龍の花嫁

アマネ

文字の大きさ
3 / 32

出会い

しおりを挟む


あの二匹は今の大声で動き出してくれただろうか。
脇目も振らず走り続けるハルカには分からない、が足音が聞こえるということは猪似の魔物はこちらに来てくれているようなので一安心だ。

木々の間を走り抜けているため枝が顔や身体に当たって痛い。
でも走らねばもっと痛い思いをすることになる——そんなことを考えていたからなのか木の根に足を取られ転んでしまった。
立ち上がろうとするも焦りからか、上手くいかない。
その間にも魔物は足音はすぐそこまで近づいている。

(どうしよう…どうしよう)

ああ、やはり駄目だったのだ。
二匹を逃せただけでも良しとしよう。
諦めたとき——


「あなた…人間ですね?」

男の声がした。
ハルカは驚きで答えられないでいるが、男は何故だのとぶつぶつ言っている。

「こんなところ、人間が来るべきところではありませんよ?…ああ、やはり追われているのですね。こちらに」

男に連れられて少し離れたところに隠れる。
すぐにあの魔物がやってきたがどうやら気付かなかったようだ。

安心して一息つくと再び男に問われる。


「で?何故ここに来たのですか?」

「…魔物を…小さな魔物がいて、森に返そうと思って…」

「あなたのような子供が?」

「…そこまで子供ではありません。16です…たぶん」


そういうと男は少々驚いたようだった。


「……幾分か、小さく見えますね」


嘘だ。その表情は幾分か、なんてものではない。
むすっとした顔をしてしまったようで謝られる。

「すみません、つい。…あなたはどこから来たのですか?」

「第5層の…街というか…そのへんからです」

「第5層?人は住んでいないと聞いていましたが…」

男の身なりを見てみれば綺麗な服を着ている。
もしかしたら貴族なのかもしれない。だからあまり詳しくはないのだろう。

「いえ、多くはないですが住んでいます。子供、女、病人や年寄りが多いですが」

「それは……そうですか…、ご家族はいらっしゃるのですか?」

「家族はいません…」

「…失礼致しました」

「いいえ、あ…すみません。お礼が遅くなりましたが助けてくれてありがとうございました。帰り道の方角だけ教えてもらってもいいですか?」

「あちらになります。…こんなところもう来てはいけませんよ」

「そうします。本当にありがとうございました。それでは…」

振り返って歩き出す。
——数歩進んだときだ。


「ちょっと待ってくれ!」

振り返ると緑に見える黒髪と金色の瞳を持つ少年が立っていた。
ハルカが振り返ってから1分も経っていないはずだが、いつの間に来たのだろう。
少年は側まで歩いてきた。
身長はハルカと同じくらいだ。


「本当に第5層の街から来たのか?」

「うん、そうだよ」

「仕事は何してる?」

「毎日求人を見て条件が合えば働くって感じかな」

変なこと聞く子だなぁと思いつつも答えていく。
それにしても綺麗な少年である。服も良いものだと一目で分かる。

「お前の名前は?」

「ハルカです」

「良い名だな。…ハルカさえ良ければうちに来て欲しいのだが…」

「え…え?でもさすがにそれはちょっと…ていうか私、君の名前も知らないし…」

「俺の名前は…外では口にしてはいけないのだ。決まりがある」

「はぁ…」

子供にありがちな”ごっこ遊び”的なものだろうか?

「気のない返事だな。まぁいい。気が向いたら返事をしてくれ」

「……どうやって?」

「見たらすぐに分かるはずだ。さぁそろそろ帰らないと遅い時間になってしまう。送れず申し訳ないが、気をつけて帰ってくれ…ああ、魔物については安心していい。今日はもう出てこない」

そこまで言うと少年は「ではな」と言い、踵を返した。
後ろでは先程の男が会釈をしている。

なんだかよく分からないが、確かに遅い時間になってしまうのは困るので帰路に就いたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...