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愛の呪いを超えてゆけ(1)
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12月24日・夜 高守家のリビング
テーブルの上には、律が丁寧にオーブンで焼き上げたハーブチキンと、買ってきた色とりどりのオードブル。それに、二人で選んだ苺のたっぷり乗ったクリスマスケーキ。小さなツリーが窓際に飾られて、部屋の中にはほのかな柊と甘いホイップクリームの香りが漂っている。
「……あの、チキン、味は大丈夫でしたか?」
律が、少し不安そうに首を傾げる。顔はほんのり赤い。料理の後の温かさだけじゃない。柚瑠が食べてくれるのを、ずっと気にしていた。
「文句あるわけないだろ。めっちゃうまかった。……律の料理、前から好きだったけどさ、こうやってクリスマスに食えるなんて、贅沢ってやつだな」
柚瑠はソファに座り、マグカップを両手で包み込むように持ちながら微笑む。その視線があまりにも穏やかで、律はむずがゆくなってカップを見つめた。
「……よかった、です。すごく緊張してたんですけど……その、柚瑠さんが美味しいって言ってくれたから、安心しました」
「緊張してたのか?そりゃ……律の“本気”が出てたわけだ」
「……えっ、本気って」
「味に出てた。……気持ちも、ちゃんと」
その一言に、律の頬がパッと赤く染まった。
ふたりの間に静かな時間が流れる。テレビの音も、小さく絞ったまま。代わりに、遠くの教会の鐘の音が微かに聞こえた気がした。
律は、マグを置き、小さく息を吐く。そしてふと、ぽつりとこぼすように言った。
「……俺、これからも、ずっと柚瑠さんと一緒にいたいなって……思ってるんです」
それは、普段の律からすれば勇気のいる言葉だった。耳まで真っ赤で、視線はテーブルの一点に固定されたまま。
柚瑠はその様子を見て、ほんの少し口元をほころばせた。そして、ごく自然に言った。
「じゃあ、いろ」
「……えっ?」
「これからも一緒にいろ。――恋人として」
その言葉を聞いた瞬間、律の目が見開かれた。頬がさらに赤くなり、肩がピクリと震える。
「……い、今の……ほんとに、恋人って……!」
「ほんとに、だよ。律の気持ち、ちゃんと受け取った。……僕も、そう思ったから」
「……っ、わ、わぁぁあ……!!」
律がその場で立ち上がり、弾かれたように柚瑠に飛びついた。驚くほどの勢いに、柚瑠は少しバランスを崩しつつも、ちゃんと腕を広げて律を受け止める。
「う、嬉しいですっ……!本当に、ほんとうに……!」
「お、おい、落ち着けって」
「落ち着けないですっ、こんな、こんな幸せなこと言われて……!うわぁ……っ」
そのまま律は柚瑠の胸に顔を埋める。耳まで真っ赤で、嬉しさが全身から溢れていた。
柚瑠はそんな律の背中を軽くぽんぽんと叩きながら、口元をゆるめる。
「……まったく、律ってやつは。そんな顔されたら、余計甘やかしたくなるだろ」
「……じゃあ、甘やかして、ください……ずっと……」
「……ああ、ずっとな。恋人なんだから」
柚瑠は、照れ隠しのように軽く律の髪をくしゃっと撫でた。
窓の外では、小さな粉雪がちらつき始めていた。
ふたりの初めてのクリスマスは、そっと静かに、けれど確かに恋人同士としての時間へと変わっていく。
---
クリスマスの夜は静かに更けていく。
部屋の隅で瞬くツリーの灯りが、優しい影をふたりに落としていた。
ベッドの中。毛布の下、自然とくっついたまま、律は柚瑠の胸元に頬を寄せていた。
ぬくもりが、体にも心にもじんわりと染みてくる。
「……なんか、夢みたいです」
律の声はかすかに震えていて、それが嬉しさからだと、柚瑠はすぐに分かった。
「夢じゃないよ」
静かに笑って、柚瑠は律の髪を優しく撫でた。
「だってこうして、律が僕の腕の中にいるだろ?」
「……っ、そんなこと言うから……顔が熱いんですけど……」
律は毛布の中でぐしゃぐしゃに照れて、小さく身をよじる。
その動きがくすぐったくて、柚瑠はくっと喉を鳴らして笑った。
「可愛いな。ほんと、全部が律だなって感じだ」
「からかってませんか……?」
「からかってない。本気で言ってるよ」
いつになく真っ直ぐな声に、律の呼吸が止まりかける。
「……おやすみって、こんなに幸せな言葉だったんですね」
ぽつりと呟いた律の目が潤んでいて、柚瑠はその額にそっとキスを落とす。
「おやすみ、律。初めての恋人としての“おやすみ”だぞ。噛みしめとけ」
「……はい……柚瑠さん。おやすみなさい」
ぴたりと寄り添って、律は目を閉じる。
柚瑠の腕の中、そのままゆっくりと深い眠りに落ちていった。
その寝顔を見つめながら、柚瑠もそっと目を閉じる。
心の中で、そっと呟いた。
——これから毎晩、こうして「おやすみ」を言っていけたらいいな。
テーブルの上には、律が丁寧にオーブンで焼き上げたハーブチキンと、買ってきた色とりどりのオードブル。それに、二人で選んだ苺のたっぷり乗ったクリスマスケーキ。小さなツリーが窓際に飾られて、部屋の中にはほのかな柊と甘いホイップクリームの香りが漂っている。
「……あの、チキン、味は大丈夫でしたか?」
律が、少し不安そうに首を傾げる。顔はほんのり赤い。料理の後の温かさだけじゃない。柚瑠が食べてくれるのを、ずっと気にしていた。
「文句あるわけないだろ。めっちゃうまかった。……律の料理、前から好きだったけどさ、こうやってクリスマスに食えるなんて、贅沢ってやつだな」
柚瑠はソファに座り、マグカップを両手で包み込むように持ちながら微笑む。その視線があまりにも穏やかで、律はむずがゆくなってカップを見つめた。
「……よかった、です。すごく緊張してたんですけど……その、柚瑠さんが美味しいって言ってくれたから、安心しました」
「緊張してたのか?そりゃ……律の“本気”が出てたわけだ」
「……えっ、本気って」
「味に出てた。……気持ちも、ちゃんと」
その一言に、律の頬がパッと赤く染まった。
ふたりの間に静かな時間が流れる。テレビの音も、小さく絞ったまま。代わりに、遠くの教会の鐘の音が微かに聞こえた気がした。
律は、マグを置き、小さく息を吐く。そしてふと、ぽつりとこぼすように言った。
「……俺、これからも、ずっと柚瑠さんと一緒にいたいなって……思ってるんです」
それは、普段の律からすれば勇気のいる言葉だった。耳まで真っ赤で、視線はテーブルの一点に固定されたまま。
柚瑠はその様子を見て、ほんの少し口元をほころばせた。そして、ごく自然に言った。
「じゃあ、いろ」
「……えっ?」
「これからも一緒にいろ。――恋人として」
その言葉を聞いた瞬間、律の目が見開かれた。頬がさらに赤くなり、肩がピクリと震える。
「……い、今の……ほんとに、恋人って……!」
「ほんとに、だよ。律の気持ち、ちゃんと受け取った。……僕も、そう思ったから」
「……っ、わ、わぁぁあ……!!」
律がその場で立ち上がり、弾かれたように柚瑠に飛びついた。驚くほどの勢いに、柚瑠は少しバランスを崩しつつも、ちゃんと腕を広げて律を受け止める。
「う、嬉しいですっ……!本当に、ほんとうに……!」
「お、おい、落ち着けって」
「落ち着けないですっ、こんな、こんな幸せなこと言われて……!うわぁ……っ」
そのまま律は柚瑠の胸に顔を埋める。耳まで真っ赤で、嬉しさが全身から溢れていた。
柚瑠はそんな律の背中を軽くぽんぽんと叩きながら、口元をゆるめる。
「……まったく、律ってやつは。そんな顔されたら、余計甘やかしたくなるだろ」
「……じゃあ、甘やかして、ください……ずっと……」
「……ああ、ずっとな。恋人なんだから」
柚瑠は、照れ隠しのように軽く律の髪をくしゃっと撫でた。
窓の外では、小さな粉雪がちらつき始めていた。
ふたりの初めてのクリスマスは、そっと静かに、けれど確かに恋人同士としての時間へと変わっていく。
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クリスマスの夜は静かに更けていく。
部屋の隅で瞬くツリーの灯りが、優しい影をふたりに落としていた。
ベッドの中。毛布の下、自然とくっついたまま、律は柚瑠の胸元に頬を寄せていた。
ぬくもりが、体にも心にもじんわりと染みてくる。
「……なんか、夢みたいです」
律の声はかすかに震えていて、それが嬉しさからだと、柚瑠はすぐに分かった。
「夢じゃないよ」
静かに笑って、柚瑠は律の髪を優しく撫でた。
「だってこうして、律が僕の腕の中にいるだろ?」
「……っ、そんなこと言うから……顔が熱いんですけど……」
律は毛布の中でぐしゃぐしゃに照れて、小さく身をよじる。
その動きがくすぐったくて、柚瑠はくっと喉を鳴らして笑った。
「可愛いな。ほんと、全部が律だなって感じだ」
「からかってませんか……?」
「からかってない。本気で言ってるよ」
いつになく真っ直ぐな声に、律の呼吸が止まりかける。
「……おやすみって、こんなに幸せな言葉だったんですね」
ぽつりと呟いた律の目が潤んでいて、柚瑠はその額にそっとキスを落とす。
「おやすみ、律。初めての恋人としての“おやすみ”だぞ。噛みしめとけ」
「……はい……柚瑠さん。おやすみなさい」
ぴたりと寄り添って、律は目を閉じる。
柚瑠の腕の中、そのままゆっくりと深い眠りに落ちていった。
その寝顔を見つめながら、柚瑠もそっと目を閉じる。
心の中で、そっと呟いた。
——これから毎晩、こうして「おやすみ」を言っていけたらいいな。
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