断言して、腰の剣に伸びていた手を下ろした。
 別になにかされたわけではないのだが、危うく剣を抜いて斬りかかるところだった。

「改めて……私が星神教で巫女をしているアレクシアという」

「そうか……なんというか、色々と突っ込みたいところなんだが……」

「シアと愛称で呼んでもらっても構わん。ちなみに、趣味は編み物とパッチワークだ」

「…………呼ばねえよ」

 俺は目の前の大男……もとい体格の良い女性が手芸をしている場面を頭に描き、ガックリと肩を下ろした。

 なぜだろうか、物凄く力が抜ける。
 己の存在意義というか――自分がどうしてここに来て、どうして存在しているのかがわからなくなった気分だ。
 このままいくと何かの悟りを開いてしまうような気さえする。

「ふむ? 本当に疲れ切っているようだな。まるで悪霊に憑りつかれているようではないか。さっそくお祓いをして進ぜよう」

 そんな俺の落胆やら絶望やらをどう受け止めたのか、アレクシアはふむふむと頷いた。

「…………まあ、なんだ。頼む。一刻も早く終わらせて宿に行って眠りたい」

「そうか、それでは始めるとしよう」

 アレクシアは絨毯の上に座っている俺の前に仁王立ちして、バシリと柏手を打つ。
 その左右に金髪と銀髪の二人の女が膝をついて座り、金属の棒の先端に鈴をつけた楽器らしきものを振る。
 シャラン、シャランと軽やかな音が鳴った。その音に合わせて、アレクシアが両手で拳を握る。

「牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座。逆しにおこないおこせば向こうは血花に咲かすぞ! 微塵と破れ! カアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 アレクシアが握り締めた拳を突き出す。その正拳突きのあまりの勢い、圧力に部屋の中の空気が激しく揺さぶられる。

「う、おお…………」

 ビリビリと震える空気に俺はたじろぎながら、目の前で繰り広げられる厄払いの光景に目を奪われていた。

「悪鬼、邪見、羅刹、邪霊、去りたまえ! 散りたまえ!」

 アレクシアが立て続けに拳を突き出す。隣で二人の女がシャランシャランと鈴を鳴らす。
 岩を素手で砕くことができるであろう拳の連撃と、ミスマッチな高い音色。まるで別世界で繰り広げられているような二つが合わさって一つになっていく。
 その圧倒的な光景を前にすれば、確かにどんな悪霊や鬼だって裸足で逃げ出してしまうだろう。

「カアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 筋骨隆々とした腕が盛り上がり、ひときわ強く正拳が突き出される。
 まるで手の先から衝撃波でも放たれたかのように俺の髪がぶわりと舞って、後方へと流された。

「ふっ……これにて大厄払い、成し遂げられたり。貴殿の身に巣くっていた邪悪な怨念、悪しき煩悩は打ち払われた」

「…………そうか」

 俺は胡乱に首肯して、それだけつぶやいた。

『星神教の巫女は美しい女性だ』

 なるほど、たしかに嘘はついていない。
 アレクシアの完成された肉体。造形美ともいえる筋肉美は、ある意味では多くの男を虜にする完璧なスタイルだろう。

(……俺が求めてたのはそういうことじゃないんだけどな)

 求めていたのは鮮やかに咲き誇る花の美しさであって、不変・不動の山脈の美しさではない。
 俺は色んな邪念を抜き取られた心持ちになって、大きく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。