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しおりを挟む「そうか。そうだな」
宵闇は親指で唇をなぞりながら小さく頷く。こいつの親指、やけに深爪だな。爪、噛むんだろうか。
「じゃあ、そこはそうしよう。でも、Tears for Fearはそのままで」
「何で」
「これは、俺がやりたいんだ。お前と初めて合わせた曲だから、最初のライブでやりたい」
意外過ぎる理由にちょっと固まる。私情挟みすぎだろそれ。俺は流れを考えてLike Abyssの方が盛り上げられるって考えたんだよ。イベントのオープニングアクトなんだ。全力でぶち上げに行った方がいい。
「オープニングアクトなんだし、TearsよりAbyssの方が盛り上がるだろ」
「Tearsも充分盛り上がるから大丈夫だ」
「まあな? でも俺はAbyssがいいと思う」
「これだけは譲れない。お前と一緒に初めてやるライブはこの一回だけだからな」
そりゃそうですけどね。初めては2回ないわ。ダメだこりゃ。しょうがない、Tearsが盛り上がらない曲って訳でもないし、俺が譲るか。
「わかった。じゃあ、このセットリストで行こうぜ」
「ああ。いいライブにしような」
「勿論。イベントだからって手は抜かねぇからな」
寧ろ、イベントこそ気合いを入れる場だ。ここで新規客をつかむことが大事だ。それには持ってる力を全部ぶつけないと。客だってバカじゃない。気を抜いたプレイはすぐに見抜く。
「あと、明日のミーティングで、今後の方向性と目標をはっきりさせといてくれ」
これが今、何より大事だ。礼華だけはどうなのかよくわからんが、朱雨と綺悧はスキルアップが課題だってことは理解したと思う。どういう方向へスキルアップしていくのか、これからどんな音楽をやって行くのか。それを示しておかないと、どう着いて行こうかってのも考えられないだろう。
目標が海外進出なのはそれぞれわかってるだろうけど、これもある程度具体的にした方がいい。例えば再来年、2021年にヨーロッパでアルバムリリースとライブ、っていうふうに。こっちの意志を明確にして、事務所とレコード会社にも動いてもらわなきゃいけない。残り少ない年内はスキルアップに集中して、年明け早々に向こうの関係者にアピールする為の現在のデモ音源を制作して準備を進めるべきだ。
そんなようなことを宵闇に話す。ヤツは真面目な顔で黙って頷きながら聞き、息をついた。
「俺はそこまで全然頭がまわってなかったな」
「ちょっとくらい考えただろ?」
「いや。メジャーデビューだって、普通に活動してたら向こうから来た話だったんだ。レコード会社の担当が海外行きましょう、なんて言うから、動いてくれるもんだと思ってた」
「バカ、甘いな」
今でこそ海外からお呼びがかかるディスコードでも、最初はそれくらいのことはやって海外にアピールしたんだ。ベルノワール程度のバンドが、そんなこともしないで呼ばれるわけがない。「向こうから呼ばれる」は、その後の目標だ。
働きかけなくても、海外から要請があるアーティストももちろん存在する。でも、そんなのは数える程だ。そこにベルノワールの席はない。
「そうだな、俺はだいぶ甘く見てた。夕が来てくれて良かったよ」
「だろ?」
ニヤッと笑ってやると、薄い笑みを浮かべる。出て来たな、リーダー宵闇。待ってたぞ。
「その辺とりまとめて、ミーティングで話す。礼華もスキルアップの必要性は感じてるみたいだしな」
「そうか、そんなら良しだ。礼華、昨日会った時もあんまり話せなかったから、気になってたんだよな」
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