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冬馬の作戦、店長の心拍。(1)
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翌々日・カフェの朝。
「おはようございまーす!」
いつもより元気な声で、宙が裏口から入ってきた。
カウンターでコーヒーをいれていた中川は、宙の顔を見るや否やビクリと肩を跳ねさせる。
「お、お、おう……おはよう……。」
「店長、先日はカラオケありがとうございました!
すごく楽しかったです!」
にこっと笑う宙の純粋な笑顔。
しかし――
(あの夜の……あの後……ラブホ……冬馬……。)
脳裏に一瞬フラッシュバックする冬馬の笑顔と、ぼやけた自分の記憶。
(……おわぁぁぁあああ……!!)
中川は一人で頭を抱え、湯気を噴き出すエスプレッソマシンみたいにプスプスと呻いた。
---
「……店長? どうかしました?」
「え、な、何もない! 何もない……!」
「……さっきから、顔赤いですよ?」
「気のせいだ! 熱いんだ今日は……。」
宙は心配そうに近づいてくるが、中川は妙に落ち着きなくカウンターの奥へ逃げた。
---
休憩室にて。
「……宙くん……。」
昼のアイドルタイム、厨房裏でコーヒー片手に中川がぽつりと声をかけた。
「はい?」
「……その……仮の話なんだけどさ……。」
「仮の話……?」
中川は人差し指でテーブルをとんとん叩きながら、目を泳がせる。
「……あのさ、もし……仮にだよ?
カラオケの後に……すごく酔っぱらって……気づいたら……なんか……その……」
「その?」
「……ラブホテルで……一線超えちゃってたら……ど、どう思う……?」
宙の目がまんまるになる。
「……店長、誰の話ですか?」
「いやだから“友達”の話!!」
中川は慌てて両手を振る。
「俺じゃない! 俺は全然そういうのないし! そもそも相手男だし! ありえないし!」
「……相手、男なんですか……。」
宙が小さく口元を押さえて、ぷっと笑いをこらえた。
「わ、笑うな!!」
「いえ、笑ってません……でもその“友達”……お酒の勢いなら仕方ないんじゃないですか?
……ちゃんと好きじゃなかったら、そこまでにはならないかもですけど。」
「……そ、そうか……。」
「それで“友達”は、後悔してるんですか?」
中川は目を伏せてコーヒーをひとくち。
「……いや、思い出すと……顔が熱くなって死にそうだけど……。」
「それ、多分、後悔じゃないですよ……。」
にやっと笑った宙の一言に、中川は耳まで真っ赤にしてカップを握りしめた。
(冬馬の顔……浮かべるだけで……なんか心臓痛いんだけど……。)
店長の悶絶タイムは、もう少し続きそうだった。
---
いつもより静かな午後のカフェ。
客足が落ち着き、ホールで宙が食器を拭いていると――
カランカラン。
「お邪魔しまーす。」
涼しい顔で冬馬が入ってくる。
奥のカウンターでレジ打ちをしていた中川が、心底イヤそうに顔をしかめた。
「……来たな。」
「店長、元気そうで何よりです。」
ぬるりと冬馬はカウンターの前に腰かけると、自分のスマホを取り出して、中川の目の前にそっと置いた。
---
「これ、見てくださいよ。」
「は?」
画面を覗き込んだ中川の顔が、一瞬で青くなる。
そこには――
あの夜、ほんのり赤く火照った顔で、目がとろんと蕩けている自分の姿。
「はああああああ!? おい、いつ撮ったこれ!!」
「まぁ、可愛かったから……つい。」
「ついってなんだ!! 消せ! 今すぐ消せ!!」
中川は慌ててスマホを奪おうとするが、冬馬はひょいとかわす。
「やだなぁ、そんなに慌てなくても。
俺だって軽々しく見せたりしませんよ。
……ただ。」
「……ただ?」
冬馬はにこっと笑い、指で自分の唇を軽くなぞった。
「この写真、誰にも見せない代わりに――
今度、俺とデートしてくれません?」
「お前ぇぇぇぇぇ!!!」
---
カウンターの奥で皿を拭いていた宙が、“ゴトッ”と皿を落としそうになる。
(……え、待って。寝た相手って……冬馬さんだったの……!?)
思わず口元を手で押さえ、声を堪える宙。
(そりゃあ店長が動揺してるわけだ……。)
---
「な、なに脅迫してんだよお前……!」
「脅迫じゃないですよ、俺の誠意あるお願いです。
店長、俺とデートすれば、この可愛い写真は俺だけの宝物に。」
「くっ……!! ……っくそ……!!」
店長は顔を覆って、絶望的に真っ赤になった。
---
「……俺、どっかで死んで生まれ変わりてぇ……。」
「いいじゃないですか、来世まで俺に飼われてください。」
「誰が飼われるか!!」
---
一部始終を見ていた宙は、
(……やっぱり冬馬さん、アタックの仕方ズルい……)
と心の中で呟いた。
コーヒーの香りが漂うカフェの中、中川の心拍数だけが今日も暴走していた――。
---
カフェカウンターにて
「……で、どうするんですか、店長。」
冬馬はスマホをクルクル指で回しながら、わざとらしく首を傾げる。
中川は頭を抱えて、まるで魂が抜けかけた人みたいにカウンターに突っ伏した。
「……わかった……わかったよ……行けばいいんだろ……デート……。」
「やった。」
冬馬はにこっと笑って、宙のほうをちらっと見る。
「宙くんも応援してくれるよな?」
「えっ……いや、俺は何も……。」
皿を抱えたままの宙は、複雑な笑みで曖昧に頷くしかなかった。
---
休憩室にて
「……はぁ……。」
中川は厨房奥の休憩室で一人、カップに入れたブラックコーヒーを一気に煽る。
(デートって……何するんだ……男同士で……。)
思わず昨夜の“記憶がない夜”が脳裏をかすめる。
(……アイツにまた可愛いとか言われたら……。無理……心臓が……。)
ガタン。
気配を感じて振り向くと、ドアの向こうで宙がひょこっと顔を出した。
「店長、大丈夫ですか……?」
「大丈夫なわけないだろ……。」
「……さっきから溜め息しか聞こえません。」
---
宙はコーヒーの空カップを片付けながら、少しだけ店長の隣に腰掛ける。
「……店長って、恋愛とか……ちゃんとしてきたんですか?」
「……ちゃんと、ってなんだよ。」
「いや……ほら……相手、冬馬さんなんですよね?」
「……っ……誰が言ったそれ……。」
「顔に出てました。」
中川は両手で顔を覆って、呻くしかなかった。
---
カフェホールにて
休憩を終えて戻った宙は、陽里がいつの間にかカフェの隅っこに座って資格勉強をしているのを見つける。
「……陽里。」
「お兄ちゃん、お疲れさま。お店忙しい?」
「……いや、忙しいのは店長の頭ん中だけ……。」
「ん? 何それ?」
陽里が小首を傾げて笑う。
宙はふと、“言わない方がいい”と思いつつも、
つい小さく漏らしてしまう。
「……店長、冬馬さんと……寝たっぽい……。」
「へっ?」
陽里の目がぱちくりと瞬き、次の瞬間、ページをめくる手が止まった。
「……お兄ちゃん、詳しく。」
「や、いや……俺も詳しくは……!」
「……なるほど……。」
陽里は小さく笑みを浮かべた。
(お兄ちゃんの店長さん……面白すぎる……。)
---
こうして、中川の秘密はじわじわと陽里にも伝わりつつあった――。
「おはようございまーす!」
いつもより元気な声で、宙が裏口から入ってきた。
カウンターでコーヒーをいれていた中川は、宙の顔を見るや否やビクリと肩を跳ねさせる。
「お、お、おう……おはよう……。」
「店長、先日はカラオケありがとうございました!
すごく楽しかったです!」
にこっと笑う宙の純粋な笑顔。
しかし――
(あの夜の……あの後……ラブホ……冬馬……。)
脳裏に一瞬フラッシュバックする冬馬の笑顔と、ぼやけた自分の記憶。
(……おわぁぁぁあああ……!!)
中川は一人で頭を抱え、湯気を噴き出すエスプレッソマシンみたいにプスプスと呻いた。
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「……店長? どうかしました?」
「え、な、何もない! 何もない……!」
「……さっきから、顔赤いですよ?」
「気のせいだ! 熱いんだ今日は……。」
宙は心配そうに近づいてくるが、中川は妙に落ち着きなくカウンターの奥へ逃げた。
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休憩室にて。
「……宙くん……。」
昼のアイドルタイム、厨房裏でコーヒー片手に中川がぽつりと声をかけた。
「はい?」
「……その……仮の話なんだけどさ……。」
「仮の話……?」
中川は人差し指でテーブルをとんとん叩きながら、目を泳がせる。
「……あのさ、もし……仮にだよ?
カラオケの後に……すごく酔っぱらって……気づいたら……なんか……その……」
「その?」
「……ラブホテルで……一線超えちゃってたら……ど、どう思う……?」
宙の目がまんまるになる。
「……店長、誰の話ですか?」
「いやだから“友達”の話!!」
中川は慌てて両手を振る。
「俺じゃない! 俺は全然そういうのないし! そもそも相手男だし! ありえないし!」
「……相手、男なんですか……。」
宙が小さく口元を押さえて、ぷっと笑いをこらえた。
「わ、笑うな!!」
「いえ、笑ってません……でもその“友達”……お酒の勢いなら仕方ないんじゃないですか?
……ちゃんと好きじゃなかったら、そこまでにはならないかもですけど。」
「……そ、そうか……。」
「それで“友達”は、後悔してるんですか?」
中川は目を伏せてコーヒーをひとくち。
「……いや、思い出すと……顔が熱くなって死にそうだけど……。」
「それ、多分、後悔じゃないですよ……。」
にやっと笑った宙の一言に、中川は耳まで真っ赤にしてカップを握りしめた。
(冬馬の顔……浮かべるだけで……なんか心臓痛いんだけど……。)
店長の悶絶タイムは、もう少し続きそうだった。
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いつもより静かな午後のカフェ。
客足が落ち着き、ホールで宙が食器を拭いていると――
カランカラン。
「お邪魔しまーす。」
涼しい顔で冬馬が入ってくる。
奥のカウンターでレジ打ちをしていた中川が、心底イヤそうに顔をしかめた。
「……来たな。」
「店長、元気そうで何よりです。」
ぬるりと冬馬はカウンターの前に腰かけると、自分のスマホを取り出して、中川の目の前にそっと置いた。
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「これ、見てくださいよ。」
「は?」
画面を覗き込んだ中川の顔が、一瞬で青くなる。
そこには――
あの夜、ほんのり赤く火照った顔で、目がとろんと蕩けている自分の姿。
「はああああああ!? おい、いつ撮ったこれ!!」
「まぁ、可愛かったから……つい。」
「ついってなんだ!! 消せ! 今すぐ消せ!!」
中川は慌ててスマホを奪おうとするが、冬馬はひょいとかわす。
「やだなぁ、そんなに慌てなくても。
俺だって軽々しく見せたりしませんよ。
……ただ。」
「……ただ?」
冬馬はにこっと笑い、指で自分の唇を軽くなぞった。
「この写真、誰にも見せない代わりに――
今度、俺とデートしてくれません?」
「お前ぇぇぇぇぇ!!!」
---
カウンターの奥で皿を拭いていた宙が、“ゴトッ”と皿を落としそうになる。
(……え、待って。寝た相手って……冬馬さんだったの……!?)
思わず口元を手で押さえ、声を堪える宙。
(そりゃあ店長が動揺してるわけだ……。)
---
「な、なに脅迫してんだよお前……!」
「脅迫じゃないですよ、俺の誠意あるお願いです。
店長、俺とデートすれば、この可愛い写真は俺だけの宝物に。」
「くっ……!! ……っくそ……!!」
店長は顔を覆って、絶望的に真っ赤になった。
---
「……俺、どっかで死んで生まれ変わりてぇ……。」
「いいじゃないですか、来世まで俺に飼われてください。」
「誰が飼われるか!!」
---
一部始終を見ていた宙は、
(……やっぱり冬馬さん、アタックの仕方ズルい……)
と心の中で呟いた。
コーヒーの香りが漂うカフェの中、中川の心拍数だけが今日も暴走していた――。
---
カフェカウンターにて
「……で、どうするんですか、店長。」
冬馬はスマホをクルクル指で回しながら、わざとらしく首を傾げる。
中川は頭を抱えて、まるで魂が抜けかけた人みたいにカウンターに突っ伏した。
「……わかった……わかったよ……行けばいいんだろ……デート……。」
「やった。」
冬馬はにこっと笑って、宙のほうをちらっと見る。
「宙くんも応援してくれるよな?」
「えっ……いや、俺は何も……。」
皿を抱えたままの宙は、複雑な笑みで曖昧に頷くしかなかった。
---
休憩室にて
「……はぁ……。」
中川は厨房奥の休憩室で一人、カップに入れたブラックコーヒーを一気に煽る。
(デートって……何するんだ……男同士で……。)
思わず昨夜の“記憶がない夜”が脳裏をかすめる。
(……アイツにまた可愛いとか言われたら……。無理……心臓が……。)
ガタン。
気配を感じて振り向くと、ドアの向こうで宙がひょこっと顔を出した。
「店長、大丈夫ですか……?」
「大丈夫なわけないだろ……。」
「……さっきから溜め息しか聞こえません。」
---
宙はコーヒーの空カップを片付けながら、少しだけ店長の隣に腰掛ける。
「……店長って、恋愛とか……ちゃんとしてきたんですか?」
「……ちゃんと、ってなんだよ。」
「いや……ほら……相手、冬馬さんなんですよね?」
「……っ……誰が言ったそれ……。」
「顔に出てました。」
中川は両手で顔を覆って、呻くしかなかった。
---
カフェホールにて
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「……陽里。」
「お兄ちゃん、お疲れさま。お店忙しい?」
「……いや、忙しいのは店長の頭ん中だけ……。」
「ん? 何それ?」
陽里が小首を傾げて笑う。
宙はふと、“言わない方がいい”と思いつつも、
つい小さく漏らしてしまう。
「……店長、冬馬さんと……寝たっぽい……。」
「へっ?」
陽里の目がぱちくりと瞬き、次の瞬間、ページをめくる手が止まった。
「……お兄ちゃん、詳しく。」
「や、いや……俺も詳しくは……!」
「……なるほど……。」
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