龍の花嫁

アマネ

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返事

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「っ!?」

「...俺も好きだ。ずっとずっと好きだった。離れてみてようやく自分の中にいるハルカの存在が大きいか、分かった」


少年が更に腕に力を籠める。
苦しいくらいだが、切実さを感じさせる。

しかし、それが愛おしいのだ。


「う、うれしい...はじめての、恋で...さいごの...こい...私を、あんなところから、見つけてくれてありがとうっ...出会ってくれて...ありがとう...好きになってくれて...ありがとう...っ」


嗚咽は止まらず、何度も何度も言葉に詰まる。
どうやら少年も泣いているようだ。


「礼を言うのは俺の方だ...求人を見落とさないでくれて...ありがとう。ここに来てくれてありがとう...好きになってくれて、ありがとう...」


そう言って少年は顔をを上げて晴れやかに微笑む。
ハルカは思わず涙も嗚咽も止まるほど見惚れてしまうが、自身の顔面の惨状を思い、慌てて顔を隠した。


「わ、私...いま、酷い顔してる...っ」


両手で覆ったハルカを少年が再度抱きしめる。今度は優しく、慈しむように。


「じゃあ俺が隠そう。そのままでも可愛いけど、これからは俺にしか見せないで欲しいから」


抱きしめていてくれて良かった。
惨状に加えて、顔もゆでだこのようだろう。


「これからも...っていうか今まで誰にも見せたことありません...」

とハルカが答えると少年は小さく笑った。



——————————




どのくらいそうしていただろう。
少しの時間かもしれないし、長い時間かもしれない。

抱きしめたまま少年が口を開いた。


「...あの...」

「はい」

「......これは、あの、は...花嫁になってくれる、っていうこと、で、でしょうか?」


少年にしては珍しいほど詰まっている。しかも敬語だ。
ハルカも改めて聞かれると照れ臭い、が。


「...はい」


あのときに決めたのだ。
恥ずかしいだけなら言ってしまおう。
言わないで後悔するなら、言ってしまうべきだ。

そう思い、ハルカは微笑んで返事をした。

少年の顔は喜色満面だ。


「ほ、ほ...本当か!!!」


思わずといった様子で立ち上がった。


「じゃあ、今日の夜...ハルカの部屋に行ってもいいか?」

「え...」

「いや!ちょっと話がしたいだけで!それが終わったらきちんと戻る!」

「大丈夫、です」

「よし。——ああ、あとハルカのその敬語も止めよう。俺の方が年下なんだし」

「え、でも...その身分とか...」

「そんなもの気にしない。関係ない!そうやって線を引かれる方が悲しい」


そう言われれば無理に使う理由もない。
ハルカは今後敬語を使わないと約束し、屋内に戻ることにした。



———————————



コンコン。
ノックの音が静かな部屋に響く。
扉まで近寄り、確認すると少年だった。


「どうぞ」

「ありがとう」


2人でベッドに腰かけると少年が問いかけた。


「...ほんとにいいのか?」

「何が?」

「花嫁だ。だって...け、結婚するという...ことだぞ」


押せ押せな感じなのかと思っていたら、いざとなると意外と慎重派のようだ。
ハルカの意思は既に決まっており、迷いはない。


「もちろん!もう後悔はしたくないの!」

笑顔で言えば少年も腹をくくったようだった。
そして言いにくそうにひとつの可能性を示した。


「...実は...言っていなかったんだけど、花嫁と婚約した時点で結婚は絶対のものになる、反故にすることは許されない」

「うん、それは問題ないよ?」

「いや...そこは、問題じゃない。その...花嫁の身体にも異変が出るらしいんだ」

「え、どういうこと?」


壮大な後出しじゃんけんである。
とはいえ、離れる意思もないので「じゃあやめる」ということもないのだが。

どうやら少年にも詳しいことは分からないらしい。
分かっているのは「組み変わる」ようである、ということだけ。

細かい変化については何の記述も残っていないとのことだった。


「分かった。そういう覚悟はしておく。...死なないんだよね?」

「それはない、絶対にない!」

「なら安心かな!」


ハルカの返事を聞くと、少年はその顔を見つめ、とても小さな箱を取り出した。


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