龍の花嫁

アマネ

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新月

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「は…るか…なぜ、ここに…?」

「っあ…あの…」

状況に頭が追いつかず、まともな返事が出来ない。
しかし少年はまた苦しそうに顔を歪めた。

「ね、寝てた方がいいですよ!ほら!」

そのままでは歩けなさそうだったのでハルカは肩を貸し、ベッドに連れて行こうとするとソファを指差したので、そちらに座らせる。
水を持ってこようかと歩き出すと服をくん、と引っ張られた。

「…待って、いかないで…」


…年下にこんなこと言われたら立ち去るわけにはいかない。

「大丈夫、側にいますよ」

そう言うと安心したような弱々しい笑顔が浮かべた。

「…痒いんだ…」

「痒い?」

「そう、覚えてる?新月の日の話…」

本物の鱗が肌を覆うという話である。
そこでようやく今日が新月であることに思い至る。

「あ、今日…!」

「そう、新月なんだ。見る?」

そう言うとハルカの返事を聞かずにナイトウェアの上を脱いだ。
その姿に思わず息を呑む。美しく光る鱗が肌の一部に確かにあった。

「気味悪いかな、こんなの見せてごめんね」

疲れたのか言葉に力が無い。
しかしハルカは気にしなかった。

「ぜんっぜん!むしろ綺麗だなぁって思いました!」

「ハルカ…」

本当に弱っているのか涙目…どころか目尻に涙が溜まっているように見える。
そこでハルカは、ふと思いついた。

ソファに座る少年の足と足の間の真正面に膝立ちになり、その腕をとると恐らく痒いであろう鱗部分にキスと落とした。
ハルカが幼い頃、ぶつけて痛いと泣いていたときに母がしてくれたおまじない。
少年は痛いわけではないが、試してみようと思ったのだ。

ちゅっ
ちゅっ
ちゅっ…

突然足と足の間という際どい場所に来て、突然キスを始めたハルカを少年は呆然と見つめる。
まだ何が起こっているかよく分からないらしい。

「は…はるか…?」

「あの…母が幼い頃してくれたおまじないなんですけど…やっぱり全然ダメですよね?」

心配そうに上目遣いで聞かれてしまえば「全然全く駄目じゃない!!」としか言えなかった。
ハルカはそのままキスを続けるが少年は恥ずかしさの頂点に達したらしく、両手で顔を覆ってしまう。

「や、もう…ハルカ…だめだ…」

「もう痒くないですか?」

そう聞かれ少年は恥ずかしさと気持ち良さから覚醒した。
確かに痒くなくなっている。そのことに驚きが隠せない。

「……うん、もう大丈夫だ」

「良かった!これでぐっすり眠れますね!!じゃあ私は自分の部屋に戻ります」

「うん。…うん?」

意気揚々と帰ろうとするハルカを尻目に、別の意味で眠れなくなっていた少年は「それはどうだろう」と心の中で嘆息したのだった。
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