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「チェムリー、近ごろさらに仲睦まじそうじゃない?」
ある日の昼下がり、チェムリーが自室で書き物をしていると、母のディアナが笑顔で顔を出した。淡い色のワンピースを着た彼女は、いつも以上に楽しそうだ。
「母さま、何の話?」
「セイリル殿下よ。あなたのことを“チェムリーは優しいし、一緒にいると落ち着く”って褒めてたわよ」
「そうなんだ。あまり褒められ慣れてないから、なんだか照れるわね」
チェムリーは書類を閉じ、ディアナを見つめる。母からそんな直接的な言葉を聞かされると、心がくすぐったい。
「父さまと話したんだけど、そろそろセイリル殿下のお父上――ジャック国王にご挨拶を兼ねたお食事会でもしようかと思ってるの。もちろん、あなたも出席してね」
「お食事会って、そんなに大げさに……」
「まあ、まだ正式な場というわけでもなく、あくまで『契約についての意見交換』という体裁だけどね。でも、せっかくだから食事を交えたほうが和やかでしょう?」
ディアナはまるでピクニックの計画をするかのように軽やかに言う。チェムリーは少し不安がよぎるが、両親ののんびりした性格なら、余計な形式張った感じにはならないかもしれない。
「そうね……王様に改めてお会いするのは少し緊張するけど、セイリルさんもいるなら心強いかも」
「ふふ、そうよ。あなたが大丈夫なら、近いうちに日時を決めるわね」
そう言うと、ディアナは「楽しみにしてるわ」とウキウキとした足取りで去って行った。チェムリーはその後ろ姿を見送りつつ、机に視線を戻す。
(王様に会う……正式な話に持っていかれたらどうしよう)
そんな不安が頭をかすめるが、すぐに首を振る。セイリルが今のところ焦るつもりはないと言っていたし、両親も強制する気はなさそうだ。むしろ“お食事会”という形で、ゆるやかに会っておこうという狙いだろう。
「大丈夫、焦らなくていい。今の私たちなら、ただの顔合わせだって思えばいいか」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、再び書き物に戻る。だが、胸の奥には少なからず緊張があった。
数日後、セイリルから手紙が届く。そこには「王様から“近々、公爵家で会食の予定があると聞いた”という話があったけど、チェムリーは大丈夫?」という気遣いの文面が。
「やはり話が行き渡ってるのね……」
チェムリーは苦笑まじりに手紙を読みながら、すぐに返事を書き始める。大丈夫だと伝えると同時に、自分が少し不安になっている胸の内も、ほんの少しだけ打ち明けてみた。
「きっとセイリルさんなら、わかってくれる……」
便箋に思いを託し、封をして使用人に託す。彼からの返事が待ち遠しいと感じている自分に気づき、チェムリーは嬉しさと恥ずかしさが入り混じった複雑な表情を浮かべる。
翌朝、セイリルからの返事が届いた。彼の手紙には「僕も最初は緊張していたけど、父上からは『大袈裟な会ではない』と聞かされて安心した。チェムリーがいてくれれば僕も頑張れる」という言葉が綴られていた。
「……そう言ってくれるなら、私も心強いわ」
チェムリーはほっと安堵する。こうしてお互いに気持ちを伝え合えるのは、ただの“婚約前の他人”というより、もっと親密な間柄に近いのではないか――そんな予感がじわりと胸を満たしてくる。
そして当日。王様を招く会食は夕刻から始まる予定だった。チェムリーは母と一緒に準備を整え、父のレオンも珍しく早めに執務を切り上げている。緊張感というよりは、いつもより少しだけ厳粛な空気が屋敷を包んでいた。
「チェムリー、ドレスの具合はいいか?」
父が書斎から出てきて、チェムリーの姿を確認する。今日は上品な水色のドレスを選んだ。そこには特別な装飾は施さず、落ち着いた印象にまとめている。
「これなら大丈夫かな?」
「似合ってるよ。王様もセイリル殿下も安心するんじゃないか」
レオンはそう言って軽くうなずく。それでも、チェムリーにとっては普段より緊張する場面なので、胸は少し高鳴っていた。
「よし、では迎える準備をしようか」
父の合図で、チェムリーたちは玄関ホールへと移動する。まもなく、王家の馬車が到着し、ジャック国王とセイリル、そして数人の侍従が姿を見せた。
「ようこそ、トーマス公爵家へ」
父と母が笑顔で出迎え、国王とセイリルも柔らかい表情で応じる。チェムリーは一礼しながらも、ちらりとセイリルに目を向けると、彼が「大丈夫?」と目で問いかけてくるのがわかった。チェムリーは無言でわずかにうなずき、表情を和らげる。
こうして、少しの緊張感と大きな期待を抱えながら、チェムリーとセイリルの家族同士の会食が幕を開けることとなった。果たして、どんな話が飛び出すのだろう。チェムリーは胸の奥でそっと息を整え、夕刻の柔らかな灯りに照らされる食卓へと足を進めた。
ある日の昼下がり、チェムリーが自室で書き物をしていると、母のディアナが笑顔で顔を出した。淡い色のワンピースを着た彼女は、いつも以上に楽しそうだ。
「母さま、何の話?」
「セイリル殿下よ。あなたのことを“チェムリーは優しいし、一緒にいると落ち着く”って褒めてたわよ」
「そうなんだ。あまり褒められ慣れてないから、なんだか照れるわね」
チェムリーは書類を閉じ、ディアナを見つめる。母からそんな直接的な言葉を聞かされると、心がくすぐったい。
「父さまと話したんだけど、そろそろセイリル殿下のお父上――ジャック国王にご挨拶を兼ねたお食事会でもしようかと思ってるの。もちろん、あなたも出席してね」
「お食事会って、そんなに大げさに……」
「まあ、まだ正式な場というわけでもなく、あくまで『契約についての意見交換』という体裁だけどね。でも、せっかくだから食事を交えたほうが和やかでしょう?」
ディアナはまるでピクニックの計画をするかのように軽やかに言う。チェムリーは少し不安がよぎるが、両親ののんびりした性格なら、余計な形式張った感じにはならないかもしれない。
「そうね……王様に改めてお会いするのは少し緊張するけど、セイリルさんもいるなら心強いかも」
「ふふ、そうよ。あなたが大丈夫なら、近いうちに日時を決めるわね」
そう言うと、ディアナは「楽しみにしてるわ」とウキウキとした足取りで去って行った。チェムリーはその後ろ姿を見送りつつ、机に視線を戻す。
(王様に会う……正式な話に持っていかれたらどうしよう)
そんな不安が頭をかすめるが、すぐに首を振る。セイリルが今のところ焦るつもりはないと言っていたし、両親も強制する気はなさそうだ。むしろ“お食事会”という形で、ゆるやかに会っておこうという狙いだろう。
「大丈夫、焦らなくていい。今の私たちなら、ただの顔合わせだって思えばいいか」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、再び書き物に戻る。だが、胸の奥には少なからず緊張があった。
数日後、セイリルから手紙が届く。そこには「王様から“近々、公爵家で会食の予定があると聞いた”という話があったけど、チェムリーは大丈夫?」という気遣いの文面が。
「やはり話が行き渡ってるのね……」
チェムリーは苦笑まじりに手紙を読みながら、すぐに返事を書き始める。大丈夫だと伝えると同時に、自分が少し不安になっている胸の内も、ほんの少しだけ打ち明けてみた。
「きっとセイリルさんなら、わかってくれる……」
便箋に思いを託し、封をして使用人に託す。彼からの返事が待ち遠しいと感じている自分に気づき、チェムリーは嬉しさと恥ずかしさが入り混じった複雑な表情を浮かべる。
翌朝、セイリルからの返事が届いた。彼の手紙には「僕も最初は緊張していたけど、父上からは『大袈裟な会ではない』と聞かされて安心した。チェムリーがいてくれれば僕も頑張れる」という言葉が綴られていた。
「……そう言ってくれるなら、私も心強いわ」
チェムリーはほっと安堵する。こうしてお互いに気持ちを伝え合えるのは、ただの“婚約前の他人”というより、もっと親密な間柄に近いのではないか――そんな予感がじわりと胸を満たしてくる。
そして当日。王様を招く会食は夕刻から始まる予定だった。チェムリーは母と一緒に準備を整え、父のレオンも珍しく早めに執務を切り上げている。緊張感というよりは、いつもより少しだけ厳粛な空気が屋敷を包んでいた。
「チェムリー、ドレスの具合はいいか?」
父が書斎から出てきて、チェムリーの姿を確認する。今日は上品な水色のドレスを選んだ。そこには特別な装飾は施さず、落ち着いた印象にまとめている。
「これなら大丈夫かな?」
「似合ってるよ。王様もセイリル殿下も安心するんじゃないか」
レオンはそう言って軽くうなずく。それでも、チェムリーにとっては普段より緊張する場面なので、胸は少し高鳴っていた。
「よし、では迎える準備をしようか」
父の合図で、チェムリーたちは玄関ホールへと移動する。まもなく、王家の馬車が到着し、ジャック国王とセイリル、そして数人の侍従が姿を見せた。
「ようこそ、トーマス公爵家へ」
父と母が笑顔で出迎え、国王とセイリルも柔らかい表情で応じる。チェムリーは一礼しながらも、ちらりとセイリルに目を向けると、彼が「大丈夫?」と目で問いかけてくるのがわかった。チェムリーは無言でわずかにうなずき、表情を和らげる。
こうして、少しの緊張感と大きな期待を抱えながら、チェムリーとセイリルの家族同士の会食が幕を開けることとなった。果たして、どんな話が飛び出すのだろう。チェムリーは胸の奥でそっと息を整え、夕刻の柔らかな灯りに照らされる食卓へと足を進めた。
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