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33、王子の出会い(ルイス視点)
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馬車は緩やかなリズムを刻みながら遠い地を目指す。
俺は次第に生まれ故郷から離れていくわけだけど、不思議なものだね。感傷的になるような場面だというのに、俺の心は冷めきっていたよ。仮にも元王子でありながら、故郷に対する思い入れは特にないらしい。
気掛かりがあるとするのなら、それは一人残すことになってしまった元部下のことくらいだ。
これでも今日まで故郷のために尽くしてきた。俺に期待を寄せるのであれば応えてみせよう。俺にはそのための地位と力があった。周囲から望まれる姿を演じてきた。
けれど陛下が選んだのは俺じゃない。自分を選ばないのであれば、もうこの国に未練はないさ。そういった判断を下してしまえる俺は冷めているのかもしれないね。後悔はないよ。
兄上に言わせるのなら、俺は全てを失ったのだろう。
ですが兄上、それは違います。全てを失ったのだとしても、代わりに得たものがある。
サリアとの未来だ。
表舞台で彼女と添い遂げられる可能性があるのだとしたら、王子の肩書なんて惜しくはない。サリアは俺の境遇を悲しんでくれたけど、実はそれほど悲観してはいないんだ。他ならぬ君のおかげでね。
サリアと出会ったのは俺もまだ幼かった頃。遠方に暮らす親戚の誕生を祝うため、馬車で長旅をしていた帰り、一羽の白い鳥が馬車を横切ったことが始まりだった。
鳥は何度も何度も旋回し、御者を攻撃しては強引に馬車を止めさせる。不思議に思って窓から顔を出すと、鳥はこちらをじっと見つめてきた。
まるでついてきてほしいというように動き回り、俺は導かれるように馬車を飛び出していた。
向かう先では古びた馬車が同じように足止めをされている。しかし彼らはこちらの御者以上に乱暴な動きで鳥を排除しようとしていた。
ジオンの手を借りて職務質問をさせ、その隙に俺は馬車の背後へと回る。おそらく人に見られたくない物を隠しているはずだ。
予想通り、馬車から飛び出してきたのは小さな女の子だった。
「君は……」
白い鳥はこれを知らせたかったのか?
少女は明らかに怯えていた。手を差し伸べたが、じっと耐えるばかりで動こうとはしない。やがて力尽きたのか倒れてしまう。
俺たちが遭遇した一行は人攫いの集団だった。
ジオンの力で彼らを制圧し、役人に引き渡すと少女を近隣の街まで送り届けることにする。
予定を変更してまで回復を見届けてから旅立つことを決めたのは、どうしてもあの白い鳥の姿が忘れられなかったからだ。
白い鳥は女神の化身といわれている。女神が守ろうとしたのなら、何かあるに違いない。それを確かめたいと思った。もう一度、今度は会って話をしてみたかった。
目覚めた少女に外傷はなく、部屋を訪れるとぼんやり窓の外を眺めていた。視線の先にはやはりあの鳥がいる。まるで少女の目覚めを待ちわびていたようだ。
俺に気づいた少女は起き上がって感謝を告げようとした。
「助けてくれたの、貴方だって聞きました。ありがとうございました」
幼い割にはしっかりした受け答えだと感心させられる。自分も可愛げがないとはよく言われるけどね。
「俺は何も。でも、君が無事で良かった」
そう答えれば、少女は信じられないという眼差しで見つめ返していた。
「どうしたのかな?」
「私の無事を、喜んでくれるのですか?」
信じられないと語る瞳に、安心させるようにもちろんと言ってやる。
「俺だけじゃないよ」
窓の外を見るように言った。あの鳥が知らせてくれたこと、そばから離れようとしなかったことを教えた。
「君のことを守ろうとしたんじゃないかな。君は女神に愛されているんだね」
「うそ……」
即座に嘘だと否定する少女は、幼いなりに色々なものを目にしてきたのだろう。
可哀想だとは思うけど、深入りしても出来ることは限られている。これといって特別なことも見受けられないのなら、後は任せて立ち去るべきだろう。
別れを告げようとしていたことを察していたのかもしれない。それよりも早く少女は言い募った。
「どうか私をそばに置いて下さい!」
「え?」
意味がわからなかった。
背後ではジオンがまるで求婚のようだと茶化していたる。
笑うジオンを睨んだ少女は、そんな大それたことをするはずがないと叫んでいた。
「私、貴方に仕えたいです! 貴方に必要とされたい。貴方のために働きたいです!」
「熱烈だねえ」
「ジオン」
茶化すようなジオンを嗜める。突拍子もない発言ではあるが、少女が本気であることは伝わっていた。ならば幼い相手でもきちんと告げておかなければならない。
俺は次第に生まれ故郷から離れていくわけだけど、不思議なものだね。感傷的になるような場面だというのに、俺の心は冷めきっていたよ。仮にも元王子でありながら、故郷に対する思い入れは特にないらしい。
気掛かりがあるとするのなら、それは一人残すことになってしまった元部下のことくらいだ。
これでも今日まで故郷のために尽くしてきた。俺に期待を寄せるのであれば応えてみせよう。俺にはそのための地位と力があった。周囲から望まれる姿を演じてきた。
けれど陛下が選んだのは俺じゃない。自分を選ばないのであれば、もうこの国に未練はないさ。そういった判断を下してしまえる俺は冷めているのかもしれないね。後悔はないよ。
兄上に言わせるのなら、俺は全てを失ったのだろう。
ですが兄上、それは違います。全てを失ったのだとしても、代わりに得たものがある。
サリアとの未来だ。
表舞台で彼女と添い遂げられる可能性があるのだとしたら、王子の肩書なんて惜しくはない。サリアは俺の境遇を悲しんでくれたけど、実はそれほど悲観してはいないんだ。他ならぬ君のおかげでね。
サリアと出会ったのは俺もまだ幼かった頃。遠方に暮らす親戚の誕生を祝うため、馬車で長旅をしていた帰り、一羽の白い鳥が馬車を横切ったことが始まりだった。
鳥は何度も何度も旋回し、御者を攻撃しては強引に馬車を止めさせる。不思議に思って窓から顔を出すと、鳥はこちらをじっと見つめてきた。
まるでついてきてほしいというように動き回り、俺は導かれるように馬車を飛び出していた。
向かう先では古びた馬車が同じように足止めをされている。しかし彼らはこちらの御者以上に乱暴な動きで鳥を排除しようとしていた。
ジオンの手を借りて職務質問をさせ、その隙に俺は馬車の背後へと回る。おそらく人に見られたくない物を隠しているはずだ。
予想通り、馬車から飛び出してきたのは小さな女の子だった。
「君は……」
白い鳥はこれを知らせたかったのか?
少女は明らかに怯えていた。手を差し伸べたが、じっと耐えるばかりで動こうとはしない。やがて力尽きたのか倒れてしまう。
俺たちが遭遇した一行は人攫いの集団だった。
ジオンの力で彼らを制圧し、役人に引き渡すと少女を近隣の街まで送り届けることにする。
予定を変更してまで回復を見届けてから旅立つことを決めたのは、どうしてもあの白い鳥の姿が忘れられなかったからだ。
白い鳥は女神の化身といわれている。女神が守ろうとしたのなら、何かあるに違いない。それを確かめたいと思った。もう一度、今度は会って話をしてみたかった。
目覚めた少女に外傷はなく、部屋を訪れるとぼんやり窓の外を眺めていた。視線の先にはやはりあの鳥がいる。まるで少女の目覚めを待ちわびていたようだ。
俺に気づいた少女は起き上がって感謝を告げようとした。
「助けてくれたの、貴方だって聞きました。ありがとうございました」
幼い割にはしっかりした受け答えだと感心させられる。自分も可愛げがないとはよく言われるけどね。
「俺は何も。でも、君が無事で良かった」
そう答えれば、少女は信じられないという眼差しで見つめ返していた。
「どうしたのかな?」
「私の無事を、喜んでくれるのですか?」
信じられないと語る瞳に、安心させるようにもちろんと言ってやる。
「俺だけじゃないよ」
窓の外を見るように言った。あの鳥が知らせてくれたこと、そばから離れようとしなかったことを教えた。
「君のことを守ろうとしたんじゃないかな。君は女神に愛されているんだね」
「うそ……」
即座に嘘だと否定する少女は、幼いなりに色々なものを目にしてきたのだろう。
可哀想だとは思うけど、深入りしても出来ることは限られている。これといって特別なことも見受けられないのなら、後は任せて立ち去るべきだろう。
別れを告げようとしていたことを察していたのかもしれない。それよりも早く少女は言い募った。
「どうか私をそばに置いて下さい!」
「え?」
意味がわからなかった。
背後ではジオンがまるで求婚のようだと茶化していたる。
笑うジオンを睨んだ少女は、そんな大それたことをするはずがないと叫んでいた。
「私、貴方に仕えたいです! 貴方に必要とされたい。貴方のために働きたいです!」
「熱烈だねえ」
「ジオン」
茶化すようなジオンを嗜める。突拍子もない発言ではあるが、少女が本気であることは伝わっていた。ならば幼い相手でもきちんと告げておかなければならない。
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