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TAKE集3
しおりを挟む(NG04シーン TAKE1)
「冷めてんなぁ、オイ。華の女子高生が勿体ねぇ」
呆れ気味に差し出されたものを掴むと写真だった。
証明写真だろう、男女が二人ずつ、計四人分ある。
男も女も髪を染めたりピアスをしていたり、年の頃は二十代半ばか後半、場合によってはもう少し若いかもしれないが四人ともヤンチャそうだ。
「誰ですかこれ」
「質問はナシだ。それ見てどうだ?」
「どうって――……えっと……。あ、あれだ! 俳優の(ピー)さんと(ピー)さんにこっちの人たち似てますよね!」
「セリフ忘れたんならそう言えよ」
苦し紛れの紗枝の言葉に冬木が突っ込む。
運転席にいた新見が堪え切れずに噴き出した。
(NG05シーン TAKE1)
「あ、あの…?」
「コイツは気にすんな。ヤボ用で連れて来ただけだ」
冬木が扉の片方をスライドさせると微かにギィと鳴ったが、定期的に油を差してあるのか錆びた見かけに反し滑らかに動いた。
中は薄暗く、床にはよく分からない機械や電気コードらしきものが雑然と置かれており、下手に触ると逆に怪我をしそうである。
扉を閉めた冬木を先頭に物の間を縫って歩く。
工場内の空気は澱んでいるのに置かれている機械の類は半分近くは埃を被っていない。物によっては外へ出したのか引き摺ったような跡があって、大半はカバーがかけてあるもののそれなりの頻度で使われているように見える。
奥へ進むと冬木がふと屈んで床を探る。
すぐに何かを見つけた様子で引き上げた。
それは勢い良く持ち上がってバターンと音を立ててひっくり返る。
「ごほごほ!」
「っ、冬木!」
立ち上がった埃に咳き込む紗枝と新見に冬木が謝った。
「悪い、勢い付け過ぎた」
(NG05シーン TAKE1)
わりと綺麗な顔立ちをしている男に冬木が近付くと周囲の男達が頭と顎を掴んで無理矢理固定させ、開かれた口に工具が突っ込まれて気付いた。
あれはペンチではなくエンマという釘抜きだ。
この場合、何を抜くのかは見なまで言う必要はない。
ブチリと千切るように冬木が工具を引き抜くだけで絶叫が木霊する。
小さな音を立てて落ちた歯は喫煙者なのか黒く黄ばんで血が滲んでいた。
傷みから逃げ出そうともがく男の体は椅子ごと抑え付けられているためビクビクと痙攣するだけに留まっているが、本来ならば地面を転がり回りたいくらいの激痛だろう。
麻酔なしの抜歯は古くからある拷問の一つだ。
仲間の絶叫に耐え切れなかったらしい女の一人が粗相をした。
椅子から床へ滴り落ちて広がっていく液体を見て、初めて周囲の男達が笑う。
誰が掃除すると思ってんだよ、きったねー。そんな中傷が聞こえても女は恐怖に体を震わせ、泣きながら何度も首を振って現実から目を逸らしたがった。
その隣では冬木が容赦なく動けない男の歯を抜いている。
よく見ればその男も漏らしていた。
どこか別世界のことみたいに様子を眺めていた紗枝の横に新見が寄った。
「外に出ますか?」
紗枝は軽く首を振って否定した。
「平気です」
血と煙草とアンモニア、汗の臭い。
そうして聞こえてくる悲鳴と鳴き声。
全てが現実なのに、非現実的な感覚がする。
突然冬木が手を下したかと思うとエンマを手離した。
ごとん、と音を立てて床に落ちる。
「冬木さん?」
台本と違う動きに紗枝が不思議そうに声をかけた。
「あー……、腕疲れちまって掴めねえわ」
その手はぷるぷる震えていた。
「もう年かね」
「それを言ったら私もオジサンになってしまいますよ」
「おう、十七からすりゃ三十四はジジイだろ」
「……とりあえず休憩入れましょうか、お二人共」
脱線する冬木と新見に待ったをかけた紗枝。
その場にいた全員が苦笑した。
ちなみに抜いていた歯は全て入れ歯だそうな。
それは疲れる訳である。
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