星導の魔術士

かもしか

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第一章 魔術学校編

第23話 選抜大会予選【1】

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 天秤の民が集いし学園都市エルミディア、ここに集まるは我こそ最強と名を上げる大勢の魔術師達。

 今日こそが星間魔術大会に出場するための選抜大会である。
 レント達もこの日に向けて研鑽を積み、より良いコンディションで臨んでいた。

「調子はどうだい? レント」
「あぁ、万全さ。目の調子もいい」
「私もいい」

 3人1チームで登録となるこの大会。
 予選では3ブロックに分けられたバトルロワイヤル制らしく、予選でこの3人と戦うことは無い。
 3ブロックのうち上位5チームのみが本戦出場でき、チームのうち1人でもそこに入れればその人のチームは進めるようだ。

「ということは、最大で15チーム最低でも5チームということかな」
「例年だと50チームが参加して10チームくらいになるらしいよ」
「へぇ」

 ミラの事前情報だと大体5分の1になるらしい。
 そう考えると思ったよりも難しいとも思えるし妥当なところとも思える。

「と言っても、僕たちには……ねぇ」
「ん、レントがいる。本戦は貰った」
「えぇ」

 レントの力はやはり味方としたらかなり大きく、チームにいるだけで本戦出場は間違いない。
 これがクラスの総意であった。

「そんなかなぁ? だって大人の人もいるわけでしょ?」
「いるとは言ってもさ、レントより強い人なんて限られてくるよ。それこそ右手に収まるくらいにはね」
「そう、影魔術の本質を理解したレントなら余裕」

 3人は開催場所に向かう途中にてこのような会話を交わしつつ向かっていた。
 そうして行くとだんだん人混みは増えてきて、次第に手を繋いでないとはぐれてしまいそうな程の人が集まるところに来ていた。

「へぇ、今年も多いねぇ」
「そういやさっき50チームとか言ってたね。150人? そりゃ多い」
「目眩がする」

 リンシアがくらくらとしているが、こんな所でくたばってしまっては身も蓋もない。

「ほら、さっさと行こう」

 ミラに連れられたリンシアはふらつきながらも、人混みに紛れていく。レントも置いてかれないようについて行くことにした。

「ほんとに多いな……着いてくだけでやっとだ」
「急がないとくじ引きが終わってしまうよ」

 3人は人の間を縫うように進んでいくと鐘の音が鳴り響く。

 ────カーンカーンカーンカーン

「やばい、そろそろくじ引きが終わっちゃう。急ごう」

 ミラの声も聞こえるか怪しい喧騒の中どんどん進んで行く。
 時折、人に当たったり蹴飛ばしたりしてしまったがこんな場所だ、仕方ないと思う。
 その相手には許してもらいたいものだ。

「すみません、まだ大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。ギリギリですね」
「いやぁ、すみません」

 何とか間に合った3人は昨日の受付の時にもらった選手カードを渡す。
 それを受け取り次第、箱の中にある紙を手で取っていく。
 その紙には3種類の文字A,B,Cと書かれており、それぞれの参加ブロックを示している。

「僕はAだって」
「C」

 ミラとリンシアが引いて確認しあっていた。
 レントはその残りのBということになる。
 引いた紙を見ても間違いは無さそうだ。

「ところでこれ僕達が最後なの? 箱の中にこれ以外の紙は無かったけど」
「いや、初めからこの3枚しかないんだよ。1チームを3つに分けたいだけだからね」

 なるほど、ただ3分割したいだけなら人数分用意する必要もない。
 それぞれ書かれた紙を3つ用意するだけでいいのだ。

「では、引かれましたら開始までお待ちください」

 くじ引きの人にそう言われ、レント達3人はとりあえずかたまっていることにした。

 どうやら学生も何チームが参加しているようで、同じ制服の人を何人か見かける。
 ただ、同じクラスメイトは居ないようだ。

「おう、お前は新入生じゃねぇか」

 そう声をかけたのはコウであった。
 以前授業の一環で戦ったことのある先輩だ。

「コウ先輩じゃないですか。先輩も出るんですね」
「当たり前よ! しかし、お前が出るならうかうかしてられねぇな。今度は負けねぇからな」
「はい。お互い頑張りましょう」

 知り合いにも出会えたことでレントは興奮していた。
 学校外で知り合いと出会う事がそうそうないレントにおいて、この場所というのはある意味特別な場所でもあった。

「ゴホン、それではこれから予選を開始する! 俺は傭兵ギルドのマスターをやってるレイスターだ。今年も大勢集まったようだが、これから戦ってもらって減る事になる。各々準備は怠るなよ」

 レイスターは前にレントが傭兵ギルドに行った時に会ったことがある。
 あの時は仕方なく諦める形にはなったが、来年は登録できるのでそれまで心待ちにしていた。

「そんじゃあ、堅苦しいのは俺もお前らも要らんだろ。これから3つに別れて戦ってもらう。順番はA、B、Cの順だ。先にAのやつは舞台上に上がれ」

 そう言われてミラが「おさきに」とさっさと向かっていく。
 同じくAを引いた人達も集まって来ている。
 中にはがたいというか何と言うか、やたらとでかい人もいる。身長4cmくらいあるんじゃないかあれ。
 そう思えばやたらと小さい人に加えておじいさんみたいな人もいた。

「ミラ勝てるかな?」
「ミラもレントに負けないよう努力した。負けない」
「ミラが頑張れば僕が力を温存できるんだけどなぁ」

 レントもリンシアもミラが5位以内に入ると思っている。
 とはいえ、今回集まった人は162人らしい。
 いつもより多いらしく、舞台上がいくら広いとはいえ人との間隔は2mもない。むしろ狭いくらいだろう。

 そうして舞台上には54人が集まったことが確認でき、レイスターが開始の声をかける。

「それじゃあ、始めるぞ、最終確認だ。本戦に行けるのはここで残った5人のチームのみ。負け判定は……」

 どうやらこの試合の負けになる扱いというものは、
 舞台上から落ちる
 戦えないと判断された者
 気絶した者
 敗北宣言
 の以上の4つらしい。
 それ以外は続行ということだろう。

「いいな? では始め!」

 その声と同時にAブロックの選手達は一斉に魔術を唱える。
 皆が皆、攻撃魔術を唱える中1人だけ防御魔術を唱える者がいた。
 ミラだ。

 このような人との間の狭い密集した場所では、例外を除いて範囲の広い攻撃魔術を放つことで効率よく人を減らせる。
 その例外というのが今回で言うミラだ。
 この方法は基本的に自分のみがそれを行い、相手の行動は考えていないのだ。
 ミラのように防御をする者、そもそもの魔術耐久が高い者には大して意味がなく、魔力の無駄遣いに他ならない。

 ただし、今回の場合はそれとはまた別である。
 今回は自分の他にも同じように考えた人が大勢いたのだ。
 つまり、相手の行動は考えず他を吹っ飛ばす方法を大勢がとっている。
 要は自分が相手大勢をぶっ飛ばすが、大勢が自分を吹っ飛ばすのだ。

 相手を倒すのに自分が倒されては意味が無い。
 しかし、それを理解するには遅すぎた。
 既に発動を終えていたのだ。

 こうして皆が攻撃魔術を使い、半ば自滅のような戦いが始まってしまう。
 大勢が吹っ飛ばされた後、残ったのは防御に徹したミラ含めた6人だった。

「ふぅ、危なかった」

 ミラが防御魔術を解くと、他の4人は戦闘態勢をとった。
 あれで残ったということはそれなりの強さはあるはずだ。
 しかし、ミラの近くに1人だけ男がいた。

「よう、坊主。どうだ、共闘といかねぇか?」

 先程からよく目立つ大男だった。
 ミラよりも倍くらい大きく見える。
 レントより少し大きいくらいのミラでさえ、その倍では足りないくらいの大きさなのだ。
 先程の爆風もその大きさからくる重量で耐えられたのだろう。

「そう睨むんじゃねぇ。なに、あれだ。6人ってことはよ、1人だけ落ちればいい話だ。なら、お互い協力した方が得じゃねぇか」
「……確かに。良いでしょう、その話に乗ります」
「よっしゃ」

 そこからは1人を落とすために戦う大男と防御に徹した友人の戦いとなった。
 ミラとしても、来たるべく本線に向けて手の内を晒したくは無いから助かっていた。
 初手で見せた防御魔術をひたすら大男にかけ続けて、大男はその巨体から繰り出される拳や魔術で攻撃を担当している。

「この魔術なかなか硬ぇな。うちの弟より硬ぇかもしれねぇ」
「それはどうも、僕の得意なものなんでね。貴方も……その……大雑把ながら攻撃力は高そうですね。敵となったら僕で守れるかどうか」
「坊主も分かってるじゃねぇか。俺の攻撃は兄弟一だからよ。自慢じゃねぇがこれだけは負けねぇ」

 そうして共闘しているからこそ見えるものもあるようで、お互いに危険視しながら今は目の前の敵1人を落とすために手を取り合っていた。

 こうなっては他の4人は手の出しようがない。
 レント達の誇る最強の盾と大男の攻撃を前にして立っているのがやっとのようだ。
 どれだけ魔術を使おうが壁に阻まれ、どんな壁を生み出そうが大男の攻撃の前では無いに等しい。

 そして、その中で1番手が出なかったものが倒れた。
 彼は速さを売りにしていたようだが、そんなものこの場では何一つ意味をなしていなかったのだ。
 もろに攻撃をくらい倒れてしまったのだ。

「そこまで!」

 レイスターの制止の声がかかり、舞台上の選手達はその手を止めた。

「Aブロック本戦出場チームは以下の5チームだ。まずは、巨人族のカリスト含むチーム。そしてミラ含むチーム。魔術連合代表魔術師ハイネ含むチーム。傭兵ギルドが誇る盾の騎士ウェン含むチーム。最後は小人族のゼル含むチームだ。舞台を降りて休憩にあたるといい」

 その宣言が終わると5人は舞台をおりてそれぞれのチームの所へと向かっていった。

 我らが盾の凱旋だ。

「やったな、ミラ」
「最初があっなかったけどね……」
「それでも勝ちは勝ちだろう」
「そう」

 ミラは2人に賞賛を浴びさせられて少し恥ずかしがっていた。
 とはいえ、次はレントの番だ。
 気を引き締めて向かわないといけない。

「次はレントだね、今度はここまで簡単じゃなさそうだ」
「そうだね。次はこんな展開にはならないだろう。みんなも学ぶさ」
「でも、そう思ってあえてやる人がいるかも」

 それはそうだ。
 そのあえてをやる人は間違いなくいるだろう。
 とはいえ、この戦いを見てそれを危惧したものは防御を先に固めるはずだ。

「それってレントのことかい?」
「さぁ」
「ん? 僕が防御? 予選はさっさと終わらせるに限るよ」

 そのレントがあえてをする者だというのは2人にはバレていた。
 伊達にクラスメイトではない。




「それではBブロックは集まれ!」

 少しの休憩を挟み、レイスターは次の試合を始めるためにBを引いた者達を舞台上に集めた。

「さて、行ってくるよ」
「ほどほどにね」
「程々」

 そこまで加減しなくてはならないのだろうか?
 レントはAブロックの時を思い出す。

「あぁ、程々……ねぇ」

 そう呟きながら舞台上へと向かうのであった。
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