転生人魚姫はごはんが食べたい!

奏白いずも

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十六、港町食べ歩き~ニナと一緒

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「さあさあ勉強の続きよ!」

 私が促すとニナは照れながらも続けてくれる。

「えっと……シレーネは港町なので、異国の人や商人たちのおかげで賑わって見えるんだと思います。いろんな国の文化が混ざり合っていますから」

「つまりいろんな国の食べ物も集まっているのね」

 結局私の発想は食べ物よりになってしまうけれど、ここでならいろんな国の料理が食べられるという解釈でいいのよね?

「そうですね。いろんな国の料理が食べられますよ」

 ニナは私の望んだ答えをくれた。

 私、本当に素晴らしい旦那様に見つけてもらえたのね。生まれ変わってこんなに素敵な旦那様に巡り会えるなんて!

「はあ……」

「奥様、お疲れですか?」

「失礼、誤解させてしまったわね。あちこちからいい香りがするなと思っていたのよ」

 ソースの香、油の香。肉汁に、油が跳ねる音。ここに美味しいものがあるよと手招きされているみたいだ。

「ちょっ、ちょっとニナ! あ、あれ、あれって、あの人が食べているの、イカの串焼き!?」

 確認を取りつつも私はすでに確信していた。イカのフォルムは特徴的だ。それを串に刺し、こんがりと表面を焼いたもの。見間違えるはずがないと私の記憶が訴えている。

「なんて美味しそうなものを売っているのよ!」

 私は興奮気味にニナの腕をひっぱった。そんな私よりも年下のニナの方がよほど大人っぽく見えただろう。

「この辺りには屋台も多いですからね」

「そうなの!?」

「急ぐ人も多いので、手軽に食べられる料理は人気なんです」

「後学のためにも堪能して帰らないといけないわね!」

「ふふっ、何から召し上がりますか?」

 広い通りに差し掛かると左右共に屋台がひしめき合っている。品揃えを目で追うと、ニナの言う通り手軽に食べられるものが多いという印象だ。

「イカの串焼き、買ってきましょうか?」

「そうね……」

 私は歩きながら真剣に屋台の顔ぶれを眺めた。
 串に刺さった肉やソーセージはこんがりと焼き上げられ、数種類の鍋に汲み分けられたスープ。魚を串に刺して丸々と焼き上げた店もある。片手でも食べられそうなパンに麺類、カットされたフルーツにアルコール。それにデザートの類……

 物凄く迷うっ!!

 そして自らの胃袋と熱い議論を交わした結果。

「イカも物凄く食べたいけれど、まずはスープから攻めることにするわ! さあニナ、貴女のお勧めはどの店かしら!?」

「こちらです!」

 さすが地元住民。私が案内された屋台には複数の大鍋が待ち構えていた。
 透明な液体に刻んだ野菜と肉団子を浮かべたもの。こってりとした脂っぽさを感じる茶色い液体。カレーのようなとろみを持つ鍋と、選択肢は多い。
 そんな中でも私の視線を惹きつけて止まないのが赤い液体のスープだった。少し辛そうな色ではあるが、ぴりっと辛そうな香りが心を掴んで離さない。
 そばに用意されているベンチにニナと並んで座り、食事をとることにする。
 そこで問題が一つ。スープとにらめっこする私の懸念をニナは正確に言い当てた。

「奥様、そう気をはらなくても大丈夫ですよ。見てください!」

 ニナが促す先には豪快にスープをすする子どもたちがいて、微笑ましい気持ちになった。

「ここではあれが普通なんです。自由に美味しく食べること、それが一番なんですよ」

 そう教えられて育ってきたのだとニナは言う。私はその一員になれたことを喜びながら、いただきますと口にした。
 魚からだしをとっているスープはほんのりと辛いアレンジだ。具材にされている白身魚を食べることでより味に深みも増す。刻んで添えられている野菜の緑も美しく、一口サイズに切られた肉からも旨味が溢れ出している。

「ど、どうですか!?」

「美味しいわ!」

「良かったです! それ、この辺りの家庭では有名な味付けなんですよ。一度にたくさん作れて便利で、雪の降る日にはどの家でも食べるんです」

「身体が温まりそうですものね。あら、魚とお肉のスープだと思っていたけれど、きのこまで入っているのね」

「具材には特に決まりがなくて、何を入れるかでその家庭の個性が出ます。あ、この中に麺を足すのも人気の食べ方なんですよ」

「この中に麺……」

 つまりラーメンのようなものかしら? 麺料理も発展しているなんて凄いことだわ!

 ぜひ試してみたいと思いながらも今日は止めておくことにする。他にもまだまだ食べてみたいものはたくさんあるのだ。スープだけで満腹にしてしまうのは勿体ない。

「さてと、次はいよいよお肉を探しに行くわよ!」

「それなら私にお勧めがありますよ!」

 そう言って人ごみに消えていくニナを、私はサプライズも面白そうだと思いながら見送った。
 町並みを眺めながらベンチに座っていると、町の様子がのんびりと観察出来る。軽装に身を包み足早に歩く人たちは船乗りだろう。ゆっくりとした足並みで歩く男女は観光だろうか。平和な町だと、そんな印象を受けた。

「奥様! お待たせしました」

「ありがとう――って、それは!」

 早くもニナが手に持つそれに視線が向いてしまう。
 串にささった厚みのあるベーコンからは懐かい肉の香りがしていた。

「本日仕入れた食材を気分で串に刺したお勧めの串焼きです!」

 物凄く運頼りのお勧め品だなと感じたのはさておき。

「一番上の赤い野菜はトマト?」

「はい。甘くて美味しいですよ」

 それはトマトの赤が映える、見た目も可愛らしい串焼きだった。
 上から順にトマト、肉厚のベーコン、イモ、そしてベーコン、トマト、さらにベーコンと続く。
 可愛らしくも主成分は肉で構成されているそれを、一つずつ食材について確認していくと、前世で使われていたものと変わらないようで安心する。

「どうやら私たちはとても運がいいようね。これもかじっていいのかしら?」

「もちろんです。イデット様は禁止されるかもしれませんけど、私は奥様の味方ですよ」

「ニナを選んで正解だったわね。いただきます!」

 我慢出来ずにかぶりついたトマトが口の中で弾け、甘みが広がる。
 こんがりと焼き色のついたベーコンはおそらく塩コショウで味をつけ焼いたもの。食べやすく切り分けられてはいるが、ボリュームもたっぷりだ。イモは噛むとほろりと崩れる絶妙な茹で加減。もう一度ベーコンを堪能し、最後に甘いトマトを味わう。

「ごちそうさまでした」

「どうでしたか?」

「幸せよ」

 率直な感想を伝えるとニナは喜んでくれる。自分の生まれ育った町が褒められたことが嬉しいそうだ。

「次は何を召し上がりますか?」

「そうね……。ニナが良ければ、もう少し散策してみない? 食後の運動も兼ねて。私、こんな風に賑やかな町を歩くなんて久しぶりで、楽しくなってきてしまったわ」

「わかりました! 奥様は、どこか行ってみたいお店はありますか? 好きな物や、興味のある物とか、私も奥様のことが知りたいです」

「私が意見を出すと全部食べ物のお店になってしまうと思うのよね。ニナたちは、年頃の女の子はどういった場所に行くのが好きなの?」

「そうですね……人気のカフェや、可愛い雑貨のお店を見て回ったりしますよ。あ、広場の方に行ってみませんか!? 綺麗な花時計があるんです。それに最近、人気の占い師がいるらしいんですよ! 運が良ければ見つかるらしいんですけど、謎めいた雰囲気もあって、仕事仲間の間でも噂になっているんです」

「今日の私たちは運が良いみたいだし、もしかしたら見つかるかもしれないわね」

 ニナの女子力の高い提案のおかげで退屈することはないだろう。楽しみだと告げて私たちは広場を目指した。友人と並んでの町歩き。それは仕事とお店巡りばかりしていた私にとっては久しぶりの感覚で、とても心がわくわくするものだった。
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