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第13話 おいおい、あいつら化け物かよ

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 炎でできた大きな輪っかを魔物たちの中心に浮かべると、その中にいた全ての敵を巻き込んで燃やしていく。いくら斬撃や打撃に対しては強靭な魔物といえども、炎にはそれほど強くない。この技ならばほとんどの魔物を倒すことができるだろう。

 洞窟内の空気を燃やし尽くすとこっちが窒息するので、威力を抑えたとはいえそれなりの数の魔物を一網打尽にすることができた。やはりこの程度の強さなら私一人で十分だ。
 しかし安心するのはまだ早いようで、私は再び戦闘態勢に入る。

 倒したはずの敵の数が明らかに増えているのだ。しかも、さっきまでよりもさらに強力な力を身にまとって……。

「なに? あれ……」
「おそらくあの黒ずんだ魔素が関係しているんだろうが、一体どうやって……? ……いや今はそれよりも、リサ! そいつらに近づくな!」

 レティシアが叫んだのと同時に、魔物たちはリサちゃんに向けて飛びかかった。そのあまりの速さに私は反応が遅れてしまったが、リサちゃんはその類まれなる反射神経と運動能力で攻撃を楽々と防ぐと、すぐさまカウンターで魔物を仕留めてしまう。さすが、ギルドの中で一番腕が立つだけあって、リサちゃんの戦闘力は相当高いようだ。

 レティシアの注意を聞いてすぐに距離を取っていたし、私のように力任せの戦い方ではない。

「ありがとうございます! 助かりました。……それより、この魔物は普通の攻撃が効かないようですね」
「……普通に倒しているように見えたが?」
「リサのナイフは特別仕様なので。多分普通のナイフでは有効打を与えられないと思います」

 リサちゃんが事も無げに言うと、レティシアは呆れたように肩を竦めた。

「きっと魔素が強化されているのだろう。……洞窟の主は近いぞ」
「みたいですね。これは思ったより厄介かもです。早く片付けないといけませんね」

 二人が会話を終えた瞬間、洞窟の奥の闇の中から一際強い存在感を放つ魔物が姿を現した。そいつは一本角の鬼人──恐らくオーガの上位種だろう。手にしているのは私の身長よりも長そうな大剣。その威圧感は凄まじく、溢れ出た魔力が渦巻いて、オーラをまとっているかのようであった。
 他の魔物とは格が違う、それは私にもわかるほどの存在の密度の違い。

(……これが洞窟の主の力だというの?)

 私たちが戦ってきたゴブリンやオーガ、ワーウルフなんかとは明らかにレベルが違った。だが、私がその魔物を見た感想としては「なんだ、この程度か」といった感じだった。
 確かに強そうではあるけれども、魔法学校首席の私が倒せない相手ではない。その程度の認識で私は魔法を唱えた。

「はぁ……【ファイヤーボール】」

 火球は真っ直ぐ飛んでいき、洞窟の主の頭に命中すると爆発を起こした。私は手応えありと思い、次の魔法の準備をするべく構えたが、煙が晴れるとそこには何事も無かったかのように無傷の主の姿があった。

「……ふーん。手を抜いたつもりはなかったんだけど、少しはやるみたいね」

 私は少し興味を持った。もしかするとこいつは今までで一番面白い相手かもしれない。魔法学校の同級生も、クソ先輩も、ならず者冒険者も、これまで出会ったどんなモンスターも、私より明らかに格下だった。
 全力でぶつからなければ勝てないかもしれない相手と対峙している。それだけで、なぜか私の心は躍っていた。

「魔法が効いてません。アニータさん、ここはリサとレティシアさんで……」
「いいえ、私がやるわ!」

 私は戦いたいという気持ちを抑えることができず、気づけば自ら主に向かって駆け出していた。

「──氷よ、敵を貫け。【アイス・スピアー】!」

 魔法を発動させると主の周りに複数の槍が出現する。それらは高速で回転しながら一斉に襲いかかり、主に直撃して爆発した。そして主の体勢が崩れた隙をついて、リサちゃんとレティシアがそれぞれ左右から飛びかかる。
 二人は左右から同時に攻撃を繰り出したが、どちらもよってあっさり大剣によって受け止められてしまった。あいつ、見た目の割に敏捷だ。

「グォォォォォッ!!」

 主が吼えると、まとっているオーラの質量が増大する。

「ふっ、まるで底が知れないな」
「でも、リサたちだってまだまだやれますから!」

 レティシアとリサちゃんの二人も、強敵の出現にテンションが上がっているようだ。ここのギルド、私も含めて皆基本的に頭がおかしいようだ。
 まあ、頭がおかしいくらいじゃないと冒険者は務まらないのだけど。

「やぁぁぁっ!」

 リサちゃんが主の顔面に向けてナイフを投げる。それは硬い皮膚に阻まれたが、ぶつかった瞬間に閃光を放ちながら爆ぜた。衝撃で主の身体が揺らぐ。

「これでどうですか!」
「ナイスだよ、リサちゃん! 【ライトニング・ブレード】」

 私は電撃を帯びた斬撃を飛ばす。しかし、主はその攻撃を読んでいたようで軽々と避けると、こちらへ猛然と突っ込んできた。その巨体からは想像できないような速さに面食らいながらも、私は慌てて回避行動を取る。
 私は攻撃の動作中のため、防御することができない。なんとか横に跳んでかわそうとしたが、私にはレティシアやリサちゃんのような反射神経や運動能力はないので、突進を相殺しきれずに壁に叩きつけられる。咄嗟に魔力障壁を展開してダメージを和らげたものの、息が詰まるほどの衝撃を受けて頭がぼーっとしてきた。

「くぅっ……、いった~い!」

 頭を打った痛みに耐えていると、私を追ってきた主の拳が迫ってくる。

「アニータさんっ!」

 横から凄まじい速度で駆けてきたリサちゃんが主の腕に飛びついた。そしてその勢いを利用して主の腕を軸にして身体を一回転させて主の肩に掴まる。
 リサちゃんは光り輝くナイフを主の首筋に何度も突き刺そうとした。硬い皮膚に阻まれながらも、徐々にナイフは深く沈み込んでいく。主は苦悶の声を上げながらリサちゃんを振り落とそうとするが、リサちゃんも根性で離れない。

「はぁぁぁぁっ!」

 そこに、レティシアが突進してきた。主は大剣で迎え撃つが、レティシアは明らかに体格差のある相手を力で押し込みはじめた。

「……おいおい、あいつら化け物かよ」

 私は最初、いざとなったら2人を守りながら戦わなければいけないと思っていた。けれど、それは大間違いだった。彼女たちはSSランクギルドのメンバーであって、1人でドラゴンすら狩れると言われている彼女たちがオーガの上位種ごときに苦戦するはずがないのだ。
 2人は協力して、主を押し返していく。私は邪魔にならないように少し離れたところでその様子を見ていた。どうせああも密着した混戦になると同士討ちのリスクがあるから魔法は使えない。主は焦ったのか、渾身の力を込めて大剣を振るう。だが、それは悪手だった。

「終わりです!」

 リサちゃんが叫ぶと主が大剣を振るう力を利用してその首に深々とナイフを突き刺した。ナイフはすぐさま光を放って爆発する。

「グオォォ……」

 首を内部から破壊された主は、断末魔を上げて倒れた。

「……ふぅ。終わったのか?」
「はい、リサたちが勝ちました」

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