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しおりを挟む宵闇は膝で立ち上がって、俺の背後にまわる。そして、俺の背中からそっと抱きしめてきた。
「えっ? おい!?」
肩にヤツの顎が乗ってる。背中はしっかり密着してる。いやいやいや、口で説明してくれたらいいんだよ、こんなの。
少しずつ、腕に力が込められていくのがわかる。ダメだこれ、ドキドキしちまう。
「宵闇、なあ」
何故か宵闇は答えない。黙ってそのまま俺をぎゅっと抱きしめている。俺はどうしたらいいのかわからねぇ。
多分、俺の方が力はあるから、解こうとすればそんなに難しいことじゃないんだけど。
何か伝わって来ちゃうんだよな、これ。顔は見えないけど、こいつめちゃめちゃ幸せそうなんだよ。
何も言えずに、黙り込む。
こいつが、俺のことを好きだとして。だとして、っていうか、もう確実に好きなんだと思うけど。俺は、こいつに恋愛感情はない。男だから無理、とか、男のくせに俺に惚れるな迷惑だ、とかは全然思ってないけど、単純に、そんなことは考えてなかったんだ。
やっと、こいつ友達かなって感じになってきたとこだから、これは大分戸惑う。簡単に言えば、キャパオーバーだ。
この状況で起こすべきリアクションが見つからない。
「宵闇…あの、さ」
その先の言葉が見つからないまま、宵闇に声をかける。
「夕、言いたいことがあるんだけど」
うわ、ヤバい。来た。今度こそ来た。言うなよ、その先。
店員来ねぇかな。来なかったら、もうこの店来ないぞ。
俺のそんな念は通じず、ノックの音は今度こそ聞こえて来ない。何にもオーダーしてないもんな。生中オーダーしときゃ良かった。
そのままじっとしていると、宵闇の吐息が耳にかかる。そして、唾を飲み込む音が肩に触れてる喉から響いてくる。
こいつも、迷ってるんだ。言おうかどうしようか。俺達は、ただの友達じゃない。バンドのメンバーで、リズム隊の相棒で、音作りのパートナーだ。それも、その形がやっと見えたばっかりの。もし俺がこいつの言葉を完全に拒絶して、その形までがぶち壊しになっちまうのは、こいつも怖いはずだ。
俺だって、やっと面白くなって来たこの仕事から、気まずくなったからっていうしょうもない理由で手を引きたくはない。
だから、今は言わないでくれ。頼む。
「…夕、す」
「宵闇! ちょ、俺、便所行ってくる!」
「えっ」
緊張感に耐え切れずに、見え透いた嘘が口から飛び出した。それに驚いて緩んだ宵闇の腕をすり抜ける。
「生中頼んどいてくれ。じゃ」
慌てて立ち上がり、個室を出た。
あーあ、宵闇、ぽかんとしてんじゃねぇかな。
…ごめんな。
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