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52、二度目の退職
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私が城の厨房で働き始めてから、早いもので一年が経とうとしています。
陛下からの妨害にあい、騒がしい密偵に付き纏われようとも、私は見事修業期間を終えました。
雇われたばかりの頃はばらばらに感じていた厨房のメンバーたちも、私が副料理長と本音を語り合った夜を機に団結するようになり、結束が生まれた気がします。
そんな中で退職すると言い出した私は別れを惜しまれ、どうしても辞めてしまうのかと先輩には夜通し泣きつかれました。
それでも私は今日、リエタナへと旅立ちます。
惜しまれたと言いましたが、私も同じ気持ちであることに驚きを隠せません。
この私が一つの職場に情を抱くなんて、信じられないことなのです。密偵を辞めてから、私も変わったのでしょうか。密かに憧れていたリーチェのように、普通の女の子らしい心を持てたのなら嬉しいです。
名残惜しさはありますが、遠いリエタナに向かうのなら早く出発しなければいけません。しかし厨房での挨拶を終え、いよいよ旅立というとする私を上司権限で呼び止めたのは陛下でした。これだから最高権力者は!
「今日で辞めるらしいな」
世間話のようにゆっくりと切り出さないで下さい。どうせ私がリエタナに向かうことは知っていますよね。そしてリエタナと言えば主様。貴方が追放した弟君のいらっしゃる土地。私が何をしにいくのかもとっくにしっていますよね。
その上で問います。
リエタナまで何日かかると思ってるんですか? 私が一刻も早く主様の元に向かいたいって、わかってますよね!?
あと、どこかの密偵が聞き耳を立てている気配がするんですけど!
「考え直してはどうだ? お前は使える人間だ。料理も美味い」
「私にはもったいないお言葉です」
「無欲な女だな。お前は正しく自身の価値を認識すべきだ。お前のような人間が地方で燻るのは惜しい」
「お褒めにあずかり光栄です」
「いっそ俺に仕えてはどうだ。お前なら料理以外でも訳に立つだろう」
いっそ貴方には関係ないと言って差し上げましょうか!?
「申し訳ございません。大変光栄なことですが、私の主は生涯ただ一人と決めております」
言葉にはしませんが、言って差し上げます。
私の主は生涯、主様だけなんですよーだ!
「あの時、何故ともについて行かなかったのか?」
あの時というのは主様が追放された日のことを言っている。
本当に、私の逆鱗に触れるのが上手な方ですね!
「断られてしまいました。私は必要ないようでしたから」
あくまで誰とは言いませんが、これくらいは話して差し上げます。私からの選別だと思っていただきましょう。
すると陛下は目を丸くする。とても信じられないと言いたいようだ。
「なんだそれは? お前のような優秀な人間を不要だと? なおさら俺に仕えてはどうだ」
「違います!」
思わず叫んでしまってから後悔する。
「申し訳ありませんでした」
それでも主様という人を誤解されたくはなかった。
陛下からの妨害にあい、騒がしい密偵に付き纏われようとも、私は見事修業期間を終えました。
雇われたばかりの頃はばらばらに感じていた厨房のメンバーたちも、私が副料理長と本音を語り合った夜を機に団結するようになり、結束が生まれた気がします。
そんな中で退職すると言い出した私は別れを惜しまれ、どうしても辞めてしまうのかと先輩には夜通し泣きつかれました。
それでも私は今日、リエタナへと旅立ちます。
惜しまれたと言いましたが、私も同じ気持ちであることに驚きを隠せません。
この私が一つの職場に情を抱くなんて、信じられないことなのです。密偵を辞めてから、私も変わったのでしょうか。密かに憧れていたリーチェのように、普通の女の子らしい心を持てたのなら嬉しいです。
名残惜しさはありますが、遠いリエタナに向かうのなら早く出発しなければいけません。しかし厨房での挨拶を終え、いよいよ旅立というとする私を上司権限で呼び止めたのは陛下でした。これだから最高権力者は!
「今日で辞めるらしいな」
世間話のようにゆっくりと切り出さないで下さい。どうせ私がリエタナに向かうことは知っていますよね。そしてリエタナと言えば主様。貴方が追放した弟君のいらっしゃる土地。私が何をしにいくのかもとっくにしっていますよね。
その上で問います。
リエタナまで何日かかると思ってるんですか? 私が一刻も早く主様の元に向かいたいって、わかってますよね!?
あと、どこかの密偵が聞き耳を立てている気配がするんですけど!
「考え直してはどうだ? お前は使える人間だ。料理も美味い」
「私にはもったいないお言葉です」
「無欲な女だな。お前は正しく自身の価値を認識すべきだ。お前のような人間が地方で燻るのは惜しい」
「お褒めにあずかり光栄です」
「いっそ俺に仕えてはどうだ。お前なら料理以外でも訳に立つだろう」
いっそ貴方には関係ないと言って差し上げましょうか!?
「申し訳ございません。大変光栄なことですが、私の主は生涯ただ一人と決めております」
言葉にはしませんが、言って差し上げます。
私の主は生涯、主様だけなんですよーだ!
「あの時、何故ともについて行かなかったのか?」
あの時というのは主様が追放された日のことを言っている。
本当に、私の逆鱗に触れるのが上手な方ですね!
「断られてしまいました。私は必要ないようでしたから」
あくまで誰とは言いませんが、これくらいは話して差し上げます。私からの選別だと思っていただきましょう。
すると陛下は目を丸くする。とても信じられないと言いたいようだ。
「なんだそれは? お前のような優秀な人間を不要だと? なおさら俺に仕えてはどうだ」
「違います!」
思わず叫んでしまってから後悔する。
「申し訳ありませんでした」
それでも主様という人を誤解されたくはなかった。
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