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式典から数日後。チェムリーとセイリルは公爵邸の庭を散歩していた。空気は少しひんやりとしながらも澄んでいて、花々の色が一段と鮮やかに見える。
「セイリルさん、式典が終わってから周囲の反応はどう? 王宮で何か言われなかった?」
チェムリーが首を傾げて尋ねると、セイリルは「意外と“よかった”って声が多いよ」と笑う。
「みんな、僕がちゃんと結婚について考えてるんだと知って安心したみたい。前までは“ヘンテコ王子がどこまで真剣なのか”って疑ってた人もいたからさ」
「なるほど。私のほうは……おめでとうって言われることが増えたんだけど、実際はまだ婚約してないのに、って戸惑うこともあるよ」
チェムリーが困った顔をすると、セイリルは「はは、確かにそうだね」と苦笑する。
「まあ、もう半分婚約したも同然みたいに見られてるから、ある意味気楽かも。下手なライバルも近づいてこないし」
「それは大事かも。あのエルナ嬢も黙ってるんでしょ?」
「うん、最近は何も言ってこないね。むしろ、『お幸せに』ってわざわざ手紙をもらったくらい」
チェムリーは「あら、意外」と目を丸くする。エルナが最後に見せた淡々とした態度は、どうやら本心だったらしい。
「そう考えると、僕らも少し落ち着いた時間を持てそうだね。お試し婚約の間に、お互いもっといろんなことを学んで、実力をつけておきたいな」
セイリルが静かに提案する。チェムリーも「そうだね」と同意して歩を進める。
「私も、王宮での公務を手伝えるように勉強したい。公爵家の資料を読むだけじゃなくて、実際に政治や行政の仕組みを学ばなきゃ」
「僕も一緒に勉強したいよ。チェムリーは飲み込みが早いから、いい刺激をもらえそう」
二人は笑い合いながら、噴水のそばまでやって来た。初めてここで話をしたときの光景がよみがえり、チェムリーは懐かしさを感じる。
「セイリルさん、私ね……式典のあと、ちょっとだけ“そろそろ正式に婚約してもいいかな”って気持ちになったの」
意を決してチェムリーが言うと、セイリルは目を丸くする。すぐに顔をほころばせ、「ほんと?」と嬉しそうに問いかけた。
「うん、でも、まだ100パーセントの自信があるわけじゃなくて……。自分が王子のパートナーとしてちゃんとやっていけるのか、まだ不安もあるし」
「そっか。僕も国王としての責任がちゃんと担えるか不安だらけだよ。でも、その不安を一緒に解消していこう。僕ら、焦らなくてもいいんだから」
セイリルは優しくチェムリーの手を取り、強く握りしめる。温かさが伝わり、チェムリーの胸に確かな安堵が生まれた。
「……そうだね。じゃあ、もう少しだけお試し期間を続けて、互いに自信がついたら、改めて正式婚約に踏み切ろうか」
「うん、それがいい」
二人は噴水の水面を見つめながら、静かに微笑み合う。“婚約破棄”から始まった奇妙な縁が、今や揺るぎない思いと信頼に結びついている。最初は破棄したかったはずのセイリルが、今ではチェムリーなしでは考えられないほどに惚れ込んでいるし、チェムリーも彼に夢中だ。
「ねえ、セイリルさん。もし将来、本当に私がお妃様になったら……あなたを“ヘンテコ王子”って呼んでた過去、ばれちゃうかな」
チェムリーが冗談めかして言うと、セイリルは吹き出しながら応じる。
「ばれたらどうしようね。でもいいや、僕がヘンテコだってことはもうみんな知ってるし」
「そうだね。私も、『ヘンテコ王子とマイペース公爵令嬢』なんて言われたらそれはそれで面白いかも」
笑い合う二人の姿に、屋敷の使用人たちはほほえましい表情を浮かべている。
これまで紆余曲折あったが、ようやくここまでたどり着いた。お試し婚約はまだ続くが、三十五話目にしてチェムリーはセイリルを“好き”だとはっきり自覚し、セイリルもまた正式な婚約への道を信じ始めている。
「じゃあ、いつか必ず正式に迎えに来るから……その時は『はい』って言ってほしい」
「うん、その時までに私ももっと強くなるね。あなたの隣に並んで恥ずかしくないように」
セイリルとチェムリーは再び手を取り合い、ゆっくりと歩き出す。ふと、チェムリーはエルシェの涙が咲いていた離宮の光景を思い出した。あの花の満開に重ねた誓いは、これから先も二人の道を導いてくれるだろう。
(いつか、本当に結婚しよう。そう心から言える日が来るまで、私たちは一緒にいよう)
そう思いながら、チェムリーはセイリルの肩にほんの少し寄り添ってみる。彼もそれを自然に受け止め、やがて夕暮れ色に染まり始める庭を眺めながら、微笑みを交わす。
こうして、一筋縄ではいかない婚約騒動はひとまずの平穏を迎えた。ヘンテコ王子とマイペース令嬢の未来は、まだまだ続く――そして、その先には、きっと本当の婚約が待っているはずだ。
「セイリルさん、式典が終わってから周囲の反応はどう? 王宮で何か言われなかった?」
チェムリーが首を傾げて尋ねると、セイリルは「意外と“よかった”って声が多いよ」と笑う。
「みんな、僕がちゃんと結婚について考えてるんだと知って安心したみたい。前までは“ヘンテコ王子がどこまで真剣なのか”って疑ってた人もいたからさ」
「なるほど。私のほうは……おめでとうって言われることが増えたんだけど、実際はまだ婚約してないのに、って戸惑うこともあるよ」
チェムリーが困った顔をすると、セイリルは「はは、確かにそうだね」と苦笑する。
「まあ、もう半分婚約したも同然みたいに見られてるから、ある意味気楽かも。下手なライバルも近づいてこないし」
「それは大事かも。あのエルナ嬢も黙ってるんでしょ?」
「うん、最近は何も言ってこないね。むしろ、『お幸せに』ってわざわざ手紙をもらったくらい」
チェムリーは「あら、意外」と目を丸くする。エルナが最後に見せた淡々とした態度は、どうやら本心だったらしい。
「そう考えると、僕らも少し落ち着いた時間を持てそうだね。お試し婚約の間に、お互いもっといろんなことを学んで、実力をつけておきたいな」
セイリルが静かに提案する。チェムリーも「そうだね」と同意して歩を進める。
「私も、王宮での公務を手伝えるように勉強したい。公爵家の資料を読むだけじゃなくて、実際に政治や行政の仕組みを学ばなきゃ」
「僕も一緒に勉強したいよ。チェムリーは飲み込みが早いから、いい刺激をもらえそう」
二人は笑い合いながら、噴水のそばまでやって来た。初めてここで話をしたときの光景がよみがえり、チェムリーは懐かしさを感じる。
「セイリルさん、私ね……式典のあと、ちょっとだけ“そろそろ正式に婚約してもいいかな”って気持ちになったの」
意を決してチェムリーが言うと、セイリルは目を丸くする。すぐに顔をほころばせ、「ほんと?」と嬉しそうに問いかけた。
「うん、でも、まだ100パーセントの自信があるわけじゃなくて……。自分が王子のパートナーとしてちゃんとやっていけるのか、まだ不安もあるし」
「そっか。僕も国王としての責任がちゃんと担えるか不安だらけだよ。でも、その不安を一緒に解消していこう。僕ら、焦らなくてもいいんだから」
セイリルは優しくチェムリーの手を取り、強く握りしめる。温かさが伝わり、チェムリーの胸に確かな安堵が生まれた。
「……そうだね。じゃあ、もう少しだけお試し期間を続けて、互いに自信がついたら、改めて正式婚約に踏み切ろうか」
「うん、それがいい」
二人は噴水の水面を見つめながら、静かに微笑み合う。“婚約破棄”から始まった奇妙な縁が、今や揺るぎない思いと信頼に結びついている。最初は破棄したかったはずのセイリルが、今ではチェムリーなしでは考えられないほどに惚れ込んでいるし、チェムリーも彼に夢中だ。
「ねえ、セイリルさん。もし将来、本当に私がお妃様になったら……あなたを“ヘンテコ王子”って呼んでた過去、ばれちゃうかな」
チェムリーが冗談めかして言うと、セイリルは吹き出しながら応じる。
「ばれたらどうしようね。でもいいや、僕がヘンテコだってことはもうみんな知ってるし」
「そうだね。私も、『ヘンテコ王子とマイペース公爵令嬢』なんて言われたらそれはそれで面白いかも」
笑い合う二人の姿に、屋敷の使用人たちはほほえましい表情を浮かべている。
これまで紆余曲折あったが、ようやくここまでたどり着いた。お試し婚約はまだ続くが、三十五話目にしてチェムリーはセイリルを“好き”だとはっきり自覚し、セイリルもまた正式な婚約への道を信じ始めている。
「じゃあ、いつか必ず正式に迎えに来るから……その時は『はい』って言ってほしい」
「うん、その時までに私ももっと強くなるね。あなたの隣に並んで恥ずかしくないように」
セイリルとチェムリーは再び手を取り合い、ゆっくりと歩き出す。ふと、チェムリーはエルシェの涙が咲いていた離宮の光景を思い出した。あの花の満開に重ねた誓いは、これから先も二人の道を導いてくれるだろう。
(いつか、本当に結婚しよう。そう心から言える日が来るまで、私たちは一緒にいよう)
そう思いながら、チェムリーはセイリルの肩にほんの少し寄り添ってみる。彼もそれを自然に受け止め、やがて夕暮れ色に染まり始める庭を眺めながら、微笑みを交わす。
こうして、一筋縄ではいかない婚約騒動はひとまずの平穏を迎えた。ヘンテコ王子とマイペース令嬢の未来は、まだまだ続く――そして、その先には、きっと本当の婚約が待っているはずだ。
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