Hate or Fate?

たきかわ由里

文字の大きさ
215 / 233

36-22

しおりを挟む

 SEが消え、鼓膜を叩くクリック音。1、2、3、4。同時にヒューズが弾け飛ぶ。
 1曲目。Exitで進撃開始だ。一音目からフロアに切り込むスピードナンバー。フロアの前方は早くも揺れている。あの辺りにベルノワールファンが集まってるんだな。
 抑揚が少ないAメロから、メロディアスなサビに突入すると、その集団の手が一斉に頭上に上がり、掌が舞い踊る。映像で何となくは見てたけど、実際にこうやって見るとなかなか壮観だ。ほぼ綺麗に揃ってる。
 アタマっからいいノリだ。ファンの皆にも、この場は頼んだ。このノリが、更に周囲を巻き込むんだ。熱くなれ。
 立て続けに、Clash Rightで更にフロアを煽る。結構頭振ってくれてる子も多いな。見ていて気持ちいい。どんどんぶっ壊れろ。俺が壊すよ。重いツーバスを、鋭いクラッシュを、遠慮なくぶち込んでやるから。
 この2曲でベルノワールファンはすっかり熱くなった。俺がいるベルノワールを、既存のファンが受け入れてくれたって感じる。今日この時間にここに来られてるファンはほんの一部だろうけど、少なくとも、ここにいるヤツらは俺の音で楽しんでくれてる。
「はい! こんばんは、ベルノワールです。まだこんにちは、かな」
 スタートダッシュから攻撃的なヴォーカルを見せ付けていた綺悧が、笑いながら挨拶をする。
「今日は、Monster's Foolish Nightに来てくれてありがとう!」
 歓声と混じり合うメンバーを呼ぶ声。ちゃんと、俺らを見に来てくれた人たちだ。
「はじめましての方もよろしくお願いします!」
 後ろ姿で表情はわからねぇけど、綺悧のテンションも機嫌も好調だな。
「今日は俺たちベルノワール、オープニングアクトとしてこのイベントに初めて参加させてもらいました。楽しんで行って下さい!」
 観客の歓声とのやり取りのテンポがやっぱり上手いな。歓声を断ち切らず、かと言って待ち過ぎず。
「この後は、ゲイズ、サンドリオン、そして主催のセルスクェアと、ヤバいバンドが続くので、俺もね、楽しみなんですよ。最後まで盛り上がっていきましょう!」
 客は少なめだけど、めちゃめちゃレスポンスがいいな。ますます気分が乗ってくる。ダメならダメで逆に燃えるけどさ。
「で、皆気付いてると思うけど、今日からベルノワールに新メンバーが加入しました!」
 おっ、来たな。俺の名前を呼ぶ声が湧き上がる。皆ちゃんと、俺の存在を知っててくれてる。今までのSNSでの反応と違うリアルな声に、加入したんだってことを実感する。
 立ち上がってフロアに大きく手を振ると、わっと振り返してくれる。
「もう結構名前覚えてもらってるね! はい、オンドラムス! 夕!!」
 さっきよりたくさんの声が「夕」って叫んでる。
 最初は、何だこの名前って思ったっけ。「ユウ」って音はいいとして、「夕」って字は地味だし、ダサい気がした。でもさ、今なら宵闇がこの字を選んだ気持ちも意味もわかるし、こんなにぴったりな字はねぇよ。
「夕」と「宵」は、必ず隣合ってる。昼の終わりは「夕」で、夜の始まりが「宵」。宵闇は俺を初めて見た時に、ここまで想像したのかな。あいつ、いつから俺のこと好きなんだろう。
 これはヤツの「隣にいて欲しい」っていう願いだったのかも知れねぇ。初対面で告白されてたってことか。その名前を使い続けるってことは、結婚指輪並みに重いじゃねぇか。
 隣にいるよ、ずっと。俺らは「夕」と「宵」なんだからな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寄生虫の復讐 ~美咲の冷徹な一刺し~

スカッと文庫
ミステリー
「お前みたいな寄生虫はゴミだ」 10年尽くした夫・雅也から突きつけられたのは、離婚届と不倫相手。 彼は知らない。私が家を飛び出した「サカモト・ホールディングス」の令嬢であることを。 そして明日、彼が人生を賭けて挑む調印式の相手が、私の実父であることを。 どん底に叩き落とされたサレ妻による、容赦なき「経済的破滅」の復讐劇。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

幼き改革者、皇孫降臨 〜三歳にして朝廷を震わせる〜

由香
キャラ文芸
瑞栄王朝の皇孫・凌曜は、わずか三歳。 泣かず、騒がず、ただ静かに周囲を見つめる幼子だった。 しかしその「無邪気な疑問」は、後宮の不正を暴き、腐敗した朝廷を揺るがしていく。 皇帝である祖父の絶対的な溺愛と後ろ盾のもと、血を流すことなく失脚者を生み、国の歪みを正していく凌曜。 やがて反改革派の最後の抵抗を越え、彼は“決める者”ではなく、“問い続ける存在”として朝廷に立つ。 これは、剣も権謀も持たぬ幼き改革者が、「なぜ?」という一言で国を変えていく物語。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

処理中です...