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第34話 祖父との邂逅
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「はい、間違いありません」
その男性……エドモンドが頷いた。
「まずは戦勝の祝いを。短期間で帝都を落としたご手腕、誠に見事でございました。加えて、帝国内のモンスターを討伐していただいたこと、心より御礼申し上げます」
「……まさか御礼を言われるとは思わなかったよ。もしかして、俺達がこのまま何もせずに立ち去るとか思っているのか?」
「まさか……貴殿らは帝国を滅ぼしに来たのでしょう?」
エドモンドが力なく笑う。
諦めきった瞳の下にはクッキリと色濃い隈が刻まれていた。エドモンドが帝国のために多大な苦労をしてきたことが伺える。
カーベルも疲れ切ったエドモンドの様子に瞳を訝しそうに細めた。
「へえ……滅ぼされると知ったうえで、その態度か。てっきり、恨み言でも聞かされると思っていたんだけどな」
「我らの無能の尻拭いをしてくれたのです。感謝はあれど、恨む筋合いなどありませんよ」
「殊勝なことじゃないか。もしかして……皇帝陛下も同じように腹を括っているのかい?」
「そうなら良いんですけどね……あの御方が最後の皇帝として、恥じぬ最期を見せてくれるのであれば、どれほど良かったでしょう」
エドモンドが顔に浮かんだ憂いの色を強めて、首を振った。
「皇帝陛下でしたら、自室の扉に鍵をかけて籠っていますよ。これから、ご案内いたします」
「ああ、よろしく頼むよ」
「はい。ところで……案内の前にお聞かせ願いたいのですが、城壁を破壊したというお嬢さんはそちらの御三方の誰かですか?」
「いや、それは……」
「ごめんねー。お待たせ―」
カーベルが答えようとしたタイミングで、アイシスが馬車から降りてきた。
ようやく干し肉を食べ終わったのだろう。端正な表情は満足げである。
「干し肉って硬いから、なかなか飲み込めないよねー。まあ、そういう歯応えのあるところが好きなんだけど」
「なっ……!」
アイシスの姿を見て、エドモンドが限界まで両目を見開いた。
愕然とした表情はまるで幽霊でも見たかのようであり、パクパクとエサを求める魚のように口を開閉させている。
「アリーシャ……いや、そんなまさか……」
「公爵殿、彼女は……」
「そう、か……なるほど。それで『神撃の御手』を……」
カーベルがアイシスを紹介する前に、エドモンドは状況を把握したらしい。
額に手を当てて、何とも言えない複雑そうな顔をする。
「お嬢さん、名前を訊いてもよろしいかな?」
「うん? 私はアイシスだけど……お爺ちゃん、誰?」
「おじいちゃん……か」
それは本来の意味ではないのだろうが、その呼び方にエドモンドは目尻に涙を浮かべる。
「私は……名乗る価値もない、ただの老人だよ。娘を愛していながらも守れなかった……守らなかった、愚かな爺だ」
「フーン、良くわからないけど、大変そうだね」
「自業自得だから仕方がないさ……ところで、君のお母さんは息災かな?」
「ママの知り合いなの? 元気だよ。この間、弟が生まれたし」
「……そうか。弟もいるのか」
エドモンドが目頭を押さえて、顔を上に向ける。
不意にこぼれそうになった涙を隠すように。
「……失礼いたしました。それでは、皇帝陛下のところにご案内いたします」
「良いのか? もう少しくらいだったら、時間を取ってあげても良いけど?」
「いえ……十分です」
カーベルの言葉に、エドモンドは地獄で救いを得たように微笑んだ。
「彼女をここまで連れてきてくださり、ありがとうございます。カーベル殿下の御慈悲に心より感謝を申し上げます」
「……別に親切で連れてきたわけじゃないんだが。本当に拍子抜けだな」
カーベルは肩をすくめて、エドモンドの案内を受けて城に入っていった。
護衛の騎士と『戦乙女の歌』が後に続いていく。
赤い絨毯が敷かれた廊下を誰に止められることなく歩いていき、彼らは城の奥にある一室に到着した。
扉やドアノブにまで贅を尽くした装飾が施されており、高貴な身分の人間が暮らす部屋であることが一目でわかる。
固く閉ざされた部屋……皇帝ルーデリヒ・エイルーンの私室である。
「宰相閣下……」
「下がりなさい。貴方の仕事はもう終わりです」
扉の前に立っていた兵士にエドモンドが告げると、兵士はどこか安堵したような表情で「承知いたしました」と部屋の前から立ち去っていく。
そして……エドモンドが扉をノックした。
「皇帝陛下、レイベルンです。入ってもよろしいでしょうか?」
扉の向こうに声を投げかけるが……返事はない。
ガタリと物音がしたので、無人というわけではないだろうが。
「内側から鍵がかかっていますね。この扉は特注なので簡単に壊せないのですが……」
「アイシスさん、お願いしても良いかな?」
「ん? 別に良いよー」
カーベルの頼みに軽く応じて、アイシスが目にも止まらぬ速さで蹴りを放つ。
恐るべき速度の蹴撃によって扉がバキリと音を鳴らして、部屋の内側にすっ飛んでいく。
「お、おお……なんとお転婆な……」
扉を蹴り開けたアイシスに、何故かエドモンドが顔を引きつらせた。
ショックを受けたような表情はいったい何を思ってのことだろうか?
「開いたよー?」
「ありがとう。それでは、お邪魔するよ」
アイシスを労い、カーベルが率先して皇帝の部屋に入っていった。
その男性……エドモンドが頷いた。
「まずは戦勝の祝いを。短期間で帝都を落としたご手腕、誠に見事でございました。加えて、帝国内のモンスターを討伐していただいたこと、心より御礼申し上げます」
「……まさか御礼を言われるとは思わなかったよ。もしかして、俺達がこのまま何もせずに立ち去るとか思っているのか?」
「まさか……貴殿らは帝国を滅ぼしに来たのでしょう?」
エドモンドが力なく笑う。
諦めきった瞳の下にはクッキリと色濃い隈が刻まれていた。エドモンドが帝国のために多大な苦労をしてきたことが伺える。
カーベルも疲れ切ったエドモンドの様子に瞳を訝しそうに細めた。
「へえ……滅ぼされると知ったうえで、その態度か。てっきり、恨み言でも聞かされると思っていたんだけどな」
「我らの無能の尻拭いをしてくれたのです。感謝はあれど、恨む筋合いなどありませんよ」
「殊勝なことじゃないか。もしかして……皇帝陛下も同じように腹を括っているのかい?」
「そうなら良いんですけどね……あの御方が最後の皇帝として、恥じぬ最期を見せてくれるのであれば、どれほど良かったでしょう」
エドモンドが顔に浮かんだ憂いの色を強めて、首を振った。
「皇帝陛下でしたら、自室の扉に鍵をかけて籠っていますよ。これから、ご案内いたします」
「ああ、よろしく頼むよ」
「はい。ところで……案内の前にお聞かせ願いたいのですが、城壁を破壊したというお嬢さんはそちらの御三方の誰かですか?」
「いや、それは……」
「ごめんねー。お待たせ―」
カーベルが答えようとしたタイミングで、アイシスが馬車から降りてきた。
ようやく干し肉を食べ終わったのだろう。端正な表情は満足げである。
「干し肉って硬いから、なかなか飲み込めないよねー。まあ、そういう歯応えのあるところが好きなんだけど」
「なっ……!」
アイシスの姿を見て、エドモンドが限界まで両目を見開いた。
愕然とした表情はまるで幽霊でも見たかのようであり、パクパクとエサを求める魚のように口を開閉させている。
「アリーシャ……いや、そんなまさか……」
「公爵殿、彼女は……」
「そう、か……なるほど。それで『神撃の御手』を……」
カーベルがアイシスを紹介する前に、エドモンドは状況を把握したらしい。
額に手を当てて、何とも言えない複雑そうな顔をする。
「お嬢さん、名前を訊いてもよろしいかな?」
「うん? 私はアイシスだけど……お爺ちゃん、誰?」
「おじいちゃん……か」
それは本来の意味ではないのだろうが、その呼び方にエドモンドは目尻に涙を浮かべる。
「私は……名乗る価値もない、ただの老人だよ。娘を愛していながらも守れなかった……守らなかった、愚かな爺だ」
「フーン、良くわからないけど、大変そうだね」
「自業自得だから仕方がないさ……ところで、君のお母さんは息災かな?」
「ママの知り合いなの? 元気だよ。この間、弟が生まれたし」
「……そうか。弟もいるのか」
エドモンドが目頭を押さえて、顔を上に向ける。
不意にこぼれそうになった涙を隠すように。
「……失礼いたしました。それでは、皇帝陛下のところにご案内いたします」
「良いのか? もう少しくらいだったら、時間を取ってあげても良いけど?」
「いえ……十分です」
カーベルの言葉に、エドモンドは地獄で救いを得たように微笑んだ。
「彼女をここまで連れてきてくださり、ありがとうございます。カーベル殿下の御慈悲に心より感謝を申し上げます」
「……別に親切で連れてきたわけじゃないんだが。本当に拍子抜けだな」
カーベルは肩をすくめて、エドモンドの案内を受けて城に入っていった。
護衛の騎士と『戦乙女の歌』が後に続いていく。
赤い絨毯が敷かれた廊下を誰に止められることなく歩いていき、彼らは城の奥にある一室に到着した。
扉やドアノブにまで贅を尽くした装飾が施されており、高貴な身分の人間が暮らす部屋であることが一目でわかる。
固く閉ざされた部屋……皇帝ルーデリヒ・エイルーンの私室である。
「宰相閣下……」
「下がりなさい。貴方の仕事はもう終わりです」
扉の前に立っていた兵士にエドモンドが告げると、兵士はどこか安堵したような表情で「承知いたしました」と部屋の前から立ち去っていく。
そして……エドモンドが扉をノックした。
「皇帝陛下、レイベルンです。入ってもよろしいでしょうか?」
扉の向こうに声を投げかけるが……返事はない。
ガタリと物音がしたので、無人というわけではないだろうが。
「内側から鍵がかかっていますね。この扉は特注なので簡単に壊せないのですが……」
「アイシスさん、お願いしても良いかな?」
「ん? 別に良いよー」
カーベルの頼みに軽く応じて、アイシスが目にも止まらぬ速さで蹴りを放つ。
恐るべき速度の蹴撃によって扉がバキリと音を鳴らして、部屋の内側にすっ飛んでいく。
「お、おお……なんとお転婆な……」
扉を蹴り開けたアイシスに、何故かエドモンドが顔を引きつらせた。
ショックを受けたような表情はいったい何を思ってのことだろうか?
「開いたよー?」
「ありがとう。それでは、お邪魔するよ」
アイシスを労い、カーベルが率先して皇帝の部屋に入っていった。
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