婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます！

5

「ここが……私の部屋……？」

ドアを開けた瞬間、鼻を突くほこりっぽい空気。  
小さな窓からは十分な光も入らず、室内は薄暗い。

「……思ってたより……ずっと狭い。」

畳むと小さな荷物が、部屋の隅をすぐに埋めてしまうほど。  
長い廊下の奥の奥、誰も来ないような場所にこの部屋はあった。

「ええと……これは……ベッド、でいいのよね？」

ぽつんと置かれた簡易ベッドは、少し体重をかけるとギシギシ音を立てる。  
シーツは自分で用意しなければならないようだ。

「……はぁ……」

思わずため息が漏れる。  
これまで贅を尽くした部屋で暮らしていた名残が、今の空間とのギャップを大きく感じさせる。

「こんなところで、本当に暮らせるのかな……」

不安が胸を締めつける。  
しかし、自分で選んだ道。もう逃げ場はないのだ。

「とりあえず、荷解きしないと……」

低い声でつぶやきながら、ようやく重い腰を上げる。  
窓を開け放して、古びた掃除道具を使い始めた。

「意外とホコリがすごい……」

掃除をしてみると、多少は部屋が広く見えてくる。  
少しずつだが、無心に体を動かすことが苦しい気持ちを紛らわせてくれた。

「こんなことで、慰めになるなんてね……」

苦笑いが漏れる。  
使用人がいた頃は、こんな掃除を自分でするなんて想像もしていなかった。  
結局、自分は何もできない人間だったと思い知らされる。

「……私、これからどうやって食事を用意すればいいのかしら。」

料理の経験なんて、もちろんない。  
それどころか、家事全般に疎い。  
一体、どうやって暮らしていけばいいのか途方に暮れる。

「いっそ、今からでもお父様に謝れば……？」

その考えが頭をよぎった瞬間、父の冷たい言葉を思い出す。  
もう戻れない。自分が変わらない限り、あの家の門は開かれないだろう。

「仕方ないわ……自分でやるしか……」

また小さくつぶやくと、少しずつ部屋の片付けに戻る。  
だが、張りつめていた気持ちは、夜を迎える頃にはすっかり崩れていた。

「……寂しい。」

広い屋敷ではなく、この狭い部屋でただ一人。  
誰かに話すこともなく、暖炉もなく、夜は冷え込む。

「なんでこんな風になっちゃったの……」

後悔の涙がこぼれる。  
しかし、時間は戻らない。  
暗い部屋の中で、ただ孤独と向き合う夜が始まるのだった。

「……頑張るって決めたのに、弱音ばかり……」

自分を責めても虚しさが増すばかり。  
やがて布団をなんとか敷いて、そのまま眠りに落ちてしまった。  
涙の跡だけが、枕に染み付いていた。