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しおりを挟む「夕は…」
あ、そうか。この流れで俺に何もないのはおかしいか。俺も宵闇の指揮下にいる感じにしておかないとな。
で、何言うんだ?
「…夕は、そうだな…」
ほれ、はいって言ってやるから何か言えよ。ったって、何もねぇよな。
「まあ、お前はまずここでのバンドプレイに慣れてくれ」
「はーい」
ま、その辺だよな。それくらいしかないし。よく絞り出した、えらいぞ。
「それぞれ基本的な課題はそれだ。必ず実行しろ」
足を組んで、ちょっとそっくりかえりながら冷静に伝達する宵闇は、初めて会った時のあいつだ。今ならカッコいいじゃんって思えるな。この偉そうぶり。
少し間を置き、じろりと全体を見渡して、もう一度口を開く。
「それから、これからの大きい目標だが」
よし来た。必ず出来る感じで言えよ。
「再来年。2021年中に海外でのアルバム発売を目指す」
うん、そうだ。その具体的な提示は大事だ。
「えっ」
マネージャーは驚いて声を出す。これ、昨夜俺が仕込んだから、マネージャーとの打ち合わせで出てない話だもんな。
宵闇はマネージャーを横目で見て軽く頷く。
「年明けからその為に具体的に動き出す。まずはこのラインナップでの完全に新しいデモ音源を制作して、対外的なアピールに使っていく。その為にも年内中の演奏力のスキルアップは急務だ。心してかかってくれ」
「宵闇くん、本気なの?」
ん? 逆にマネージャーは本気じゃないのか? 随分戸惑った顔だな。あれか、適当に「カッコいいからDIR EN GREYみたいに海外行けるよー」とか乗せただけか。甘いな。こっちは本気になってんだよ。それも、音楽で勝負に出てやる。
宵闇はマネージャーの様子をちらっと見て、それに気付いたのか気付かなかったのか、落ち着いた表情で「ああ」と答える。
「再来年の前半に、アルバムのリリースは必ずする。そのアルバムを、ヨーロッパとアジアでその年のうちにリリースしよう。最悪でも、契約までは持っていく」
完璧だ。大きな目標と、それに至るステップを明確にした。これで、ただの大言壮語や夢じゃなく、これから進むべき道なのだと誰もが捉えられるはずだ。
見つめている綺悧の目は輝いている。目先のボイストレーニングという課題と、未来の海外進出が一本に繋がったな。それを繋いだのは、綺悧の神たる宵闇だ。こいつのカリスマ性は、案外伊達じゃない。
礼華と朱雨も、改めて顔を引き締めて、姿勢を正す。こいつらにも、そこまで昇って来てもらわなきゃ困るからな。
「あのね、宵闇くん」
マネージャーは困ったように宵闇に話しかけるが、宵闇はそちらを見ない。
これ、ビンゴだな。この事務所、ベルノワールの為にそこまで動く気はない。そうだとしても、俺らはその為に積極的に動く。俺らの未来は、もうお前らの都合のいいようには流されねぇぞ。
勝手に顔がニヤリと笑う。面白いじゃねぇか。やってやるよ。
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