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第16話 もうメロメロです
王宮の庭園にて、アンリエッサはウィルフレッドに愛と忠誠を誓った。
そうこう話しているうちに徐々に日が傾いていき、気温も肌寒くなっていく。
「殿下。そろそろ部屋に戻りましょう」
黙って控えていたバートンが口を開く。
「もう夕方です。お体に障りますよ」
いかに呪いが解けて体調が良くなったとはいえ、先ほどまで寝込んでいたのだ。
あまり長時間、外を出歩かない方が良いだろう。
「うん、わかった。部屋に戻ろうか」
「それでは、お手をどうぞ」
ウィルフレッドがバートンに支えられながら、部屋に戻る。
アンリエッサもそっと後ろをついていった。
「それでは……今日のところは、これで失礼いたします」
ウィルフレッドがベッドに戻ったのを確認して、アンリエッサも部屋を辞すことにした。
話したいことは山のようにあるが……ウィルフレッドの身体が優先である。
久しぶりに外を出歩いたのだ。ゆっくりと休んでもらいたい。
「ああ、うん。えっと……アンリエッサ嬢」
「何でしょうか?」
「えっと……うーん、と……」
ウィルフレッドが言いよどむ。
しばし視線をさまよわせてから、口を開いた。
「あ、アンリエッサ嬢は僕の婚約者を辞めた方が良いと思う。その考えは変わらないよ。でも、君の意見を尊重する。少なくとも、僕の方から君を追い出すようなことはしない。だから……」
ウィルフレッドが照れた様子で頬を染めて、上目遣いにアンリエッサを見る。
「また来てくれると嬉しいな」
「ブフオッ!」
鼻血を噴きかけたが……ギリギリで耐えた。
代わりに、フィギュアスケートの大技のごとく身体をのけ反らせてしまったが。
「あ、アンリエッサ嬢?」
「だ、大丈夫です……必ず来ます。許されるのなら今晩にでも……!」
「いや……それは私も国王陛下も許しませんけど」
横で話を聞いていたバートンが苦笑いをしていた。
さすがに、十二歳の少年を相手に夜這い……ではなく、夜遊び……でもなく、夜更かしは早かったようである。
「えっと……明日、また遊びに来ますね。またお話をいたしましょう」
「うん! 明日は一緒にお茶をしようね!
「はい、楽しみにしておきます……それでは、また」
アンリエッサはスカートを摘まんで頭を下げてから、ウィルフレッドの部屋を辞した。
バートンと一緒に廊下に出て、扉を閉めて……そのまま床に崩れ落ちる。
「はふう……」
「だ、大丈夫ですか!? アンリエッサ様!?」
「問題ありません……ウィルフレッド殿下の可愛さのあまり、つい……」
「ああ……なるほど、そうですか……」
バートンは呆れた顔をしつつ、どこか安堵したような表情になっている。
「……どうやら、アンリエッサ様はウィルフレッド殿下をお気に召されたようですね」
「私はって……これまでにも、婚約者候補はいたはずですよね?」
「彼女達は……何故か、ウィルフレッドと会ってから気分を悪くしてしまいまして。すぐに婚約者候補も断ってしまったんですよ」
「…………」
おそらく、ウィルフレッドに憑依していた呪いが原因である。
たとえ目に見えずとも、呪いというのは人間に様々な影響をもたらす。
ウィルフレッドと一緒にいることで、肉体や精神に不調をきたしてしまったのだろう。
「アンリエッサ様は……まあ、平気そうな……いや、どうでしょう?」
「無事ですよ。絶好調です」
「……そうですか」
鼻血を噴きそうになっていたあたり、あながちアンリエッサも平気とはいえないが。
「国王陛下に良い報告ができそうです。ウィルフレッド殿下も体調が改善していたようですし……相性が良いのでしょうね」
「相性が良い……そうですね。きっとそうです。そうに違いないですね……!」
アンリエッサが桜の花が開花するような笑顔になった。
相性が良い……まさにそうだろう。この出会いは運命に違いない。
(ウィルフレッド殿下と一緒ならば、私は幸せになれる。そして……殿下のことは私が幸せにしてみせる……!)
つまり、一緒にいればWin―Winということ。相性が良いに決まっている。
「そうですか……それでは、アンリエッサ様がウィルフレッド殿下を気に入ったと陛下にも……」
「お話し中、申し訳ございません。バートン様……!」
若い執事が小走りで駆けてきた。
急に会話に割って入ってきた執事は無礼にもアンリエッサに構うことなく、バートンに何事かを耳打ちする。
「何ですって……!」
「はい……」
「……わかりました、下がりなさい」
「はい……ああ、失礼いたしました……!」
若い執事は今さらながらアンリエッサに気がついて、頭を下げてから去っていった。
「どうかしましたか」
「あー……はい。少し問題が起こったようです」
「聞かせていただけますか?」
「…………」
バートンはわずかに迷った様子だったが、やがて口を開く。
「……アンリエッサ様が王宮で暮らすのなら、もはや他人事ではありませんね。お話します」
「はい、聞かせてください」
「それがですね……」
バートンが声を潜めて、アンリエッサに告げる。
「側妃の一人……第十二王子の母君であらせられるエランダ妃がお倒れになりました。突如として血を吐いて倒れたそうで、毒を飲まされた疑いもあるとのことです……」
「…………へえ」
バートンから聞かされた話に、アンリエッサは気づかれないように口角を釣り上げたのであった。
そうこう話しているうちに徐々に日が傾いていき、気温も肌寒くなっていく。
「殿下。そろそろ部屋に戻りましょう」
黙って控えていたバートンが口を開く。
「もう夕方です。お体に障りますよ」
いかに呪いが解けて体調が良くなったとはいえ、先ほどまで寝込んでいたのだ。
あまり長時間、外を出歩かない方が良いだろう。
「うん、わかった。部屋に戻ろうか」
「それでは、お手をどうぞ」
ウィルフレッドがバートンに支えられながら、部屋に戻る。
アンリエッサもそっと後ろをついていった。
「それでは……今日のところは、これで失礼いたします」
ウィルフレッドがベッドに戻ったのを確認して、アンリエッサも部屋を辞すことにした。
話したいことは山のようにあるが……ウィルフレッドの身体が優先である。
久しぶりに外を出歩いたのだ。ゆっくりと休んでもらいたい。
「ああ、うん。えっと……アンリエッサ嬢」
「何でしょうか?」
「えっと……うーん、と……」
ウィルフレッドが言いよどむ。
しばし視線をさまよわせてから、口を開いた。
「あ、アンリエッサ嬢は僕の婚約者を辞めた方が良いと思う。その考えは変わらないよ。でも、君の意見を尊重する。少なくとも、僕の方から君を追い出すようなことはしない。だから……」
ウィルフレッドが照れた様子で頬を染めて、上目遣いにアンリエッサを見る。
「また来てくれると嬉しいな」
「ブフオッ!」
鼻血を噴きかけたが……ギリギリで耐えた。
代わりに、フィギュアスケートの大技のごとく身体をのけ反らせてしまったが。
「あ、アンリエッサ嬢?」
「だ、大丈夫です……必ず来ます。許されるのなら今晩にでも……!」
「いや……それは私も国王陛下も許しませんけど」
横で話を聞いていたバートンが苦笑いをしていた。
さすがに、十二歳の少年を相手に夜這い……ではなく、夜遊び……でもなく、夜更かしは早かったようである。
「えっと……明日、また遊びに来ますね。またお話をいたしましょう」
「うん! 明日は一緒にお茶をしようね!
「はい、楽しみにしておきます……それでは、また」
アンリエッサはスカートを摘まんで頭を下げてから、ウィルフレッドの部屋を辞した。
バートンと一緒に廊下に出て、扉を閉めて……そのまま床に崩れ落ちる。
「はふう……」
「だ、大丈夫ですか!? アンリエッサ様!?」
「問題ありません……ウィルフレッド殿下の可愛さのあまり、つい……」
「ああ……なるほど、そうですか……」
バートンは呆れた顔をしつつ、どこか安堵したような表情になっている。
「……どうやら、アンリエッサ様はウィルフレッド殿下をお気に召されたようですね」
「私はって……これまでにも、婚約者候補はいたはずですよね?」
「彼女達は……何故か、ウィルフレッドと会ってから気分を悪くしてしまいまして。すぐに婚約者候補も断ってしまったんですよ」
「…………」
おそらく、ウィルフレッドに憑依していた呪いが原因である。
たとえ目に見えずとも、呪いというのは人間に様々な影響をもたらす。
ウィルフレッドと一緒にいることで、肉体や精神に不調をきたしてしまったのだろう。
「アンリエッサ様は……まあ、平気そうな……いや、どうでしょう?」
「無事ですよ。絶好調です」
「……そうですか」
鼻血を噴きそうになっていたあたり、あながちアンリエッサも平気とはいえないが。
「国王陛下に良い報告ができそうです。ウィルフレッド殿下も体調が改善していたようですし……相性が良いのでしょうね」
「相性が良い……そうですね。きっとそうです。そうに違いないですね……!」
アンリエッサが桜の花が開花するような笑顔になった。
相性が良い……まさにそうだろう。この出会いは運命に違いない。
(ウィルフレッド殿下と一緒ならば、私は幸せになれる。そして……殿下のことは私が幸せにしてみせる……!)
つまり、一緒にいればWin―Winということ。相性が良いに決まっている。
「そうですか……それでは、アンリエッサ様がウィルフレッド殿下を気に入ったと陛下にも……」
「お話し中、申し訳ございません。バートン様……!」
若い執事が小走りで駆けてきた。
急に会話に割って入ってきた執事は無礼にもアンリエッサに構うことなく、バートンに何事かを耳打ちする。
「何ですって……!」
「はい……」
「……わかりました、下がりなさい」
「はい……ああ、失礼いたしました……!」
若い執事は今さらながらアンリエッサに気がついて、頭を下げてから去っていった。
「どうかしましたか」
「あー……はい。少し問題が起こったようです」
「聞かせていただけますか?」
「…………」
バートンはわずかに迷った様子だったが、やがて口を開く。
「……アンリエッサ様が王宮で暮らすのなら、もはや他人事ではありませんね。お話します」
「はい、聞かせてください」
「それがですね……」
バートンが声を潜めて、アンリエッサに告げる。
「側妃の一人……第十二王子の母君であらせられるエランダ妃がお倒れになりました。突如として血を吐いて倒れたそうで、毒を飲まされた疑いもあるとのことです……」
「…………へえ」
バートンから聞かされた話に、アンリエッサは気づかれないように口角を釣り上げたのであった。
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