無敵の【着火】マン ~出来損ないと魔導伯爵家を追放された私なんだが、しかたがないので唯一の攻撃魔法【着火】で迷宮都市で成り上がる~

川獺右端

文字の大きさ
46 / 47

第39話 【着火】マンは別れの挨拶を交わす

しおりを挟む
 一流ホテルのレストランで、父と一緒に朝食を取る。
 とりあえず、一度デズモンド領に戻って、事態を収拾する事になった。

 しばらく迷宮都市ともお別れか、感慨深いものがあるね。
 短い間だったけど、色々な事があったなあ。

 父さんとステイシーを連れてギルドに戻る。
 部屋の荷物を鞄に入れて階下にいくと、酒場で皆が待ち構えていた。

「ハカセ、いや、御領主様って呼ばないといけないか……」
「ハカセでいいよ、フロル」
「うん、ハカセ、もう、いっちゃうのか?」
「うん、デズモンド領がのっぴきならない状態みたいだからね」
「そうか……、じゃあ、行ってこいハカセ、で、なるべく早く帰って来いっ。俺たちは早く中層に行けるように頑張るからっ、だから……、早く帰ってこいよ……」

 フロルはそう言いながらポロポロと涙をこぼした。
 私はしゃがんでフロルをぎゅっと抱きしめた。

「解った、早めに領をなんとかして帰って来る。待っててくれ」
「うん、うんっ」
「ハカセ、ありがとーっ」
「早く帰って来てねっ」
「俺らもがんばるからっ」

 銀のグリフォン団のメンバーが私に抱きついてきた。
 ああ、なんだかかけがえのない絆を得た気がした。
 ずっと迷宮都市でこの子達が大きくなる所を見ていたいなあ、とそう思った。

「おう、マレンツ、早く帰れよな」

 ペネロペがパンをかじりながら声をかけてきた。

「ペネロペ、君はずっと街にいるのか?」
「ああ、迷宮が思いの他面白いからな、先に鍛えて待っていてやるよ」
「ありがたい」

 ペネロペは令嬢らしくはないが、気っ風が良くて頼りになるからな。
 戦闘狂な所はあるけど。

 ウジェニーさんがふらふらとこちらに近寄って来て、銀のグリフォン団のメンバーごしに私を抱きしめた。

「マレンツ博士~~、いっちゃ嫌です~~、せめて私と結婚を~~」
「ウジェニーさん……、いろいろとお世話になりました」
「ウジェ姉! 重いっ!」

 挟まれたフロルが毒づいた。
 他の子達も、うぞうぞうごめいている。

「うわあーん、また振られた~~」

 いや、振ってませんけどね。
 私も良い歳なんだけど、まだまだ結婚とかは考えていないので。

「またこの街に戻ってきますから」
「待ってます、待ってますから、うわあああん」

 リネット王女とパリス王子が寄ってきた。

「君らはどうするんだい?」
「僕はちょっと迷宮都市観光をして王都に戻るよ」
「私が観光の案内をしてあげますわ。マレンツ先生、来月には王都で迷宮伯の叙任式をやりますので、スケジュールを空けておいてくださいね」
「はい……」
「マレンツの友達の子供達も来るかい?」
「えっ、いいの、王子様っ!!」
「王都、王都!」
「わたし王都行ったことないっ」
「王都行きたい、お買い物したいっ」
「いいとも、マレンツのお友達だ、王府を上げて歓迎するよ」

 まったく、パリスとの付き合いも長いから、私が弱い所をよく知っているな。

「「「「わーいわーいっ!!」」」」
「わ、わたしもわたしもっ」
「みんなでいこうぜ」

 みんなとは叙任式で会えそうだな。
 私は冒険者ギルドのカウンターへと移動した。

「それでは、デズモンド領に行ってきます」
「はい、お早いお帰りを願っております、御領主さま」
「留守をおねがいします、レイラさん」

 微笑みを浮かべてレイラさんはうなずいた。

「おう、御領主さん、早く帰れよっ」
「俺は最初からあんたはただ者じゃあないとおもっていたぜ、また会おう」
「はい、ありがとうございます」

 私は、ハゲデブの人と髭もじゃのベテラン冒険者さんたちと挨拶をした。
 彼らにも世話になったな。

「さあ、行こうか、父さん、ステイシー」
「ずいぶん冒険者や子供に慕われているのだな」
「マレンツさまは素晴らしいお方ですから」
「そうか、そうだな」

 父さんは寂しそうにうなずいた。
 ありがとう、父さん。

 街を歩く。
 父さんは街を見る余裕がでたのか、目を細めてあたりを見回していた。

「活気のある街だな、これがお前の領地が、すばらしいな」
「代官代わりだよ、父さん、僕の領地ってわけでも無いよ」
「すばらしいです、マレンツさまっ」
「そ、その格好もとても格好が良いな、どこで仕立てたのだ」
「ああ、これ? この街の仕立屋さんだよ。派手じゃ無いかな」
「よくお似合いですよ、マレンツさま」

 まったく、ステイシーはいつも全肯定してくれて嬉しいね。

「お、流星、がんばってるね」

 流星がドブ掃除をしていた。

「おお、ハカセ……、いや、御領主さま、今日はお日柄もよく……」
「いいよハカセで」
「そうか、ハカセ。早く帰ってこいよ、その頃には俺は絶対D級になってるからよ」
「がんばれよ、流星」
「おう、まかせとけっ」

 流星は作業に戻った。

 広場の馬車溜まりに駐めてあったデズモンド家の馬車に乗る。
 この馬車に乗るのも久しぶりだな。

 馬車はゆっくりと走り出し、街のゲートを抜けた。

「あ、ちょっと駐めて。おーい、ガルフ」

 脇街に向かうガルフが居たので呼び止めた。

「お、マレンツ、おっと、フォースのオヤジさんも、仲直りかい?」
「ああ、そうだ」
「ガルフ、私はデズモンド領でビオランテの後始末をしに行くんだ、ドワーフたちはどうする?」
「そりゃおめえ、おまえさんの居る所が俺の居る所だからな、領都の鍛冶街も立て直してやんよ、だが、ここもおまえさんの領地になったんだろ、半分のドワーフはこっちに置いとくさあ」
「そうしてくれるか、悪いね」
「なに、迷宮都市は武器の大商いがあるからな、畳んじまうのはもったいねえしよ」

 ガルフはニッカリと笑った。

「そいじゃ、早く帰って、デズモンドの領民を安心させてやれ」
「ああ、そうするよ」

 馬車は走り出す。
 ガルフは満面の笑みでいつまでも手を振ってくれていた。

 迷宮都市の姿が窓の外でだんだんと小さくなっていく。
 ああ、早くデズモンド領を立て直して、また迷宮で冒険をしたいな。
 あのほの暗い迷宮には何か人の心を引きつけてやまない魅力がある。
 美しい魔王さんもいるしね。

 なるべく早く迷宮都市に戻ろう。
 私はそう心に誓った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...