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ヘイムダルの迷宮2
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「ホーコは多少知ってるみてぇだが、俺は何のことかさっぱりだぜ。まぁ、『禁忌』って響きからして碌なもんじゃなさそうだ」
「概ね同意するわ。覚えてるかもしれないけど、いま世界は4つの禁忌を持つ四英雄が支配してるの」
「いや、それも知らねぇな。支配してんのに『英雄』かよ。随分とちぐはぐな説明だな」
「かつては誰もが『英雄』と呼んでいたし、世界の支配権を得た今でも『英雄』と呼び続ける人は少なくないわ。それなりに支持されてるの」
「そりゃ大層な話だ。自分の記憶喪失で手一杯で、他人のことになんざ興味が湧かねぇけどな」
「あなたたち二人とも記憶喪失って度々言ってるけど、それってリバースの作用じゃなくて?」
なんだそりゃ――そう言いかけたラーグの頭に、一足遅れて知識が浮かぶ。
「ああ、なるほどな。お前はわかるか、ホーコ」
「え、ええ……この世界には不思議な力がいくつもありますが、リバースもその1つで、使えるのは生涯に一度きり……使い方は、まず『リバース』と声に出して自分のコアを取り出す……」
コアは心臓とも呼ばれ、生命活動に関わる一切の機能が集約されている。人間はコアを必ず1つ持ち、コアを失うこと即ち死亡と定義され世界から消滅する。リバースとは、命そのものであるコアを自ら取り出して特殊な方法で破壊することにより存在を世界に再誕させる行為だ。輪廻転生とは少し違う。リバースでは生前の容姿や能力を引き継ぐ。そのうえで、一度は消滅した肉体が世界のどこかで復活するのだ。
常識を超越した能力で、無制限には使えない。リバースを使えるのは生涯に一度きり。一度使ってしまえば、再誕した肉体ではリバースは使えない。それがリバースを行った証左となる。
「「リバース」」
ラーグは自分のコアを取り出そうと試みるも、何も起きなかった。知識では唱えた瞬間に感覚の変化が起きると記憶しているが、それもない。ホーコも同じようで、足と腕を開きドレスの布を広げた格好のまま、首を傾げている。ちなみに、リバースの発動に気合の加減は関係ない。
二人が発動できないのを見て、サロリアは確かめるように小さく「リバース」と声にした。
変化はすぐに起きた。白いエプロンに隠れるサロリアの胸から、輝く小さな角張った結晶が出現した。色合いは複雑で、刻々と色を変え続けている。印象とは違うが、例えるには虹色以外にないだろう。
「この虹色の結晶がコア。リバース以外にコアを取り出す方法はないわ。リバースで取り出したコアを破壊すると肉体が消滅して、世界のどこかに再構築される。再構築の時には記憶が失われるのが通説だったけど、最近、リバースした後に記憶を取り戻した実例が数件確認されたって話を聞いたわ」
さらっと希望を感じさせる情報を伝え、サロリアは「これ危ないから仕舞っておくわね」と自らのコアを胸に戻した。戻す時には特に宣言が必要なかった。
「リバースが使えないあたり、俺たちの記憶喪失はリバースの発動が原因で間違いなさそうだな。なんで使っちまったのかわかんねぇが、記憶が戻る可能性もあんだな。俺は感じてねぇけど、ホーコが会話しながらたまに刺激されてんのは兆候なんじゃねぇの?」
「そうかもしれませんわね。禁忌なんて言葉で刺激されるのは、かなり嫌な感じですけど」
「お前も四英雄の一人だったりしてな。そこんとこ、どうなんだよ。今も四英雄は全員健在なのか?」
「さぁね。生きてるかまでは把握してないわ。四英雄は世界の四大都市をそれぞれ管理してるはずだけど、他の都市の状況を知る術はないし。あたしの住むシャンロンは四英雄のルヴァンシュって奴が管理者なんだけど、聞き覚えは?」
訊かれた途端、ホーコの目が見開いた。頬を緩ませ、ぶんぶんと繰り返し首肯する。
「その名前っ! あるっ! ありますわっ! ですが、どんな方だったかまでは……でも、絶対に私の知ってる人です!」
「んな喜ぶなよ。四英雄って呼ばれるくらい有名なんだから、大抵の奴は知ってんじゃねぇの?」
「いいじゃないですの別に。記憶が戻る希望があるとわかったんですのよ? 貴方と違って」
「記憶なんざどうだっていいだろ。俺たちは記憶を失っても構わねぇと決断してリバースしたんだろ?」
「正論ばかり並べると嫌われますわよ。ねぇ、サロリアさん?」
「え、ええ、そうね。何を思ってリバースしたかなんて、あなたたちは覚えてないんだから」
サロリアの言う通りではあった。ホーコが誇らしげな顔をしていたから視界から外した。
ラーグは記憶を取り戻したいとまで思わないし、四英雄にも興味がなかった。ただ、一方で向かうべき場所も目的も持ち合わせていないのも事実。
自分でも驚くぐらい、ラーグには内から湧き上がる欲という感情がなかった。
「決めましたわ。四英雄のルヴァンシュさんに会いに行きます」
まぁ、そう言い出すのが自然だ。ホーコが目的を見つけたのであれば、欲がないのは記憶喪失が原因ではない。記憶を失う以前から、ラーグ自身がそういう無欲な性格だったのだろう。
「その前に、あたしの主に会ってもらうけどね。主の許可がないと手錠も外せないから」
ホーコが自由を縛られていることを、ラーグは言われて思い出した。
「さ、どうせシャンロンに行くなら、抵抗する理由もないわよね? ラーグも手を出してくれる?」
「俺はまだ行くなんて言ってねぇ。その『シャンロン』とかって場所、地名なら覚えてても良さそうなもんなのに、なんもピンとこねぇしよ。縁もない場所に行く理由もねぇだろ」
「残念だけど、あなたに選択権はないわ。あたしはヘイムダルの迷宮で見つけたモノを全て持って帰ってこいって命じられてるから」
「見ての通りモノじゃあねぇけど?」
「それがどんな形をしていようと、人でも化け物でもモノとして扱えって話だから」
言葉は穏やかでも、声色に冷酷な色が混じったのを感じた。
「嫌だ、と言ったら武力行使する気だな? わかった、そこまで覚悟してんなら従ってやるよ。他に目的があるわけでもねぇしな」
「物分かりが良くて助かるわ。主はちょっと冷徹だけど、悪い人じゃないから。あなたたちが禁忌と無関係とわかれば、解放してくれると思うわ。……まぁ、無関係でもないかもしれないけど」
「サロリアさんのご主人様に会ったあとで構いませんから、ルヴァンシュさんがどこにいるか教えてくださると助かりますわ」
「主に頼めば、教えるどころか話す場を設定してくれるかもしれないわね。あたしの主とルヴァンシュは顔見知りだから」
「なんて都合のいい! 決まりですわね。では、案内を頼みます」
ラーグの率直の感想として、サロリアの存在は怪しかった。記憶喪失のところに現れて、ホーコの記憶を刺激する情報を与えて目的に向かわせる。自分はともかく、ホーコを利用するために画策して行動しているとしても納得できる都合のよさだ。
考えすぎか。利用するのであれば、記憶を取り戻させるのではなく、取り戻されないよう誘導して自分の利となるよう動かそうとするはず。記憶を取り戻させることによるサロリアの利もあるかもしれないが、ラーグには特に思いつけなかった。
サロリアが近寄ってきて手錠を差し出した。
「そんなもん付けなくたって、ついていってやるよ」
「ラーグを信用してないわけじゃないわ。儀式みたいなものよ。ちょっとの間だから我慢して」
「わかったよ。自由が利かない間、身の安全は保障してくれよな」
「上から来られるのはちょっとムカつくけど、責任は持ってあげるわ」
「命を保障するって感じじゃねぇな。ま、一度死んじまったようなもんだし、ダメな時はダメでもいいか」
「そんな悲観しなくても、期待するような危険な状況にはならないわよ」
「どうかな」と短く釘を刺してラーグは両手を前に出した。サロリアの手から手錠が離れ、宙を移動した冷たい色の拘束具がラーグの自由に制限をかけた。
「サロリアさんのご主人様に会ったら、ラーグさんも一緒にルヴァンシュさんに会ってくださいますよね?」
「そっちは本気で関係ないし付き合う必要もねぇと思うんだが……なんだろうな。お前の命令には不思議と従いたくなる効力がある」
「『効力』ですか……やはり、貴方は私の執事だったのではないでしょうか。執事なら、繰り返しになりますが言葉遣いに気をつけてもらいたいですわね」
「それだけはねぇわ」
「なんて早い否定! 否定できるだけの確証もありませんのに」
「執事なら記憶を失う前のお前と一緒にいたはずだろ。だったら俺だけ『ルヴァンシュ』も『禁忌』も知らねぇってのは変だ。単語を聞いたタイミングで俺の記憶だって刺激されなきゃおかしい」
「まあ、それはそうですわね」
執事の可能性を否定できたところで何の得もない。
執事でなくとも、ホーコとは何らかの関係があるのは確実だろう。ルヴァンシュのもとへの同行をお願いされた時、ラーグは彼女の声から異様な圧力を感じた。己の思案を省略して服従したくなるような不思議な感覚。これが記憶の刺激だとしたら、記憶を失う前もホーコと関わりはあったのかもしれない。
記憶を取り戻すこと自体には変わらず興味がなかった。
けれど、このままでは他の目的も立てられない。
せめて、きっかけがほしい。目的を見つけるための。
「話は終わった? 続きがあるにしても歩きながらにしてね。この部屋を一通り見たら、主のところに戻るわよ」
サロリアの後に続き彼女と一緒に光る石に覆われた部屋を歩き回ってみたが、高台の上にも、その周囲にも特に目立った物は見当たらない。ラーグとホーコが倒れていた以外、部屋には何もなかった。
サロリアを先頭に、ホーコ、ラーグの順で最深部の出口へと向かう。
部屋を出る直前、ラーグは奥にある自分が目覚めた高台を振り返る。隠された部屋にある無意味とは思えない立派な高台を。
脳裏をよぎった何の根拠もない妄想を振り払い、ラーグは少し空いてしまったホーコとの距離を足早に縮めた。
「概ね同意するわ。覚えてるかもしれないけど、いま世界は4つの禁忌を持つ四英雄が支配してるの」
「いや、それも知らねぇな。支配してんのに『英雄』かよ。随分とちぐはぐな説明だな」
「かつては誰もが『英雄』と呼んでいたし、世界の支配権を得た今でも『英雄』と呼び続ける人は少なくないわ。それなりに支持されてるの」
「そりゃ大層な話だ。自分の記憶喪失で手一杯で、他人のことになんざ興味が湧かねぇけどな」
「あなたたち二人とも記憶喪失って度々言ってるけど、それってリバースの作用じゃなくて?」
なんだそりゃ――そう言いかけたラーグの頭に、一足遅れて知識が浮かぶ。
「ああ、なるほどな。お前はわかるか、ホーコ」
「え、ええ……この世界には不思議な力がいくつもありますが、リバースもその1つで、使えるのは生涯に一度きり……使い方は、まず『リバース』と声に出して自分のコアを取り出す……」
コアは心臓とも呼ばれ、生命活動に関わる一切の機能が集約されている。人間はコアを必ず1つ持ち、コアを失うこと即ち死亡と定義され世界から消滅する。リバースとは、命そのものであるコアを自ら取り出して特殊な方法で破壊することにより存在を世界に再誕させる行為だ。輪廻転生とは少し違う。リバースでは生前の容姿や能力を引き継ぐ。そのうえで、一度は消滅した肉体が世界のどこかで復活するのだ。
常識を超越した能力で、無制限には使えない。リバースを使えるのは生涯に一度きり。一度使ってしまえば、再誕した肉体ではリバースは使えない。それがリバースを行った証左となる。
「「リバース」」
ラーグは自分のコアを取り出そうと試みるも、何も起きなかった。知識では唱えた瞬間に感覚の変化が起きると記憶しているが、それもない。ホーコも同じようで、足と腕を開きドレスの布を広げた格好のまま、首を傾げている。ちなみに、リバースの発動に気合の加減は関係ない。
二人が発動できないのを見て、サロリアは確かめるように小さく「リバース」と声にした。
変化はすぐに起きた。白いエプロンに隠れるサロリアの胸から、輝く小さな角張った結晶が出現した。色合いは複雑で、刻々と色を変え続けている。印象とは違うが、例えるには虹色以外にないだろう。
「この虹色の結晶がコア。リバース以外にコアを取り出す方法はないわ。リバースで取り出したコアを破壊すると肉体が消滅して、世界のどこかに再構築される。再構築の時には記憶が失われるのが通説だったけど、最近、リバースした後に記憶を取り戻した実例が数件確認されたって話を聞いたわ」
さらっと希望を感じさせる情報を伝え、サロリアは「これ危ないから仕舞っておくわね」と自らのコアを胸に戻した。戻す時には特に宣言が必要なかった。
「リバースが使えないあたり、俺たちの記憶喪失はリバースの発動が原因で間違いなさそうだな。なんで使っちまったのかわかんねぇが、記憶が戻る可能性もあんだな。俺は感じてねぇけど、ホーコが会話しながらたまに刺激されてんのは兆候なんじゃねぇの?」
「そうかもしれませんわね。禁忌なんて言葉で刺激されるのは、かなり嫌な感じですけど」
「お前も四英雄の一人だったりしてな。そこんとこ、どうなんだよ。今も四英雄は全員健在なのか?」
「さぁね。生きてるかまでは把握してないわ。四英雄は世界の四大都市をそれぞれ管理してるはずだけど、他の都市の状況を知る術はないし。あたしの住むシャンロンは四英雄のルヴァンシュって奴が管理者なんだけど、聞き覚えは?」
訊かれた途端、ホーコの目が見開いた。頬を緩ませ、ぶんぶんと繰り返し首肯する。
「その名前っ! あるっ! ありますわっ! ですが、どんな方だったかまでは……でも、絶対に私の知ってる人です!」
「んな喜ぶなよ。四英雄って呼ばれるくらい有名なんだから、大抵の奴は知ってんじゃねぇの?」
「いいじゃないですの別に。記憶が戻る希望があるとわかったんですのよ? 貴方と違って」
「記憶なんざどうだっていいだろ。俺たちは記憶を失っても構わねぇと決断してリバースしたんだろ?」
「正論ばかり並べると嫌われますわよ。ねぇ、サロリアさん?」
「え、ええ、そうね。何を思ってリバースしたかなんて、あなたたちは覚えてないんだから」
サロリアの言う通りではあった。ホーコが誇らしげな顔をしていたから視界から外した。
ラーグは記憶を取り戻したいとまで思わないし、四英雄にも興味がなかった。ただ、一方で向かうべき場所も目的も持ち合わせていないのも事実。
自分でも驚くぐらい、ラーグには内から湧き上がる欲という感情がなかった。
「決めましたわ。四英雄のルヴァンシュさんに会いに行きます」
まぁ、そう言い出すのが自然だ。ホーコが目的を見つけたのであれば、欲がないのは記憶喪失が原因ではない。記憶を失う以前から、ラーグ自身がそういう無欲な性格だったのだろう。
「その前に、あたしの主に会ってもらうけどね。主の許可がないと手錠も外せないから」
ホーコが自由を縛られていることを、ラーグは言われて思い出した。
「さ、どうせシャンロンに行くなら、抵抗する理由もないわよね? ラーグも手を出してくれる?」
「俺はまだ行くなんて言ってねぇ。その『シャンロン』とかって場所、地名なら覚えてても良さそうなもんなのに、なんもピンとこねぇしよ。縁もない場所に行く理由もねぇだろ」
「残念だけど、あなたに選択権はないわ。あたしはヘイムダルの迷宮で見つけたモノを全て持って帰ってこいって命じられてるから」
「見ての通りモノじゃあねぇけど?」
「それがどんな形をしていようと、人でも化け物でもモノとして扱えって話だから」
言葉は穏やかでも、声色に冷酷な色が混じったのを感じた。
「嫌だ、と言ったら武力行使する気だな? わかった、そこまで覚悟してんなら従ってやるよ。他に目的があるわけでもねぇしな」
「物分かりが良くて助かるわ。主はちょっと冷徹だけど、悪い人じゃないから。あなたたちが禁忌と無関係とわかれば、解放してくれると思うわ。……まぁ、無関係でもないかもしれないけど」
「サロリアさんのご主人様に会ったあとで構いませんから、ルヴァンシュさんがどこにいるか教えてくださると助かりますわ」
「主に頼めば、教えるどころか話す場を設定してくれるかもしれないわね。あたしの主とルヴァンシュは顔見知りだから」
「なんて都合のいい! 決まりですわね。では、案内を頼みます」
ラーグの率直の感想として、サロリアの存在は怪しかった。記憶喪失のところに現れて、ホーコの記憶を刺激する情報を与えて目的に向かわせる。自分はともかく、ホーコを利用するために画策して行動しているとしても納得できる都合のよさだ。
考えすぎか。利用するのであれば、記憶を取り戻させるのではなく、取り戻されないよう誘導して自分の利となるよう動かそうとするはず。記憶を取り戻させることによるサロリアの利もあるかもしれないが、ラーグには特に思いつけなかった。
サロリアが近寄ってきて手錠を差し出した。
「そんなもん付けなくたって、ついていってやるよ」
「ラーグを信用してないわけじゃないわ。儀式みたいなものよ。ちょっとの間だから我慢して」
「わかったよ。自由が利かない間、身の安全は保障してくれよな」
「上から来られるのはちょっとムカつくけど、責任は持ってあげるわ」
「命を保障するって感じじゃねぇな。ま、一度死んじまったようなもんだし、ダメな時はダメでもいいか」
「そんな悲観しなくても、期待するような危険な状況にはならないわよ」
「どうかな」と短く釘を刺してラーグは両手を前に出した。サロリアの手から手錠が離れ、宙を移動した冷たい色の拘束具がラーグの自由に制限をかけた。
「サロリアさんのご主人様に会ったら、ラーグさんも一緒にルヴァンシュさんに会ってくださいますよね?」
「そっちは本気で関係ないし付き合う必要もねぇと思うんだが……なんだろうな。お前の命令には不思議と従いたくなる効力がある」
「『効力』ですか……やはり、貴方は私の執事だったのではないでしょうか。執事なら、繰り返しになりますが言葉遣いに気をつけてもらいたいですわね」
「それだけはねぇわ」
「なんて早い否定! 否定できるだけの確証もありませんのに」
「執事なら記憶を失う前のお前と一緒にいたはずだろ。だったら俺だけ『ルヴァンシュ』も『禁忌』も知らねぇってのは変だ。単語を聞いたタイミングで俺の記憶だって刺激されなきゃおかしい」
「まあ、それはそうですわね」
執事の可能性を否定できたところで何の得もない。
執事でなくとも、ホーコとは何らかの関係があるのは確実だろう。ルヴァンシュのもとへの同行をお願いされた時、ラーグは彼女の声から異様な圧力を感じた。己の思案を省略して服従したくなるような不思議な感覚。これが記憶の刺激だとしたら、記憶を失う前もホーコと関わりはあったのかもしれない。
記憶を取り戻すこと自体には変わらず興味がなかった。
けれど、このままでは他の目的も立てられない。
せめて、きっかけがほしい。目的を見つけるための。
「話は終わった? 続きがあるにしても歩きながらにしてね。この部屋を一通り見たら、主のところに戻るわよ」
サロリアの後に続き彼女と一緒に光る石に覆われた部屋を歩き回ってみたが、高台の上にも、その周囲にも特に目立った物は見当たらない。ラーグとホーコが倒れていた以外、部屋には何もなかった。
サロリアを先頭に、ホーコ、ラーグの順で最深部の出口へと向かう。
部屋を出る直前、ラーグは奥にある自分が目覚めた高台を振り返る。隠された部屋にある無意味とは思えない立派な高台を。
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