真実の愛は水晶の中に

立木

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「そんな目? そのような態度なのですから当然です。それよりも、嫌がらせですが、わたくしには心当たりはありませんわ」
「なにをぬけぬけと。調べはついてるんだぞ! お前はリコリスに暴言を吐き、ドレスを破き、挙句の果てには、言うのもおぞましいことまでやろうとしていただろう!」
「本当に心当たりがないことばかりですわね。それに貴方様の言うことすべて、そのまま貴方様にお返しいたしますわ。
出会った頃から暴言ばかり、共に出席する予定のお茶会や夜会の際には、ドレスを贈るどころか汚し破く始末。さらには視察の際には珍しく上機嫌でいたと思っていたら、貧民街に置き去りにしていきましたわね?
護衛達が気づき大事には至りませんでしたが、一歩間違えばわたくしの尊厳はなくなり、さらに死するところでした。それなのに、どの口がいいますの?」

 暴漢に襲われそうになったと暴露したことで、周囲から特に女性から悲鳴が上がり、男性たちはギニアスに鋭く嫌悪を含めた視線をおくる。
 今まで事の成り行きを見守っていたギニアスの取り巻き三人も顔を顰めているが、彼らに背を向けているギニアスは気づかない。
 それはギニアスの腕に縋りつくリコリスも同じだった。暴漢のことを聞いても動じることなく、逆に「なんでその時未遂だったの」と呟く始末。これのどこが素直で可愛らしい女性だというのだろう。
 実に自分勝手で醜悪な二人。だからこそ、お似合いすぎる二人だった。
 レイシアは深くため息をすると、持っていた扇を勢いよく閉じる。
 今まで王家の命で秘匿としていたが、もういいだろうと言いたかったことをここぞとばかりに吐き出しすっきりした。
 秘匿は嫁入り前の年頃の令嬢であるレイシアを守るためにしていた。これが知られれば、何の落ち度もないレイシアが傷物とされ社交界から冷遇されてしまう。
 それを避けるため、暴言は照れ隠し、ドレスを破る行為も照れ隠しなどと苦しい言い訳を繰り返し、誤魔化してきた。暴漢の件は特に隠され、関わっていた者には口外しないよう王命まで下されていた。
 とはいっても、ギニアスの噂はひっそりと広がり、学園入学時には「ああ、アレが例の」といった具合に、王家の思惑とは裏腹に「暴力的で野蛮な王子」「アレがこの国の王子であることが恥ずかしい」といった評価になっていたが。
 これで護衛騎士や幼馴染の乳兄弟たちが、ギニアスを諌めているのならよかった。しかし、彼らは諌めるどころかギニアスに賛同する。
 それぞれ、婚約者がいたのだが、親同士、家同士の契約であり当人たちの意志は関係ない政略的な婚約に反発していたからだった。
 婚約者を嫌がる者同士、同族意識が芽生え、ギニアスがレイシアを陥れるたびに己の鬱憤を投影、発散させていた。
 魔術師に至っては単純にリコリスに心酔していただけである。
 彼女が泣いて「嫌がらせをされている」というと、彼らは自分たちと親しくしているため嫌がらせをしているんだと決めつけ、各々の婚約者に事実確認をせず一方的に抗議文を送りつけていた。
 結果、婚約者たちの家は激怒、婚約を白紙にした。破棄ではなかったのは浮気などという決定的なことがなく、さらに娘たちの将来を考えてのことだ。
 だが白紙になったことにより、彼らは自分たちは正しいことをしたと勘違いをしてしまった。ここでなぜ破棄ではなく白紙だったのか、抗議文の件だけで婚約解消となったのかを考えるべきだったのだ。
 気をよくした二人はギニアスに晴れ晴れとした顔で報告をいれた。それを聞いたギニアスは、二人ができたのだから自身もできると勘違いを起こし、それが今回の断罪劇となったのだった。

「それで? 嫌がらせでしたわね。心当たりがあるとすれば、そこの方……ミレニア男爵令嬢でしたかしら? その方が婚約者のいる方々に声をかけているところや、その距離が近く時にはしなだれかかるような態勢で縋りついているのを見て注意は致しましたわ。淑女たるものの心得を説いたこともあります。
それに男性と女性では態度が両極端でありましたので、卒業後の社交界にて苦労なさるかと思いまして改めるよう言ったこともありましたわね」
「確かに男の人との距離が近かったかもしれません! でも婚約者とのことで困っているのを助けていただけです!」
「それは貴女に声を掛けられて困っていらっしゃっただけでは? あの後ご事情をお聞きいたしましたが、宝飾品のことであれやこれやと一方的に話されていたとお聞きいたしましたわ。終いには強請られていたとか。
あの方のお家は鉱山をお持ちですからね。婚約者のご令嬢のお家も鉱石加工が優れているので、政略だと思われておいでの様でしたが、お二人は幼馴染で相思相愛の仲ですのよ? あわよく己に靡けば、宝石でも手に入れられるとでも思っておいででしたの?」

 婚約者を溺愛していることで有名ですのに知らないのですか?とワザと煽る様に言うと、リコリスは顔を真っ赤に染め「違うもん!」と叫んでくる。
 仮にも年頃の令嬢が「もん」などといった言葉使いをしていることに、周囲の目がさらに厳しくなる。幼い子供なら許される言葉や行動も、いい年をした女性がすればただのはしたない言動だ。

「ただ話していただけで注意なんてただの嫌がらせじゃない! 私は何も悪くないわ! それにマナーもちゃんと出来るもの、注意も忠告も私に必要ないわ!」
「そうですか……。ミレニア男爵令嬢、忠告や心得を説くことが嫌がらせになるとは思っておりませんでしたわ。申し訳ありませんでした。
ではこれからは誰からも注意、忠告、心得や心構えなど説かぬように、他の方々にお伝えいたしましょう。
令息令嬢たちがご家族にお話しなさるかもしれませんが、これは貴女様が望んでいることですと強めに言えばどなたも口出しはなさいませんわ。安心なさって」

 衆目の中で言質はとった。
 仮にギニアスと婚姻を結ぼうにも、身分が低すぎて無理だろう。解決するには高位貴族の養女となる必要がある。
 しかしたった今、彼女は誰からも助言のたぐいを受け入れないと言った。つまり高位貴族特有の淑女教育は受け入れないと言ったも同然。
 これでは仮に王族であるギニアスが名ばかりの貴族になったとしても嫁ぐことはできない。低くとも伯爵位でなければ体裁を保てないからだ。
 
「それにしても男爵位では王家からの婿入りなど到底無理ですのに、もしやミレニア男爵令嬢は愛妾の方をお望みでしたのかしら。それなら納得のいくことですわね」
「え? は? 愛妾ってたしか……愛人じゃなかった!? 全然違うわよ!」
「リコリスを愛妾!? 貴様口が過ぎるぞ!!」

 リコリスとギニアスが唾を飛ばさん勢いで否定してくる。しかしそれなら納得もいったというもの。

「ですが、高位貴族の養女にならなければ王家筋の方と婚姻は結べません。ですから愛妾を希望と思ったのですわ。
仮にそこの伯爵令息と婚姻を結ぼうにも同じ理由で出来ませんわね。
護衛の方は子爵家の三男だったかと思いますが、爵位はお持ちではありませんし、もしやそちらが本命ですの? 魔術師の方は平民出身でしたわね。こちらの可能性も……」
「三人も好きですけど、私が一番好きなのはギニアス様だけです!」
「あら? 好きにも種類があると思いましてよ。貴女は友人として好きであるといいたいのですわよね?」
「違います! 四人とも愛しています! でも一番愛しているのはギニアス様なんです!」
「リコリス! 俺もリコリスが一番好きだ!」
「まあ! 嬉しいです~!」

 こちらが誘導していてなんだが、断罪の寸劇はもういいということなのか、二人が抱き合いながら愛を確かめ合っているのを胡乱な目で見ながら、閉じている扇の柄で手を打ち鳴らす。
 
「ハイハイ。二人だけで酔いしれないでくださいませ。それで、そこの三人様、彼女はこのようにおっしゃっていますが?」

 睨むだけで言葉を発していなかった三人は、レイシアに言われ各々顔を見合わせ始めた。
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