そして錬金術師へ、無限の先の到達点を。【改訂版:ルートα】

おとも1895

文字の大きさ
4 / 30
Re:1st 《錬金術師》と狂気の異世界

第4話 異世界の《風景》を

 どこへ行っても結局、人間は自分と他人を区別しなければ生きていけない。
 この世界に存在する世間一般的に《ランク》と呼ばれる概念はそれが顕著に現れている。

 D級からS級まで自他との力の差を一般に公開する。
 故に進はこの世界をこう呼んだ。


(異能至上主義の新世界、か)

 

 ***



 ずっとあとから思い出してみて、やはりこの出会いは特別なものであったと進は思った。

 カランカランと店のドアに付いた鈴がきれいな音を立てるのを聞きながら進は少女を見つめた。 
 少女はそんな進を一瞥してから颯爽と店の奥へ入っていってしまう……前に。


「君、は?」
 

 進は思わずそう声をかけていた。
 少女が振り向いて、それでやっと自分が少女を呼び止めたのだと気がついた進はハッと息を呑む。


「____星見琴 光」


 ぶっきらぼうにその少女は進に答えた。
 ぶっきらぼうなその口調と帳尻を合わせるように、何か拒絶的な視線を向けられた進は、居た堪れなくなって目を逸らす。

 それがどうやら対話の終わりと見做されたようで、フイと光は体を背けた。


「おっさん、あの光ってやつはどういう?」

「あぁ心配すんな。あいつは同年代の男を拒絶するんだよ。あの容姿だからな、昔いざこざがあったらしいぞ?」


「____初対面で嫌われたんじゃなければまぁいいか。いい、かなぁ?」

「兄ちゃんは下心とかはあんまり抱きそうにないしなぁ……。だから光の姉ちゃんも表立っては拒絶できなかったんだろうよ」


 まぁ確かにそうだな、と進は思って頷いた。
 確かに目線で関わらないでくれ、という情報を汲み取った進だが、しかし実際に関わるなとは言われていない。


「下心、ねぇ」


 つぶやいて、びっくりするほど底冷えする声が漏れたことに進自身驚いた。
 おっさんなんて、口を窄めて目を見開いている。

 対して進は自分の言葉がどうしてそんなだったのかなどわからずに久保を傾げていた。


「兄ちゃん、もしかしてそういうもんを感じたことがないのか?」

「いやいや、めっちゃありますけど? なんなら可愛いなと思った少女を見るたびに自分のハーレムを思い浮かべますけど?」

「そこまで暴露しろとはいってねぇんだがな……。いや、そうか。兄ちゃんが違和感を感じたのは光の姉ちゃんに対して、か」


 はぁ、と進は首をかしげる。
 このおっさんはいったい何をいっているのだと少なからず感じた。


「彼女に対して何か疑問を感じた」


「____それは、あんたの目がそういって?」


 肯定は返ってこずに、沈黙が流れた。
 それを進は他でもない肯定の意だと汲み取った。


「確かに、あいつを見た時に綺麗だとは思ったよ。つか可愛くない? 顔面レベル高すぎない!? ……あと彼女といかがわしい関係じゃないよね?」

「よぅしわかった。兄ちゃんちょっと裏にこいやごらぁ!」

「ごめんなさい、男の人とは付き合えないんです」

「そういう意味じゃねぇよ!」


 一通りのボケとツッコミをすませて、おっさんはガハハと笑った。
 つられて進もハハハと腹を抱えて笑いながら、緊張の糸が解けたように表情を緩ませていった。

 他の人には悟られないくらいのものだったが、どうしても今までと違う環境で緊張してしまっていた節があったのかもしれない。
 それと歳の差があれど、男同士の会話というのはそこまで変わりのないものなのなんだな、と進はよくわからないところで人間味を実感するのだった。


(……このおっさんの精神年齢が低いだけ説は一旦置いておくかぁ)


 なんて、進はバカなことを考える。


「安心してくれよおっさん。少なくとも彼女を取るようなことはしないって」

「だからそんな関係じゃねえっての……」
「あぁなるほど。おっさんはNTRがお趣味……」

「んなわけねぇよ。なんなら今から兄ちゃんを襲ってやろうか!?」
「ふむ、おっさんと男子高校生禁断のBLか……。新しいな。ベット行きます?」

「いかんわ!」


 本当にこのおっさんはユーモアに性格を全振りしたような性格をしていることを進は理解する。
 誰かを元気付ける、そんなことが得意そうだなと密やかにその性格の有用性を考えてみた。

 落ち込んでしまった時は、ここでこのおっさんと馬鹿話をしてさっぱりするのもいいのかもしれない。
 
 ひゅうと、また風が靡いた気がした。
 今度は室内なのだから、エアコンでもつけていない限りそんな気流は生まれないはずなのだが。


(気のせい、か?)


 すでにそれは感じなくなっていたので、若干の心残りがありながらも進は詮索を諦めた。
 客がゾロゾロと入っている店と違って、繁盛しているとは言いにくいこの店の商品達がひっそりと佇んでいるだけだった。


「ん、そろそろ俺は他の場所に行きますわ」
「了解。兄ちゃんの顔はしっかりと覚えたから、またきてくれよ?」

「顔は覚えたけど、お互い名前も知らないんだけど?」
「____そういう関係も悪くはないんじゃねぇか?」


 言われて、進はプッと吹き出す。
 おっさんがキメ顔でそう言ったのが今までにないくらい面白くて、腹筋が鍛えられるんじゃないかと思うくらいにはくらいには声をあげて笑った。


「やっぱり、あの光とかいうくらいの美少女じゃなきゃ名前も知らない特別な関係なんて持ちたくないなぁ」

「おいおい、俺に美少女になれってか?」
「それはそれでキモいからやめてネ?」


 ドアを開けると、チャリンと小さな音がした。
 
 静かなこの店と、人気に溢れるその仕切りになっているそれを跨いで、進はユーモアあるおっさんに耳の横まで手をあげてお別れの挨拶をした。


(また気が向いたらここに来るか。その時はとびきり壮大で耳を疑うようなお話を持ってきてやろう)


 見上げると太陽は少しだけ南中時よりも傾いていて、時計の持ち合わせのない進でも今が何時なのか多少は推測することができた。

 となると、意外と長い時間あのおっさんの店に進は入っていたようだった。
 ドンッと、通行人の方と進の肩が少しぶつかったがそんなことは都会の人間にとってはなんでもない日常の一つにしか過ぎない。


(でも、そうそうこれこれってなるよな)


 都会慣れしている進としては、人口密度が高いというのは意外と落ち着くものだった。
 それでも疲れることには変わりがないが。

 あるいは、その疲れさえも青春の一つとして思い出の中に綺麗に入れ込んでしまえる、そんな年齢なのだから。

 
 さらにしばらく異世界での一日目を楽しんで、進は自分の家____おそらくあそこに住めということだろう____に戻ろうと歩き出す。


(なんだ、暖かいじゃん異世界。面白いじゃん、この地球)


 確かにメモリーの言っていた通りに退屈しなさそうだな、と進は苦笑した。
 彼女はどこまで進の未来を見据えているのだろうか。

 進としては大変気になることだったが、それは今度メモリーに呼び出されるまで保留ということにしておこうと心に誓った。
 少しだけ生き残っている自然の緑に住み着く虫の音がやけに鮮明に、そして奇怪に耳に届く。
 
 そして。




 ____あれ?


 

 疑問符が彼の頭の中を支配したのはその瞬間だった。

 一瞬、進の思考の中に空白の時間が生まれる。
 さながらそれは、確証という名の事実に等しかった。

 いいや、ありえないだろう。
 ありえないはずだ、と進は自分の目にした事実を否定しようとその証拠を探した。

 あたりを見渡してみて、そこにあったのは街であった。


(おかしい。さっきまではそんなこと)


 そもそもこの都会で、道路を歩いていてほぼすべての場所が見渡せるというのがおかしい。


「ここにいた大勢の人間は、どこへ消えた?」


 同時。


 ヒュン、と進の髪の毛を数本切り裂くような形で何かが通り抜けていった。
 バリン、と後ろでガラスが割れるような音がした。

 少なくとも友好的とは言い難い、むしろ敵対しているといってもいいようなそれが飛んできた方を進は無意識に見やる。


「……」


 そこに見えたのは、フードを被った男だった。
 いかにも怪しさを全開にさせているその男に、進は端的に聞く。


「誰だテメェ」

「貴様などに教えるような名はないさ。それよりも、星見琴 光・・・ ・をどこにやった?」

「はぁ?」


 星見琴 光といえばさっきのあの少女のことか、と進は思い出す。
 しかし、どこへやったとはいったいなんなのかと怪訝そうな顔をするのは仕方がないことだった。

 そんな進を見てか、相手は腹立たしげに言葉を紡ぐ。


「もう一度聞く。星見琴 光をどこへやった。やつは必ずここを通る・・・・・・・はずだった。答えろ、回答によっては見逃してやる」


「ノー、と答えたら?」

殺す・・


 しばし進は沈黙を返す。
 安易に返してしていい答えではないと、そんなことはわかっていた。

 クソッと心の中で叫んで、進は拳を強く握りしめる。


(はっきりいって、知り合いともいえないような関係だけど)


 むしろ、進は彼女に嫌われている方なはずなのに。


「それでも俺は、あんたに彼女の居場所を教えない!」
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜

Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。 だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。 赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。 前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、 今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。 記憶を失ったふりをしながら、 静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。 しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。 ――これは復讐でも、救済でもない。 自由を求めただけの少年が、 やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。 最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。 重複投稿作品です 小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!