星導の魔術士

かもしか

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第一章 魔術学校編

第26話 狂気の爆弾

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  選抜大会予選が終わり本戦出場の権利を勝ち取ったレントは、翌日傭兵ギルドへと顔を出していた。

「よぉ、レント。今日はどうした? 登録はまだだだろ?」
「えぇ、今日はちょっと情報を集めに」

 昨日の大会で目にした爆発を多量に扱う魔術士・ガゼルのことだ。
 あの魔術師がどうにも気になったレントは、その情報を求めに傭兵ギルドに来たのだ。

「あぁん? ガゼルのことを知りたいだ? それならこっちでも調べ中だ」
「えっ!?」
「あのなぁ……お前さんら学生が気づいたものを俺ら大人が気づかねぇとでも思ったか?」

 確かにそれもそうだ。
 まだまだ若輩のレントが気づくようなことは大人も気づいて当たり前なんだろう。
 伊達に歳は食ってないし、なにより経験の違いが大きい。

「そんで、そいつだがな。どうにも怪しい。きな臭ぇ臭いがプンプンしやがる」
「それは、どんな?」
「お前さんには話してないが、この街には『裏ギルド』というものがある。聞いたことあるか?」
「いえ」

『裏』と言っているくらいだ、悪いことをしている集団だろうか?

「そこはな、俺らでは扱えない依頼を請け負う場所だ。ちょっとこい」

 そう言われてレイスターに近寄ると、耳元に口を寄せてきた。

「大きな声じゃ言えねぇがな、いわゆる殺人依頼を受け付けてるのさ」
「えっ!?」
「チッ、お前声がでけぇよ……」

 そう言うとレイスターは手招きして奥の部屋に向かった。
 どうやらお前も来いとの事なのでレントもそれについて行く。
 中には以前と同じように机を挟んで2つのソファがあり、レイスターは片方に座った。
 レントもそれに倣って座る。

「ここでの話は別に秘密にしてるわけでもねぇが公にしていない内容だ。別に言いふらすなとは言わんが取扱にだけは注意してくれ」
「あ、はい」

 それからレイスターは『裏ギルド』について話し始めた。
 どうやら、『裏ギルド』というのは国の機関の1つらしい。
 国の膿を排除したり、いわゆる悪徳な人を始末する人達だとか。
 そういう表の人達ではできない汚れ仕事を請け負う場所が『裏ギルド』というようだ。

「しかし最近トップが代替わりしたらしくてな、どうやらそいつが悪事に手を染めてるかもしれないって噂だ」
「国の機関がですか?」
「あぁ、どこぞの貴族のボンボンって話だが、実力があるのがまた厄介なところだな」
「はぁ、それでガゼルとの関連とは……」

 まぁその話をしてこの流れになったのだ、大体の事は何となくわかった。
 しかし、なぜいきなりそんなふうになったのか……。

「あぁ、お前の思ってる通りだ。奴は『裏ギルド』構成員だよ。"爆炎の魔術士"と呼ばれてるそうだ。あぁ、今は"狂気の爆弾"だったか」
「確かに、あれは狂気ですね」

 戦ってる最中も大声で笑っていたし、なにより爆発を楽しんでいた。
 しかし、そんな人が相手となるとなかなかどうして厄介なものだ。

「奴はその得意な魔術、爆破魔術を用いてあらゆる依頼をこなしていたそうだ。悪徳派閥の家屋破壊に国に仇なす者の排除。これまではそれはそれは真面目にやっていたらしい」
「はぁ」
「それこそ『裏ギルド』ではあるが、指名で依頼が来るくらいには知名度も信頼も得ていたようだ」
「へぇ」
「ただ、お前の入学したくらいからか奴はおかしくなったそうだ。口調はそのままらしいがその行動は荒々しくなり、問題行動さえ起こしかねないくらいにはな」
「僕の入学と同時に……」
「そこからだろうか、爆発に執着を見せ始めたのは。何をするにも爆破をし、その度に大笑いとともに全てを吹き飛ばす。以前同様依頼はしていたが、そのやり方は変わらずともいつもやりすぎていたようだ」
「いきなり変わりましたね」
「あぁ。そこからというもの、爆破を矜恃としていた彼は爆破を快楽として扱うようになったらしい。それを見兼ねた以前のトップが解雇を命じたらしいが、これでも以前まで『裏ギルド』1番の構成員だったからか擁護の声が上がったんだ」
 
 上層部としては有能な人材を手放しなくなかったんだろう。
 それが今がどんな有様であれ。

「元トップはそんな有様のガゼルを下に置いて仕事なんてできないと、離れたのがトップ入れ替わりの真相だ。今では足を洗ってこのギルドの一員として普通に生活してるぞ」 
「そんなことが起きてたんですね」
「ただな、1番の問題はそこじゃねぇ。奴がその代替わりしたトップを悪事に手に染めさせたんじゃねぇかって話がある」
「そのトップの人は元々まともなんですよね?」
「あぁ、前評判は真面目に魔術の勉強に取り組む勤勉な奴だったらしい。いささかそれに取り組みすぎて変人と呼ばれもしたみたいだが……」
「これはこの大会でなにか一悶着ありそうですね」

 理由がなんにしろそんな人物が大会に参加しているのだ、なにか目的があってのはずだ。
 そして、レイスターは少し顔を落として雰囲気を重くして言った。

「どうやら、目的はお前らしいぞ。レント」
「え? 僕?」
「あぁ、一応わかってるのはそれだけだ。なんでお前が狙われてるのかは分からねぇがな」

 これはまた、物騒というか気をつけないといけないようだ。
 なにしろ自分が襲われるかもしれないのだ。

「信憑性はあります?」
「あぁ、俺らで独自に調べあげた情報だ。お前が今日来てくれて助かった、早いうちに伝えねぇとと思ってたんだがな……」
「いえいえ、間に合ってますから問題ないですよ」
「そう言ってくれると助かる。とはいえ、十分気をつけろよ。大会まで待つつもりもねぇかもしれねぇ」

 そう忠告を受けるとレントは気を引き締めて部屋を出ようとした。
 そこでレイスターに呼び止められて「出てく前に受付によっていけ」との事らしいので、そこから受け付けへと足を運ぶ。

「ギルドマスターが寄ってけって言ってたんですけど」
「あ、はい。レントさんですね。これをお渡しするように仰せつかってます」

 そう言って机の上に広げられたのは一冊の本だった。
 表紙には『星の民と地の民』と書かれていた。

「これ、なんです?」
「えぇと、私達にはこれを見る権限がないのでこれが何なのかは分からないんです。ただ
 ギルドマスターがこれを渡してやれとの事なのでお出ししてるんです」
「権限? これ見るのってそんな重要なものなんです?」
「えぇ、当ギルドの重要機密のひとつになります。取扱には気をつけてください」

 そんなものを渡してくるとはレイスターは何を考えてるんだ、と思ったりもするが題名からしてレントに必要なことが書いてある気もするので受け取っておく。

「それでは」
「またのお越しをお待ちしています」

 そうして傭兵ギルドを出ると既に太陽は頂点に達していた。
 そう言えば腹の虫もなる気がしてくる。

「昼食にするか」

 そうして本をカバンにしまうとこの前行きそびれたラーメンの屋台へと足を運んだ。

 ──────────────────

「おい、大会までに間に合うんだろうな?」
「間に合うから急かさないでくれ」
「間に合わなかったらここ爆破すっから」
「だ! か! ら! 待ってろと言ってるだろうに! まだ時間はあるだろ!」

 ここは『裏ギルド』にある研究室。
 そこではガゼルと男が大声を上げて言い争っていた。
 いや、ただ急かしてるだけとも言えるだろうが。

「お前はこれを明日までに欲しいんだろう? なら大人しく待っててくれ」
「明日でもいいけどよぉ。今日でもいいかなって思っちまったんだよ」
「ダメに決まってるだろ。計画が破綻する」
「チッ、ったくよぉ。おつむがお堅いようで何よりだ」

 そう言ってガゼルは部屋を飛び出していく。

「あの男も大人しくならないものか……」

 そういってその男は床に目線を移す。
 そこにあるのはついぞこの前まで表通りを歩いていたただの街人だ。
 ''ただの"と言うには語弊がある。
 この街人もこの『裏ギルド』の一員だったのだ。
 そいつがこうして床に倒れており、息をしていない。

「この男も前まではうるさかったもんだ。しかしやはり死はいいものだ。すごく静かだ」

 そう言ってため息を漏らすのは『裏ギルド』ギルドマスター、カスティール。
 正式な名は『カスティール・ウェーバー』

 ──アガーテの兄であった。





 時を同じくしてレントは昼食を食べ終え、部屋へと戻っていた。

「さて、腹も膨れたし受け取った本でも読んでみるか」

 そう言って取り出したのは傭兵ギルドで手に入れた『星の民の地の民』と書かれた本。
 しかしながらレントは読まなくてはならないと直感だが感じていた。

「星の民……か……」

 このフレーズに聞き覚えがあった。
 以前星魔大戦の話を聞いた時に出てきたフレーズだ。
 もしかしたら父のまだ知らないことが書かれているのかもしれない。
 そう思ったらレントはその本を開かずにはいられなくなった。

「……たしか重要機密とか言ってたよな……大事に扱わないと」

 重要機密とだけあって人の目にあまり晒していいものでは無いだろう。
 あいにくレントには校長先生のような盗み聞きや盗み見を防止する魔術は持ち合わせていない。
 仕方なくレントは、扉の鍵を閉めて気をつけるしかないだろうと机に本を置いた。


 鍵を閉め、椅子に座ると1ページずつゆっくりとその本を読み始める。

 その本の内容は、


 ────星の民と地の民との争いと創世の物語だった
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