31 / 40
第31話 やる時はしっかりやる子ですので!
しおりを挟む
☆
翌日。昨日の件もあり少し遅めに起きた私たちは遅めの朝食をとっていた。
「り、リサはまたやってしまいました……。今度こそは絶対にアニータさんに嫌われてしまいます……!」
「嫌わないから安心して?」
「で、でも……リサのあんな姿をみて怖いとか醜いとか、危ないやつだとか近寄らんとことか思わないんですか?」
リサちゃんが不安そうに聞いてくる。確かに昨晩のリサちゃんの言動はぶっ飛んでいたが、それで彼女のことを嫌いになるかと言われると、そんなことは全くない。
「まぁ、確かに怖かったし危ないやつだと思ったし、近寄りたくないなとは思ったけど!」
「やっぱり……」
「でも、それがリサちゃんでしょ? 私はそれも含めてリサちゃんが好き」
「……好き?」
私の言葉を反すうすると、リサちゃんは顔を真っ赤にして黙ってしまった。その姿を見て私も自分の発言を思い返し頬を赤くしてしまう。やば、勢いに任せてとんでもないことを口走ってしまったかも。
「い、いやこれはそういう意味じゃなくて! 普通にパートナーとして好きというか!」
「……パートナー?」
あー、またなんか余計なことを言っちゃった!
「仕事仲間として好き!」
「……?」
「い、今のは忘れて!」
私はそう言って誤魔化すように食事を続けた。……うわぁ恥ずかしい。もう私の方が年上のはずなのに全然余裕がない。私は落ち着こうと深呼吸をした。
それから気を取り直して話を変える。
「それより魔物退治だよ魔物退治!早くしないと大変なことになるじゃん!」
「……アニータさん、いきなり話題を変えようとしないでください。まだ話は終わってないんですけど」
リサちゃんはいつになく真剣な表情で私を見つめてくる。これは逃げられそうにない。
「お、終わったよ?」
「……リサをアニータさんの人生のパートナーにしてください」
「なんの話!?」
思わず大きな声を上げてしまう。リサちゃんはその隙を狙っていたのか素早く立ち上がりこちらに向かってきた。そして私の背後に回り込むとそのまま腕ごと拘束されるように抱きしめられる。
「ちょっ! は、離れなさい!」
私はジタバタともがくが、リサちゃんは意外と力が強くなかなか振り解けない。
それからリサちゃんは私の首筋の匂いを嗅ぐようにして顔を擦り寄せてきた。ちょ、くすぐったいっ。変な気分になりそうなんだけど。
やがてリサちゃんは耳元まで顔を寄せ囁くように言った。
「捕まえました。はいと言ってくれるまで離しません」
「いやそれ選択肢ないから!」
私は全力で叫ぶ。しかし、それを気にした様子もなくリサちゃんは続けて言った。
「ではもう一度聞きますね。……リサのことをお嫁さんにしてください」
まずい。リサちゃん変なスイッチが入ってアサシンモードになってしまったみたいだ。普段なら私がこの状態の彼女を制御できるのだが今は逆効果になっているようだ。……仕方ない。ここは大人しく観念するしかない。……いや違う。ここで素直に答えたらきっと後々もっと面倒なことになる気がする。何かいい方法はないだろうか……?
私が頭を悩ませているとリサちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「どうして何も言ってくれないんですか? あ、まさかやっぱりアニータさんはコルネリアさんのことが好きで……」
あ、やばい、なんかすごい誤解されちゃってる。私は急いで弁明をする。
「いや待って待って。どうしてそういう発想になるの? 別に私はあの厨二病バカ娘のことが好きってわけじゃないよ」
「だって……アニータさん、ずっとあの人のことばっかり見てるから」
あ、そういうことか。リサちゃん、なんだかんだで結構やきもち焼きだったりするんだよねぇ。
「それはあいつが私のことをアホみたいに煽り倒してくるからでしょうがよ」
「本当ですか?」
リサちゃんの瞳の奥に疑惑の光が灯っている。うぅ、疑われてる……。ここはどうにかして信用してもらうしかないよね。
「ほら、よく思い出してみて? 私はあんなやつのことを好きになったりしないから! むしろ嫌いな部類というか!」
「……じーっ」
私の言葉を吟味するように見つめてくるリサちゃん。その眼力は強くてちょっとたじたじになってしまう。
「えっと、リサちゃん?」
「……まぁ、そういうことにしておきましょう」
どうやら納得してくれたようだ。ほっと胸を撫で下ろす。リサちゃんはまだ少し疑いの目線を向けてきているがなんとか説得できそうだ。私は話を続ける。
「まぁでもリサちゃんとなら結婚しても悪くないかも……とか思うけどね」
これは決して冗談ではない。リサちゃんと一緒の生活も悪くなさそうかなとは前々から思っていたのだ。ただ、たまに面倒くさくなるし、アサシンモードは怖い。
「アニータさん、本当にリサと夫婦になってくれるんですか?」
「え、えぇ……?」
「嬉しいです!」
「うひゃぁ!?」
急に首に生暖かいものが触れ思わず変な声が出てしまった。何事かと思い後ろを見るとリサちゃんが頬をスリスリしていた。猫のような行動に驚きつつも私は彼女に尋ねる。
「リサちゃん!? いったい何をしていらっしゃるのかしら!?」
「ふへへ、リサは嬉しさを抑えられなくて」
リサちゃんは完全にトリップしてしまったようだ。こうなるとしばらくはまともに会話が成立しないので、とりあえず放置しておくことにした。
散々リサちゃんに弄ばれた後、ようやく彼女を落ち着かせることができて、私たちは魔物退治に出発することができた。リサちゃんは相変わらずニコニコとご機嫌である。……私としてはそろそろ彼女の暴走を止めて欲しいところなのだけれど。
「リサちゃんさぁ、もう少し抑えてくんない? 私たちのギルドは仕事第一でしょう? ──酔っ払ったり色気づいたり……だめよそんなことじゃあ」
「リサはやる時はしっかりやる子ですので!」
「あ、はいそうですね」
リサちゃんに正論をぶつけるのはやめよう。またおかしなことになる気がする。
そうこうしているうちに、私たちの目の前に大きな森が現れた。街の人に聞いた話では、この辺に大型の猫型魔物が住んでいるらしい。リサちゃんが私をチラリと見てくる。……なるほど。彼女はもう既にやる気満々といった様子だ。
私は小さくため息をつくと覚悟を決めた。この先どんな展開が待っているかは分からないが、もうどうとでもなれ! 私は気合いを入れるためにパンッと自分の両頬を叩き、「よし、行くわよ!」と言った。リサちゃんはそれに笑顔で答えてくれたのだった。
☆
森の中に入ってから約1時間が経過していた。しかし未だに敵の気配は感じられず、ただただ平和な時間が流れているだけだった。リサちゃんもいつも通りでとても上機嫌だ。こんなにも穏やかな状況が続くと流石に少し怖くなってきた。もしかしたら今回の相手はただの野良猫だったのかもしれない。……うん、それだったら良いんだけどね。
でも、残念ながら現実は無情で私の願いなど叶うはずもなかった。突如茂みが揺れ動く音がしたかと思うと、そこから一匹の獣が飛び出してきた。
翌日。昨日の件もあり少し遅めに起きた私たちは遅めの朝食をとっていた。
「り、リサはまたやってしまいました……。今度こそは絶対にアニータさんに嫌われてしまいます……!」
「嫌わないから安心して?」
「で、でも……リサのあんな姿をみて怖いとか醜いとか、危ないやつだとか近寄らんとことか思わないんですか?」
リサちゃんが不安そうに聞いてくる。確かに昨晩のリサちゃんの言動はぶっ飛んでいたが、それで彼女のことを嫌いになるかと言われると、そんなことは全くない。
「まぁ、確かに怖かったし危ないやつだと思ったし、近寄りたくないなとは思ったけど!」
「やっぱり……」
「でも、それがリサちゃんでしょ? 私はそれも含めてリサちゃんが好き」
「……好き?」
私の言葉を反すうすると、リサちゃんは顔を真っ赤にして黙ってしまった。その姿を見て私も自分の発言を思い返し頬を赤くしてしまう。やば、勢いに任せてとんでもないことを口走ってしまったかも。
「い、いやこれはそういう意味じゃなくて! 普通にパートナーとして好きというか!」
「……パートナー?」
あー、またなんか余計なことを言っちゃった!
「仕事仲間として好き!」
「……?」
「い、今のは忘れて!」
私はそう言って誤魔化すように食事を続けた。……うわぁ恥ずかしい。もう私の方が年上のはずなのに全然余裕がない。私は落ち着こうと深呼吸をした。
それから気を取り直して話を変える。
「それより魔物退治だよ魔物退治!早くしないと大変なことになるじゃん!」
「……アニータさん、いきなり話題を変えようとしないでください。まだ話は終わってないんですけど」
リサちゃんはいつになく真剣な表情で私を見つめてくる。これは逃げられそうにない。
「お、終わったよ?」
「……リサをアニータさんの人生のパートナーにしてください」
「なんの話!?」
思わず大きな声を上げてしまう。リサちゃんはその隙を狙っていたのか素早く立ち上がりこちらに向かってきた。そして私の背後に回り込むとそのまま腕ごと拘束されるように抱きしめられる。
「ちょっ! は、離れなさい!」
私はジタバタともがくが、リサちゃんは意外と力が強くなかなか振り解けない。
それからリサちゃんは私の首筋の匂いを嗅ぐようにして顔を擦り寄せてきた。ちょ、くすぐったいっ。変な気分になりそうなんだけど。
やがてリサちゃんは耳元まで顔を寄せ囁くように言った。
「捕まえました。はいと言ってくれるまで離しません」
「いやそれ選択肢ないから!」
私は全力で叫ぶ。しかし、それを気にした様子もなくリサちゃんは続けて言った。
「ではもう一度聞きますね。……リサのことをお嫁さんにしてください」
まずい。リサちゃん変なスイッチが入ってアサシンモードになってしまったみたいだ。普段なら私がこの状態の彼女を制御できるのだが今は逆効果になっているようだ。……仕方ない。ここは大人しく観念するしかない。……いや違う。ここで素直に答えたらきっと後々もっと面倒なことになる気がする。何かいい方法はないだろうか……?
私が頭を悩ませているとリサちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「どうして何も言ってくれないんですか? あ、まさかやっぱりアニータさんはコルネリアさんのことが好きで……」
あ、やばい、なんかすごい誤解されちゃってる。私は急いで弁明をする。
「いや待って待って。どうしてそういう発想になるの? 別に私はあの厨二病バカ娘のことが好きってわけじゃないよ」
「だって……アニータさん、ずっとあの人のことばっかり見てるから」
あ、そういうことか。リサちゃん、なんだかんだで結構やきもち焼きだったりするんだよねぇ。
「それはあいつが私のことをアホみたいに煽り倒してくるからでしょうがよ」
「本当ですか?」
リサちゃんの瞳の奥に疑惑の光が灯っている。うぅ、疑われてる……。ここはどうにかして信用してもらうしかないよね。
「ほら、よく思い出してみて? 私はあんなやつのことを好きになったりしないから! むしろ嫌いな部類というか!」
「……じーっ」
私の言葉を吟味するように見つめてくるリサちゃん。その眼力は強くてちょっとたじたじになってしまう。
「えっと、リサちゃん?」
「……まぁ、そういうことにしておきましょう」
どうやら納得してくれたようだ。ほっと胸を撫で下ろす。リサちゃんはまだ少し疑いの目線を向けてきているがなんとか説得できそうだ。私は話を続ける。
「まぁでもリサちゃんとなら結婚しても悪くないかも……とか思うけどね」
これは決して冗談ではない。リサちゃんと一緒の生活も悪くなさそうかなとは前々から思っていたのだ。ただ、たまに面倒くさくなるし、アサシンモードは怖い。
「アニータさん、本当にリサと夫婦になってくれるんですか?」
「え、えぇ……?」
「嬉しいです!」
「うひゃぁ!?」
急に首に生暖かいものが触れ思わず変な声が出てしまった。何事かと思い後ろを見るとリサちゃんが頬をスリスリしていた。猫のような行動に驚きつつも私は彼女に尋ねる。
「リサちゃん!? いったい何をしていらっしゃるのかしら!?」
「ふへへ、リサは嬉しさを抑えられなくて」
リサちゃんは完全にトリップしてしまったようだ。こうなるとしばらくはまともに会話が成立しないので、とりあえず放置しておくことにした。
散々リサちゃんに弄ばれた後、ようやく彼女を落ち着かせることができて、私たちは魔物退治に出発することができた。リサちゃんは相変わらずニコニコとご機嫌である。……私としてはそろそろ彼女の暴走を止めて欲しいところなのだけれど。
「リサちゃんさぁ、もう少し抑えてくんない? 私たちのギルドは仕事第一でしょう? ──酔っ払ったり色気づいたり……だめよそんなことじゃあ」
「リサはやる時はしっかりやる子ですので!」
「あ、はいそうですね」
リサちゃんに正論をぶつけるのはやめよう。またおかしなことになる気がする。
そうこうしているうちに、私たちの目の前に大きな森が現れた。街の人に聞いた話では、この辺に大型の猫型魔物が住んでいるらしい。リサちゃんが私をチラリと見てくる。……なるほど。彼女はもう既にやる気満々といった様子だ。
私は小さくため息をつくと覚悟を決めた。この先どんな展開が待っているかは分からないが、もうどうとでもなれ! 私は気合いを入れるためにパンッと自分の両頬を叩き、「よし、行くわよ!」と言った。リサちゃんはそれに笑顔で答えてくれたのだった。
☆
森の中に入ってから約1時間が経過していた。しかし未だに敵の気配は感じられず、ただただ平和な時間が流れているだけだった。リサちゃんもいつも通りでとても上機嫌だ。こんなにも穏やかな状況が続くと流石に少し怖くなってきた。もしかしたら今回の相手はただの野良猫だったのかもしれない。……うん、それだったら良いんだけどね。
でも、残念ながら現実は無情で私の願いなど叶うはずもなかった。突如茂みが揺れ動く音がしたかと思うと、そこから一匹の獣が飛び出してきた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
57
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる