婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます！

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「クラヴィス様、こちらです。小さな店ですが……どうぞ。」

数日後。  
互いに都合をつけ、再度会う約束を取り付けたセルフィーナは、思い切って自分の店へクラヴィスを案内した。  
埃まみれだった建物を改装し、一から始めた小さな服飾店。  
今はそこそこお客も増え、暖かい雰囲気を醸し出している。

「ここが……君の店なのか。」

店内を見回すクラヴィス。  
かつての社交界で見た豪華なドレスはなく、代わりに素朴でセンスの光る服が並んでいる。

「ええ。デザインから縫製まで、私がやっているものも多いんです。もちろん、仲間にも手伝ってもらっていますけど。」

恥ずかしさと誇らしさが混じった表情で、セルフィーナは説明する。  
クラヴィスは真剣な眼差しで服のディテールを眺め、軽く手触りを確かめていた。

「こんな形や色使い、王城ではあまり見なかったな。下町の人が気軽に着られるように工夫されているのか。」

彼が素直に感心していることに、セルフィーナは胸を打たれる。

「はい。上流貴族向けのドレスだけが服じゃない。こういう服だって、人を幸せにできるって気づいたんです。」

かつては高価なドレスばかり求め、周囲を見下していた自分。  
今は、着る人の暮らしに寄り添った服を作ることに喜びを感じる。

「君がここまで変わるなんて……正直、想像していなかった。」

クラヴィスはどこか驚いたように言葉を続ける。  
その声には、少し誇りに思うような響きさえ感じられた。

「でも、本当にいい店だな。雰囲気も温かいし、君がここにいるときの表情がまるで違う。」

セルフィーナは小さく笑いながら答える。

「家から追い出されたときは、本当にどうしようもなかったけど……この下町で色々学んだんです。今の私は、それでやっとまともになれたというか。」

クラヴィスが視線を落とし、少し難しい顔をする。

「……悪かった。君をあの形で追い詰めることになって。もう少し違う関係が築けていたらと、時々考えるよ。」

けれど、セルフィーナは頭を振る。

「いいえ。もしあのまま婚約が続いていたら、私はきっと何も変わらずにわがままを言い続けていたと思います。だから、あれでよかったんです。」

そう言いながら、そっと服の裾を撫でる。  
ここでの経験がすべてを変えたのだと感じる。

「今は……私の大切な人もいるし。この店もあるし。こうして自由に服作りをできることが、幸せなんです。」

クラヴィスはそれを聞いて、どこか安堵の表情で頷いた。

「そうか。君の姿を見て安心したよ。……新しい生活、大事にしてくれ。」

セルフィーナは微笑み返す。  
かつての愛はもうないが、過去を乗り越えた二人には少しだけ温かな友情が芽生えているように思えた。  
こうして、変わった彼女の姿をしっかり見せることができたのは、大きな一歩だった。