五ツ星ホテルのホテルマンが多忙でトイレに行けずおしっこを限界おもらしする話

なまご

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本編

【中編】



ゲストの車はすぐにエントランスへ到着した。
車を誘導し、いつものようにゲストを出迎える藤堂の膝は僅かに揺れている。

「ようこそ、アルカディア・パレスへ」

焦りで震えそうになる声をなんとか抑え、目の前のゲストのもてなしに全神経を集中させながらも、藤堂は同僚の佐竹が戻るのを待った。
荷物の重さがダイレクトに膀胱に響く。
腹の内側をくすぐられるような疼きが藤堂の集中を削ぎそうになるが、それでもなんとかゲストをベルスタッフの里田へ引き継ぎ、自らはバレーサービスのために車に乗り込んだ。
ゲストの車はシートが前に詰まっていて、藤堂の長身が縮こまって膀胱の圧迫をキツくする。

(マズい、シートに座ると我慢が………戻ったら早くトイレに…)

藤堂は他のゲストに見られることを恐れたが、それでもじっとしていると今にも先端から小便が溢れそうになり、身体を弾ませたり前後に揺すって堪えつつどうにか駐車を済ませた。
フロントに素早く鍵を預けると、普段より速い歩調でエントランスへ向かう。
チラリと時計に目をやれば19時をとうに過ぎていた。もう佐竹が着替えから戻っているはずだ。
藤堂は顔だけ出してすぐにバックヤードへ向かうつもりでエントランスに到着するが、そこに佐竹の姿はなかった。

(何だ……?何か対応中か?早くトイレに行きたいのに……!)

藤堂の足は無意識に小さくステップを踏んでいる。再び時計に目をやると、次のゲストの到着時間も迫っていた。

(だめだ、もう漏れそうだ……このままだとサービスにも影響する)

インカムで呼びかけようと手を伸ばしたところで、イヤホンから無線のノイズが聞こえ出す。
それはフロントからの伝達だったが、その言葉に藤堂は一瞬頭が真っ白になった。
それはドアマンの佐竹が体調不良で帰宅したという連絡だった。
フロントスタッフの落ち着いた声色が、藤堂に冷たく響く。

(嘘だろ…そんな風には…………いや、仕方ない。次のゲストが来る前に抜けるしかない。もう我慢できない…!)

藤堂はドアマンとしてエントランスを空けることを避けたかったが、それでもこのまま我慢を続ければゲストへのサービスの質が落ちることは明白だった。
それどころか、下着を濡らす恐れさえある。
それはドアマンとして、ホテリエとして最悪の失態だ。

エントランスを外す報告をしようとインカムに手を伸ばしたとき、再び藤堂の予想外のことが起こる。里田が少し慌てた様子でロビーから顔を出した。

「これからチェックアウトされるゲストにタクシーを1台お願いします!」

里田が返事を待たず早足でロビーへ戻っていく。
ガラス扉の向こうでゲストの溝下の側を荷物カートを押した里田が会釈をしつつ通り過ぎる。

「タ…タクシー……」

思わず掠れた声が出た。
先程のバレーサービスの際に圧迫されたことで膀胱の限界がすぐそこまで近付いていた。
しかし藤堂はすぐさま頭を切り替える。タクシーを呼ぶこと自体は1分もかからない。タクシーが到着する前には戻れるはずだと、インカムに手を伸ばした。
しかしインカムのボタンを押した途端、イヤホンから乱れたビープ音が鳴り響く。
瞬間的に藤堂は送信故障だと気が付き、即座にフロントへ駆け出した。ゆっくり歩いていては間に合わない。
ホテルの優雅さを損なう行いだと理解していた藤堂はプライドが傷付けられる想いでフロントに飛び付いた。
慌ててやってきた藤堂の姿にフロントスタッフが目を丸くする中で、藤堂は「タクシー1台お願いします」と早口になるのを抑えきれずに伝える。藤堂の足はカウンターの影で控えめに交差していた。
フロントスタッフが受話器を手にしたのを見届け、ほとんどその場から立ち去りながら藤堂は「すぐ戻ります」と告げたが、別のフロントスタッフが急いでそれを引き止めた。

「藤堂さんタクシー1台キャンセル出てます!もうエントランス到着します」

藤堂の様子に、急ぎの案件だと思ったのであろう。フロントスタッフが早口に言う。藤堂は息を飲んだ。

「ッ少し抜ける時間ありますか」
「ゲストのチェックアウトは済んでます」
「…かしこまりました」

震える声を隠し、藤堂はそう答えざるを得なかった。まだブリーフィングでスタッフが抜けている時間だ。
間が悪いことに、この時間は藤堂が動くしかなかった。

(スムーズに行けばそんなに時間はかからない。ギリギリ間に合うはずだ。大丈夫…落ち着け…)

藤堂は乱れた呼吸を整え、ハンカチで手早く額の汗を拭うと笑顔でゲストのもとへ向かう。
途中何度も限界を超えそうになったものの、ドアマンとしての信念でどうにか耐えることができた。
ゲストの乗るタクシーが見えなくなるまで見送ったあと、藤堂はインカムを手にロビーに振り返る。
足は駆け出す一歩手前だった。
ロビーから、先程フロントへ走った藤堂よりも慌てて走ってくる人影が見える。藤堂は嫌な予感がした。
エントランスに里田が顔を青くして飛び込んでくる。

「藤堂さん…!」里田は怯えたような、縋るような目で藤堂に駆け寄る。「先ほどチェックインされた溝下様のスーツケースを、今チェックアウトのゲストに渡してタクシーに乗せちゃいました!」

ほとんど無意識にロビーを見ると、フロントからゲスト――おそらく溝下の、動揺した声がエントランスの藤堂のもとまで微かに届く。
藤堂は目眩のように頭がクラクラとした。
だが大きなトラブルに、藤堂はやるべきことだけは自然と思い浮かんだ。

「…里田、急いでタクシー会社に電話して荷物の追跡をするようフロントに依頼して。チェックアウトされたゲストの予約情報の確認も。それから――」

藤堂は里田の様子に気付いて言葉を止めた。
初めての大きな失敗に動揺している里田は、身体の前で組み合わせた手が大げさなほどに震えていた。

「藤堂さん 私……どうしましょう……」

藤堂は一瞬眉を寄せ、自分を落ち着かせるため軽く目を瞑った。
藤堂自身も新人のころは当然ミスをしたことがある。その時の経験が自然と藤堂に、新人のミスは先輩がフォローすべきだと思わせた。

「…落ち着いて。ホテリエとして、とにかくゲストのことを第一に考えるんだ。今、荷物を失って一番不安なのは溝下様だ。溝下様は………私が対応する」
「はい…っ」

里田は何とか気持ちを立て直したようで急いでフロントに向かっていく。

(行くしかない。耐えきるしかない。最悪、下着が少し濡れるくらいなら……誤魔化せる)

藤堂は服を整え、震える手でシルクハットを被り直した。
アルカディア・パレスのホテリエとして、ゲストの信頼を失うわけにはいかないと気持ちを強く持つ。
だが決心とは裏腹に足を一歩踏み出す度に重く張り詰めた膀胱が振動し、括約筋がその圧力に屈しそうになる。
自然と震える膝に藤堂の気持ちは折れそうになるが、責任感に突き動かされてゲストの溝下のもとへ急いだ。
フロントの脇でスタッフと話している溝下の視界に入る前に、藤堂は小さく息を吐く。

(いつも通り、ゲストに真摯に向き合うんだ。大丈夫だ、出来る。やり遂げる。必ず……)
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