婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます!

如月みつき

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「これでよし……あ、もう少し右かな?」

開店初日を迎えた朝。  
セルフィーナはエリザと一緒に、店の入り口に看板を取り付けていた。  
少し傾きが気になるが、二人でなんとか微調整を繰り返す。

「大丈夫、まっすぐになってるよ。いい感じ。」

扉を開けて店内を見渡すと、内装はまだ完全とは言えない。  
壁も仮の塗装が終わっただけで、棚や道具がシンプルに配置されている。  
それでも最低限の装飾と、何点か用意した服が並んだスペースは、どこか温かさを感じさせる。

「さあ……いよいよ開店ね。」

本当にお客が来てくれるのだろうかという不安はあるが、今のセルフィーナはそれ以上に期待が大きい。  
自分の手で築いた店だという自負が、心を強く支えてくれる。

「おめでとう、セルフィーナ。」

そこへ現れたのはミリア。店で一緒に働いていた仲間だ。  
忙しい合間を縫って、お祝いに駆けつけてくれたのだ。

「ありがとう、ミリアさん……実は内心、すごくドキドキしてるんです。」

顔を赤らめながら言うセルフィーナに、ミリアは優しく微笑む。

「最初はみんなそうよ。でもあなたなら大丈夫。これまで頑張ってきたじゃない。」

そして小さな包みを渡してくれた。  
中には綺麗なテーブルクロスと、香りのいいポプリが入っている。

「これ、ほんの気持ちね。店内に飾ったらきっと華やかになるわよ。」

思わぬ贈り物に目頭が熱くなる。  
下町に来たばかりの頃は、誰も助けてくれないと思い込んでいた。  
しかし今は、こんなにも人の温かさを感じられるようになった。

「本当にありがとうございます……私、頑張ります。」

そんな和やかなやり取りをしていると、外から誰かが声をかける気配がする。  
恐る恐る扉を開けると、一人の女性が入ってきた。

「あの……最近できたお店って聞いて、ちょっと見せてもらってもいいですか?」

第一号のお客様。  
セルフィーナは驚きつつも、最上の笑顔で迎える。

「はい、もちろんです。ようこそ、いらっしゃいませ。」

そうして“セルフィーナ・デザイン”は、記念すべき開店の日を迎えた。  
決して大勢の客が詰めかけるわけではないが、ぽつりぽつりと人が訪れてくれるだけで胸が躍る。

「よかった……私、ちゃんと開店できたんだ……」

合間にエリザと目が合い、二人で小さくガッツポーズをとる。  
こうして新たな一歩がスタートする。  
これまでの苦労が一気に報われたような、そんな満ち足りた気持ちがセルフィーナを包み込んでいた。
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