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♡ゴスロリ魔王と最終決戦♡

私の大好きなもの

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 私は手始めに自分の衣類を全て吹き飛ばした。弾みで震える胸の感覚にももう慣れた。

「あ……れ?」

 すると、私の身体がなにやらぼんやりと光っているのがわかった。でも今はその理由を考えている余裕はない。あれは――ガラス玉はしっかり身体の中にあるよね? だったら――

「【閃光弾(フラッシュグレネード)】ッ!!!!」

 乙女の裸を見たやつにはしっかりと目潰しをしないといけない。私はリーナちゃんの技――【閃光弾】を突進してくるソラさんに投げつけた。


「っ!?」

 咄嗟に横に跳んでかわすソラさん。でもそれが私の狙いだった。

「【自動迎撃(オートインターセプト)】! 憑依(エンチャント)、【氷結(ひょうけつ)】!」

 右手にセレナちゃんのスナイパーライフルを召喚して頭上に放り投げると、それに氷の力を付与する。そして、私自身は続けてホムラちゃんの剣を召喚してソラさんに斬りかかった。

「遅いっ!」

 対するソラさんは、スナイパーライフルの狙撃をかわし、私の斬撃を剣で受け止めた。さすが、最強の戦士だけのことはあるってことか。――だけど!

「これならどう? 詠唱(コール)、【アクセラレーション】!」


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 魔法【アクセラレーション】がかけられました! 素早さが大幅に上昇しました!

 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【アクセラレーション】の効果が再度付与されました! 素早さが大幅に上昇しました!

 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【アクセラレーション】の効果が再度付与されました! 素早さが大幅に上昇しました!

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「はぁぁぁぁっ!! 【シールドバッシュ】!!」


 ――ガンッ!


 素早くソラさんの背後に回り込んだ私は、左手に召喚したクラウスさんの盾でソラさんの剣を払いのけた。そこにスナイパーライフルの弾が命中して、その鎧を氷漬けにして自由を奪っていく。

「……クソッ!」

「今だ! 詠唱(コール)、【スピードキャスト】!」

 正直ソラさんやイブリースの防御力がどれほどのものか分からない以上、私の持てる最大火力を叩き込むしかない。それは他の誰の技でもない、私自身の自爆(ディストラクション)だ。


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 魔法【スピードキャスト】がかけられました! 【ディストラクション+】の詠唱時間が10秒短縮されました! 

 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【スピードキャスト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション+】の詠唱時間が10秒短縮されました! 

 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【スピードキャスト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション+】の詠唱時間が10秒短縮されました!  

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「いっけぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!! 【自動回復(オートリペア)】! そして、ディストラ――」

「心凪ちゃん後ろ!!」

 サラお姉ちゃんの声に慌てて振り向いたが遅かった。

「――させるかっての!!」


「ぐっ!?」

 背後から襲ってきたイブリースの大鎌は私の身体を深々と切り裂いていた。

 でも不思議、痛みは全くない。私は呆然と自分の身体を見下ろし――してやったりといった顔のイブリースを眺め――少し離れたところで倒れ伏すサラお姉ちゃんを見つけた。

「――サラお姉ちゃん!?」


 ――スキル【身代わり】


 サラお姉ちゃんはミルクちゃんだったころのスキルを使って私を守ったんだ……!

「……心凪ちゃん、早く魔法を……」

 光の粒子となって消えていくサラお姉ちゃん。彼女はゲーム内で死んだだけで、リアルに死んだ訳じゃない。それは分かる……けれど!


「うぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! お姉ちゃぁぁぁぁんっ!!!! 【ディストラクション】ッッッ!!!!」

 私は身体の奥底から絞り出すように叫んだ。

「――うそ」


 唖然として呟くイブリースと、いまだに動けないソラさんを巻き込んで、私の身体から黒い光が溢れ、広がっていった。

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 スキル【即死回避】が発動しました!

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 ……。

 …………。

 ………………。


「はぁ……はぁ……終わったの?」

 なにも……ほんとになにもなくなってしまった空間で私は荒く息をついていた。多分私の自爆は全てを巻き込んで――

 ふぅ……やったよ! やったよみんな! 私……私は……


 みんなは?


 私はすっぽんぽんな自分のお腹のあたりに触れてみる。そこからはまだぼんやりとした光が溢れていた。――大丈夫、みんなここにいる。私、みんなを守ることができたんだ!
『トロイメギア』が完成したら――また会えるよね?

「……キュッ、キュィ?」

 気づいたら座り込んだ私に小さな青いスライムが擦り寄ってきていた。さっき召喚したやつだ。どうやったのか分からないけど、自爆を逃れたらしい。私はスライムを抱えてみた。なんか、ひんやりして気持ちいいけど、この何もない世界では唯一の他の生物であるスライムくんからは謎の温もりが感じられた。

 もう少しだけ、余韻に浸ってたいな。

「『トロイメギア』を売り出すとしたら、プレイヤー同士の対戦要素は無くした方がいいかな? 医療用なんだし、それでトラウマを植え付けられちゃたまらないよね」

「キュイ!」

「お前もそう思う? あ、そうだ。その代わりスライムをパートナーにスローライフとかいいかもね! そうだ、そうしようよーし!」

「キュッキュッ!」


 何もない空間にしばし一人と一匹の会話が響いていた。


 ◇  ◆  ◇


「――ちょう!」

 ……ん?

 目の前で美少女が私に向かって話しかけている。――この子は?

「社長! また考え事ですか?」

「え、うーんちょっとね。いろいろ思い出してて。ごめんねリーナちゃん」

「ハンドルネームで呼ぶのやめてください!」

「えー、じゃあリーナちゃんも敬語使うのやめてよ? タメなんだから」

「えっと、じゃあ社長――じゃなくてココちゃん! 早く指示出してよ」

「もうちょっと感慨にふけらせて?」

 リーナちゃん――いや、ヒナちゃんは腰に手を当てて呆れた表情をした。私とヒナちゃんの目の前には10基の2mほどの高さがある卵型の機械が羅列していた。卵からは何本ものコードが伸びて建物の壁に吸い込まれている。


「それにしても小見哲人元社長の死から三年。ようやく漕ぎ着けたね。ココちゃんが悪いやつから『トロイメギア』を守ったおかげだよ。その後もギアを使い続けて不眠症治して、おまけにしっかり歩けるようになっちゃって……」

「えへへ、ゲーム好きのヒナちゃんたちも開発を手伝ってくれて助かったよ。まさかヘルメット型じゃなくて、食事や排泄の時間すらログアウトせずにすむ完全フルダイブが実現するなんて思わなかったよ」

「あはは、ココちゃんが、トイレ行きたくなってログアウトしたことが何回もあったって言ってたからねー」

「で、この『クロスギア』に私の家族の人格データは入ってるの?」

「それどころか、何千何万、いや何億の人格データが入ってるよ」

「なんだっけ、小説上のキャラクターを召喚できるとか何とか? 私にはイマイチピンとこないけど」

「そう。名付けて『クロスフェイトセプター』。交錯する運命の使役者ってとこかな。今臨床実験中」

「じゃあこの中に人が入ってるんだね?」

「そういうこと」

 得意げにヒナちゃんが解説していると、部屋のドアが開いて、茶色の短い髪の20代後半くらいの女の人が入ってきた。Tシャツにジーンズにスニーカーというラフな格好は、彼女の活発的なイメージを際立たせている。


「あっ、遅くなりましたぁ!」

「サラお姉ちゃんは相変わらずマイペースだなぁ」

「ごめんなさいっ! 急遽臨床実験中にリタイアが出てしまって、新しい人を探してたの……」


「サラお姉ちゃん。私もこのゲームやってみたい!」

「心凪ちゃんならそう言うと思って――ちゃんとラスボスとして登場してもらうことになってるよ!」

「ラスボス!? 楽しそう!」

「この『クロスギア』は医療用じゃないから好きなだけ暴れていいよ」

「やったぁ! 久しぶりに全裸自爆決めてやるもん!」

「ほんとにそれ好きだね……」


 あの『トロイメア・オンライン』での出来事以降、私のアバターであるココアちゃんには無性に愛着が湧いてしまって、この『クロスフェイトセプター』にもそのアバターを再現してもらっていた。

 今もしゼロからキャラエディットをし直したとしても、またあの金髪緋色の目でロリ巨乳のココアちゃんのアバターができるだけだろう。

 私は変わらない。

 家族や友達が大好きで――呆れるほどポジティブで――ちょっぴりMで――全裸と自爆が大好きなスーサイドガール。


 ――そしてなによりも


 ――ゲームをプレイする人が笑顔になるのが大好き


 だから今日も私は家族に会いにゲームにログインして――元気に自爆します!

「――それじゃあ行ってくるね。いい夢をトロイメグート!」




 ―おしまい―
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