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第三章 エルフの森

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「え!?」
 剣は茎にめり込んだ刃と、ミルリーフの握る剣の持ち手の二つに分かれていた。

「そんな……」
 ミルリーフは刃を失い、持ち手だけになった剣を見て絶望した。

 モンスターは立ちすくむミルリーフをツルで殴りつける。
「うっ!」
 ミルリーフの体は吹き飛ばされ、地面を転がる。

「だ、大丈夫か!?」

「う、うん……でも剣が……どうしよう……」

 あまりに軽くなってしまった持ち手だけになった愛刀を眺め、今にも泣き出しそうなミルリーフ。

「おい! 立て!」
「……」
 女剣士の呼びかけにもうつろな表情で座り込むミルリーフ。

「……まったく、情けない女だな! 剣が折れたくらいでピーピーと!」
 女剣士は一人で立ち上がる。

「……キサマは本当に勇者たちの子孫なのか? がっかりだ」
「……」

 女剣士は一人、モンスターへと駆け寄り、剣を振り続ける。
 迫りかかるツルを斬り、茎に刃を突き立てるが相変わらず傷が付くだけで斬り落とせる気配はない。
 それでも諦めずに戦い続ける姿をミルリーフは見ていた。

「そうよね……情けないったらありゃしないわ……」
 ミルリーフは涙をぬぐい、持ち手だけになった壊れた剣を力強く握りしめながら立ち上がる。

「勇者の子孫がこれくらいで落ち込んでちゃダメね!」

 アルカンタラは眠り、繭になってしまった。
 相棒のエルフの女剣士の攻撃も効いてない。おまけに自分の剣は壊れてしまったと言う絶望的状況。しかし、ミルリーフの体内からは熱いなにかが溢れ出そうとしていた。

 今の自分に何ができるというわけではないが、ミルリーフはモンスターへと向かっていく。
 壊れた剣を持つ手に一層、力が入る。
 その時、剣の持ち手の部分から光が漏れ出す。

「えっ!?」
 突然の出来事にミルリーフは自分の折れた剣に目を落とす。すると、折れた刃の部分が光の刃となった。

「これは……もしかして魔法剣!?」
 無我夢中だったミルリーフは自分でもその光輝く刃が何なのかわかっていなかった。

「これなら……イケるのかしら……?」

 ミルリーフは光の剣を強く握り、傷をつけるだけで精一杯だったモンスターの太い茎に斬りかかる。

『ザンッ』
 太い茎はさっきまでとは打って変わって、まるで豆腐に刃を入れるかのようにサクッと斬れた。

 紫牙草の動きが止まる。地面から伸びる体を支える茎を絶たれたのだ。長い体はゆっくりと傾き、紫牙草は地面に倒れ込んだ。

「はぁはぁ……」
 はじめての魔法剣に、その魔法剣の威力にミルリーフは驚いていた。

「ミルリーフ! すごいぞ、あのモンスターを一撃とは…… はやくアルカンタラを助け出そう」

「そ、そうね」

 倒れた紫牙草からアルカンタラを包む繭を引き離し、繭を破る。

「ムニャムニャ……ん? 朝か……?」
 そこには幸せそうに眠るアルカンタラがいた。
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