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36-22
しおりを挟むSEが消え、鼓膜を叩くクリック音。1、2、3、4。同時にヒューズが弾け飛ぶ。
1曲目。Exitで進撃開始だ。一音目からフロアに切り込むスピードナンバー。フロアの前方は早くも揺れている。あの辺りにベルノワールファンが集まってるんだな。
抑揚が少ないAメロから、メロディアスなサビに突入すると、その集団の手が一斉に頭上に上がり、掌が舞い踊る。映像で何となくは見てたけど、実際にこうやって見るとなかなか壮観だ。ほぼ綺麗に揃ってる。
アタマっからいいノリだ。ファンの皆にも、この場は頼んだ。このノリが、更に周囲を巻き込むんだ。熱くなれ。
立て続けに、Clash Rightで更にフロアを煽る。結構頭振ってくれてる子も多いな。見ていて気持ちいい。どんどんぶっ壊れろ。俺が壊すよ。重いツーバスを、鋭いクラッシュを、遠慮なくぶち込んでやるから。
この2曲でベルノワールファンはすっかり熱くなった。俺がいるベルノワールを、既存のファンが受け入れてくれたって感じる。今日この時間にここに来られてるファンはほんの一部だろうけど、少なくとも、ここにいるヤツらは俺の音で楽しんでくれてる。
「はい! こんばんは、ベルノワールです。まだこんにちは、かな」
スタートダッシュから攻撃的なヴォーカルを見せ付けていた綺悧が、笑いながら挨拶をする。
「今日は、Monster's Foolish Nightに来てくれてありがとう!」
歓声と混じり合うメンバーを呼ぶ声。ちゃんと、俺らを見に来てくれた人たちだ。
「はじめましての方もよろしくお願いします!」
後ろ姿で表情はわからねぇけど、綺悧のテンションも機嫌も好調だな。
「今日は俺たちベルノワール、オープニングアクトとしてこのイベントに初めて参加させてもらいました。楽しんで行って下さい!」
観客の歓声とのやり取りのテンポがやっぱり上手いな。歓声を断ち切らず、かと言って待ち過ぎず。
「この後は、ゲイズ、サンドリオン、そして主催のセルスクェアと、ヤバいバンドが続くので、俺もね、楽しみなんですよ。最後まで盛り上がっていきましょう!」
客は少なめだけど、めちゃめちゃレスポンスがいいな。ますます気分が乗ってくる。ダメならダメで逆に燃えるけどさ。
「で、皆気付いてると思うけど、今日からベルノワールに新メンバーが加入しました!」
おっ、来たな。俺の名前を呼ぶ声が湧き上がる。皆ちゃんと、俺の存在を知っててくれてる。今までのSNSでの反応と違うリアルな声に、加入したんだってことを実感する。
立ち上がってフロアに大きく手を振ると、わっと振り返してくれる。
「もう結構名前覚えてもらってるね! はい、オンドラムス! 夕!!」
さっきよりたくさんの声が「夕」って叫んでる。
最初は、何だこの名前って思ったっけ。「ユウ」って音はいいとして、「夕」って字は地味だし、ダサい気がした。でもさ、今なら宵闇がこの字を選んだ気持ちも意味もわかるし、こんなにぴったりな字はねぇよ。
「夕」と「宵」は、必ず隣合ってる。昼の終わりは「夕」で、夜の始まりが「宵」。宵闇は俺を初めて見た時に、ここまで想像したのかな。あいつ、いつから俺のこと好きなんだろう。
これはヤツの「隣にいて欲しい」っていう願いだったのかも知れねぇ。初対面で告白されてたってことか。その名前を使い続けるってことは、結婚指輪並みに重いじゃねぇか。
隣にいるよ、ずっと。俺らは「夕」と「宵」なんだからな。
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