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医療
しおりを挟む鼻をつく酸。
極限までに浄化された施設の前に、可変長符号は立っていた。
「行くよ、可変」
「うん」
玄関ホールはレンガの作り。
硬い地面は転倒防止のためと、誰かが言っていた。
確かあれは姉貴だった。
「保険証はお持ちですか」
「はい、お願いします」
えりなが知らない女性と話をしている。
太った女性だ。
ただその顔は不自然に整えられた形をしていて、人工的だった。
「番号呼ばれるまでお待ちくださいませ」
受付を済ませたえりなが、トコトコとこちらに歩いてくる。
「いい歳して受付もできないのだ、可変は」
「お前の方が歳上だろ」
「えりなのこと、お前って呼ばないで」
「悪かった」
18秒、79秒、158秒、392秒過ぎたあたり。
「番号札090のお客様は2番窓口へ」
二つ前の席に座っていた大柄な男が立ち上がる。
筋肉隆々、どす黒い肌は施設にあっていない。
バーベルを持ち上げるのが似合いそうな男は、顔に恐怖を浮かべている。
「俺はもうダメだ」そんな口の動きをしているのが目に入った。
あの大男が拒むほどの診察。
困った、帰りたい。
「えりな」
「なんなのだ」
「帰ろう。ここは、やめた方がいい」
右頬に強烈な衝撃。
えりなのとびひざげりだった。
「痛いよ」
「吹っ飛びながらカッコつけるな可変。そしてなんども言わせるな。ここは可変の克服すべき時障壁なんだよ。時に障る壁なのだ。たしかに苦しかったと思うし、思い出したくもないかもしれない。でも、ここには」
「番号札080のお客様はお帰りください」
沈黙。
そんな選択肢があったのか。
えりなは番号札を握りしめ、窓口に走る。
「待つのだ。ここなくして、可変に未来はあり得ないのだ。頼む、頼むから診療してくれなのだ。可変を元に戻して欲しいのだ」
「恐れ入りますが、本日はお引き取りください」
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