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【第2章】迷宮と少女編
46話(103話) 奪われた光
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「アリシア……」
アリシアが姿を消した。リディアが呆然と立ち尽くす一方で、アンドレアはすぐに走り出して辺りを見回り、ミラはまだ祈りを唱え続けて残った汚染を浄化していた。
「ダメだ! 見当たらねえ」
「アンドレア様」
首を振りながら帰ってきたアンドレアに、ミラは浄化の魔法をかける。
「クソっ……俺がもっと早く動いていれば……」
「……あの状況では、動かないのが正解だったと思いますよ。下手に刺激すれば、アリシア様はあの場で殺されていてもおかしくなかった」
ミラが冷静にフォローを入れる。事実、アンドレアがあそこで派手に立ち回ればアリシアを巻き込む可能性があったし、急に動くことによって刺激された魔物が暴れ出すことも十分考えられた。瘴気が漂う状況で大きく息を吸い込むことが危険な中、アンドレアがとった行動はあの状況ではあれしかない、というものだったのだ。アンドレアはそれでもなお、悔しそうな表情を浮かべて歯嚙みしている。
「……あの魔物は……」
「もうダメでしょうね。すごい量の瘴気を放ってましたから」
「ああ……それを追えば辿れるかと思ったんだが……」
ダメだった、とアンドレアは肩を落とした。ミラは続いて、リディアにも浄化の魔法をかける。さっき現れた魔物の瘴気は吸い込むとあまり良くない。彼女に「リディア様」と声をかけられ、リディアはようやくハッと現実へ引き戻された。
「ごめんなさい、私——」
「……大丈夫です。恐らく少し瘴気を吸い過ぎたんでしょう」
「……ありがとう」
ミラに浄化してもらうと、靄がかかったようにぼんやりしていた頭が少しずつスッキリしていく。頭の中が晴れていくと、いよいよアリシアがいなくなったということに実感が湧いてきた。
「あ、アリシアは、どこに……」
リディアの問いに、アンドレアは首を振る。いなくなる直前の光景を思い出す。突進する魔物と鈍い音。アリシアは攻撃の魔法は得意でも、防御の魔法はあまり得意ではない。まさか——と最悪の事態を考えて青ざめるリディアの肩を、ミラがそっと撫でた。
「どうしよう、アリシアがもし……」
「見て回ったが、幸い血は落ちてなかった。望みはある」
諦めるなよ、と言うアンドレアの言葉を今は信じるしかなかった。やっと回るようになった頭で辺りを見回し、手がかりがないので魔力探知を発動させたが、他に潜んでいる小さな魔物の気配で集中できない。
「魔力探知は?」
「……ダメ。見つからないわ」
「とにかく進むしかねえかあ……」
「……って言っても……」
この宗教施設の残骸には、隠れられそうな大きな瓦礫も、扉の壊れた小さな部屋もあるほか、ここまで一本道だったがここから道が三つに分かれている。
「そもそも、魔物はなんでアリシアを連れて行ったの……?」
目的はなく、ただ暴れたいだけなのであればあのときに殺してしまえばよかった。それがいなくなっているのであれば、あの魔物には何か目的があり、それで彼女をどこかへ連れて行ったと考えるのが妥当だろう。それがわかれば行き先に見当がつけやすいと思ったのだが、アリシアを連れて行く理由は一体何なのだろうか。
「……あの瘴気の量です。怪我も悪化して、もう寿命が近いんでしょう」
「だとしたら、目的は回復や治療か……もっと正確に場所がわかればいいんだが」
唸りながら考えているアンドレアの腰元についたチャームが揺れる。それは以前、アンドレアやミラに贈った防御魔法を展開するための魔法石だ。そして、ふっと思い出した。
この魔法石は、攻撃により受けたダメージが一定以上蓄積されると防御の魔法陣が展開される仕組みで、魔法陣が展開された瞬間に、自らの現在位置をリディアが持つコンパクトに送ることになっている。
「あれなら、もしかして……!」
最後の望みだった。ここに場所が送られていなければ、あちこちしらみつぶしに探すしかない。しかしアリシアがどんな状態か不明な今、捜索にかける時間はできる限り少ない方がいいだろう。
リディアは慌ててコンパクトを取り出す。その様子を見て、アンドレアとミラもすぐ合点がいったようだ。
「もしそれが発動してたら、ヤバい状態ってことか?」
「いえ、その逆……しばらくは私のかけた防御魔法が機能するから、それが解けるまではある程度ダメージが軽減されるはず」
それでもあまり残された時間はない。リディアがかけた防御の魔法陣も、何度も繰り返しダメージを受けると壊されてしまう。魔法石が保管しておける魔力量の関係上、あまり強い魔術はかけられなかった。もし発動しているのなら、防御魔法が破壊されるより前に見つけて助け出したいところだ。
「——! 見えた!」
コンパクトに数字が映し出されている。その数字は上下を繰り返し、定まらない。
「この数字は……」
「アリシアの座標よ。……まだ動いているみたいね」
コンパクトは座標だけではなく、現在チャームがある位置を光る点としても表示してくれる。詳しい地図が描かれているわけではないが、コンパクトのある位置も表示されるため、ざっくりとした方向と、近付いているかどうかはわかるようになっていた。
「これを辿っていけば……」
「ええ。その先にいるはず」
リディアは頷く。あのとき、アリシアにチャームを渡しておいてよかった。
「急ごう。どのくらい時間が残ってるかわからねえ」
「そうですね。いくらアリシア様でも……あの量の瘴気を、あまり長く吸い込むのは良くないでしょうし」
——守られてばかりじゃなくて、今度は私がアリシアを守らないと。
コンパクトの光る点はまだ揺れている。
「……行きましょう」
リディアの決意の籠った言葉に、アンドレアとミラが力強く頷く。そうして三人は、アリシアの奪還を目指しさらに先へと進むのだった。
アリシアが姿を消した。リディアが呆然と立ち尽くす一方で、アンドレアはすぐに走り出して辺りを見回り、ミラはまだ祈りを唱え続けて残った汚染を浄化していた。
「ダメだ! 見当たらねえ」
「アンドレア様」
首を振りながら帰ってきたアンドレアに、ミラは浄化の魔法をかける。
「クソっ……俺がもっと早く動いていれば……」
「……あの状況では、動かないのが正解だったと思いますよ。下手に刺激すれば、アリシア様はあの場で殺されていてもおかしくなかった」
ミラが冷静にフォローを入れる。事実、アンドレアがあそこで派手に立ち回ればアリシアを巻き込む可能性があったし、急に動くことによって刺激された魔物が暴れ出すことも十分考えられた。瘴気が漂う状況で大きく息を吸い込むことが危険な中、アンドレアがとった行動はあの状況ではあれしかない、というものだったのだ。アンドレアはそれでもなお、悔しそうな表情を浮かべて歯嚙みしている。
「……あの魔物は……」
「もうダメでしょうね。すごい量の瘴気を放ってましたから」
「ああ……それを追えば辿れるかと思ったんだが……」
ダメだった、とアンドレアは肩を落とした。ミラは続いて、リディアにも浄化の魔法をかける。さっき現れた魔物の瘴気は吸い込むとあまり良くない。彼女に「リディア様」と声をかけられ、リディアはようやくハッと現実へ引き戻された。
「ごめんなさい、私——」
「……大丈夫です。恐らく少し瘴気を吸い過ぎたんでしょう」
「……ありがとう」
ミラに浄化してもらうと、靄がかかったようにぼんやりしていた頭が少しずつスッキリしていく。頭の中が晴れていくと、いよいよアリシアがいなくなったということに実感が湧いてきた。
「あ、アリシアは、どこに……」
リディアの問いに、アンドレアは首を振る。いなくなる直前の光景を思い出す。突進する魔物と鈍い音。アリシアは攻撃の魔法は得意でも、防御の魔法はあまり得意ではない。まさか——と最悪の事態を考えて青ざめるリディアの肩を、ミラがそっと撫でた。
「どうしよう、アリシアがもし……」
「見て回ったが、幸い血は落ちてなかった。望みはある」
諦めるなよ、と言うアンドレアの言葉を今は信じるしかなかった。やっと回るようになった頭で辺りを見回し、手がかりがないので魔力探知を発動させたが、他に潜んでいる小さな魔物の気配で集中できない。
「魔力探知は?」
「……ダメ。見つからないわ」
「とにかく進むしかねえかあ……」
「……って言っても……」
この宗教施設の残骸には、隠れられそうな大きな瓦礫も、扉の壊れた小さな部屋もあるほか、ここまで一本道だったがここから道が三つに分かれている。
「そもそも、魔物はなんでアリシアを連れて行ったの……?」
目的はなく、ただ暴れたいだけなのであればあのときに殺してしまえばよかった。それがいなくなっているのであれば、あの魔物には何か目的があり、それで彼女をどこかへ連れて行ったと考えるのが妥当だろう。それがわかれば行き先に見当がつけやすいと思ったのだが、アリシアを連れて行く理由は一体何なのだろうか。
「……あの瘴気の量です。怪我も悪化して、もう寿命が近いんでしょう」
「だとしたら、目的は回復や治療か……もっと正確に場所がわかればいいんだが」
唸りながら考えているアンドレアの腰元についたチャームが揺れる。それは以前、アンドレアやミラに贈った防御魔法を展開するための魔法石だ。そして、ふっと思い出した。
この魔法石は、攻撃により受けたダメージが一定以上蓄積されると防御の魔法陣が展開される仕組みで、魔法陣が展開された瞬間に、自らの現在位置をリディアが持つコンパクトに送ることになっている。
「あれなら、もしかして……!」
最後の望みだった。ここに場所が送られていなければ、あちこちしらみつぶしに探すしかない。しかしアリシアがどんな状態か不明な今、捜索にかける時間はできる限り少ない方がいいだろう。
リディアは慌ててコンパクトを取り出す。その様子を見て、アンドレアとミラもすぐ合点がいったようだ。
「もしそれが発動してたら、ヤバい状態ってことか?」
「いえ、その逆……しばらくは私のかけた防御魔法が機能するから、それが解けるまではある程度ダメージが軽減されるはず」
それでもあまり残された時間はない。リディアがかけた防御の魔法陣も、何度も繰り返しダメージを受けると壊されてしまう。魔法石が保管しておける魔力量の関係上、あまり強い魔術はかけられなかった。もし発動しているのなら、防御魔法が破壊されるより前に見つけて助け出したいところだ。
「——! 見えた!」
コンパクトに数字が映し出されている。その数字は上下を繰り返し、定まらない。
「この数字は……」
「アリシアの座標よ。……まだ動いているみたいね」
コンパクトは座標だけではなく、現在チャームがある位置を光る点としても表示してくれる。詳しい地図が描かれているわけではないが、コンパクトのある位置も表示されるため、ざっくりとした方向と、近付いているかどうかはわかるようになっていた。
「これを辿っていけば……」
「ええ。その先にいるはず」
リディアは頷く。あのとき、アリシアにチャームを渡しておいてよかった。
「急ごう。どのくらい時間が残ってるかわからねえ」
「そうですね。いくらアリシア様でも……あの量の瘴気を、あまり長く吸い込むのは良くないでしょうし」
——守られてばかりじゃなくて、今度は私がアリシアを守らないと。
コンパクトの光る点はまだ揺れている。
「……行きましょう」
リディアの決意の籠った言葉に、アンドレアとミラが力強く頷く。そうして三人は、アリシアの奪還を目指しさらに先へと進むのだった。
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