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第44話 歓待
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……が。
「うわぁぁぁっ! よく考えたら私たち四人ともこの部屋で寝るの!?」
クロエが悲鳴を上げた。ノエルが首を傾げる。
「なんで? 何か問題でも?」
「大ありだけど!? バカ乳は痴女だから理解できないだろうけど、普通男女は別々の部屋で寝るものなの!」
「えぇ~? でも、ベッドはちゃんと二つあるよ?」
ノエルが反論する。確かにこの部屋のベッドはキングサイズのベッドが二つもある。……ん?
「二つしかないのよ!つまり四人で寝るなら、誰か二人は床で寝るしかないの!」
クロエが叫ぶ。俺は思わず口を開いた。
「いや、別に俺は床でもいいけど」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあどういう問題だよ……?」
「あの~。別に床で寝なくても同じベッドで二人寝ればよくないかな?」
ノエルが提案してくる。俺は頭を抱えた。
「お前、自分が何言ってるのかわかってんのか?」
「うん? 私は誰と寝ても大丈夫だよ☆」
「いや大丈夫じゃないだろ! 千歩譲ってそっちは大丈夫だとしてもこっちが大丈夫じゃねぇわ!」
俺は思わずツッコむ。ノエルは首を傾げた。
「なんでそんなムキになるの? もしかして、リッくんは私と同じベッドで寝るのは嫌なのかな?」
「嫌とかそういうことじゃなくてだな……」
俺はため息をつく。ノエルが不思議そうに首を傾げた。
「じゃあ何が問題なの? 私はリッくんと一緒に寝たいなー?」
「あーはいはい。どうしても誰かと寝たいなら、バカ乳は私と寝るの。消去法でね?」
クロエが呆れたような顔で言った。ノエルは不服そうに頰を膨らませる。
「え~? なんで私がクロエと寝るの? 一番つまんなくない?」
「面白いつまんない基準で決めんな! そもそも、年頃の男女が同じベッドで寝るとかありえないから! ……これだからバカ乳はバカなのよ」
「え~? なんで?」
クロエがため息をつくと、ノエルは不満そうに頰を膨らませた。俺は額を抑えて首を振る。するとアルフォンスが俺の肩をポンと叩いてきた。
「まあ……その……とりあえず僕は床で寝るから。残りのベッドは君が使ってくれ」
「いや、それはさすがに悪いって」
俺が言うと、彼は首を横に振った。
「……いいんだ。それに、君は僕と同じベッドで寝るのは嫌だろう?」
アルフォンスの言葉に俺は少し考えてから答えた。
「……別に嫌じゃないぞ。他の二人と寝るよりは全然いいし、アルだけ床に寝かせたら申し訳なさすぎてゆっくり眠れないと思う」
「そう……か。なら、お言葉に甘えて寝させて貰うよ」
アルフォンスは微笑むと、部屋の隅にあったソファーに腰を下ろした。静かに持参した本を読み始めた彼は、少し思い詰めているようにも見える。今はやはりそっとしておいてやろう。
俺はそう思いながらベッドに腰掛けた。ふわりとした感触が心地よい。しばらくそうしていると扉をノックする音が聞こえた。返事をすると初老の執事が、なにやら金属製の台車のようなものを押して入ってきた。
「お食事をお持ちいたしました」
「あぁ。ありがとう」
俺たちは礼を言うと夕食を受け取ってテーブルについた。用意されていたメニューはどれも豪勢なものばかりだ。
「……これ全部食べてもいいんだよね?」
ノエルが瞳を輝かせて訊ねてくる。俺は頷いた。
「俺たちのために用意されたものだから、食べていいんだろ?」
「やっほーぃ!」
ノエルは奇声を上げながら嬉しそうに飛び跳ねると料理に手を伸ばし始める。そんな彼女を見てクロエは呆れたように肩を竦めた。
「いただきます」
俺が挨拶すると、二人もそれに続く。俺はスプーンを手にとってスープを一口すくって口に運んだ。その瞬間、口の中に濃厚な旨みが広がる。野菜本来の甘みと鶏肉の出汁がよく染みていてとても美味しい。
「これは美味いな……」
思わず呟くと隣に座っていたクロエが同意するように頷く。ノエルは幸せそうな表情を浮かべながら次々と食べ進めていく。その様子を見ると本当に美味しそうに見える。俺はまたスプーンで掬って飲み込んだ。
「美味い……!」
再び感嘆の声を漏らすと、目の前の皿からはすでに半分以上なくなっていた。見ると、向かいに座るアルフォンスは黙々と食事を続けており既に半分ほど平らげている様子である。
「すごい食欲だね……」
クロエが引き攣った笑みを浮かべてそう言う。実際、二人の食べる速度は尋常ではない。特にノエルに関してはおかわりの要求がないのが不思議なくらいのペースだ。まあ、普段の彼女の食べっぷりを見ていると、この豪勢な食事でも足りるかどうか怪しいところなのだが
俺たちは結局全て平らげてしまった。食後の紅茶を飲みながら一息つくと、クロエが口を開く。
「さてと。これからどうするの?」
クロエの質問に対して、俺とアルフォンスは同時に押し黙ってしまった。
「……とりあえず今は何もできないだろ? 公爵家の庇護下にあるわけだし、迂闊に動けば公爵家に迷惑がかかる」
俺が答えると、クロエは腕組みをして考え込む。
「でも……いつまでもこの状態ではいられないしな」
アルフォンスは渋面を作ってそう呟く。俺も同感だった。今のところは匿ってくれていて助かっているとはいえいつまでも甘えてはいられないだろう。
「まあ、明日以降フローラも含めて改めて今後について話し合いをするべきだと思う」
俺が言うと、他の三人も賛成といった雰囲気だったのでひとまず解散となった。その後部屋に戻りベッドに横になると緊張の糸が切れたかのように睡魔に襲われる。抗うことなくそのまま眠りにつこうとしていると突然声をかけられた気がしたので身体を起こすと、ロウソクの薄い明かりの中すぐ隣にアルフォンスの整った顔があって肝が冷えた。
「やあ」
「やあじゃねぇむぐぐ……」
抗議の声を上げようとするとアルフォンスに口を塞がれる。彼は顎で隣のベッドを示した。
そこには抱き合うようにして眠るクロエとノエルの姿があった。なんだよこいつら、普段いがみ合ったりからかいあったりしてるくせになんだかんだ仲良しじゃねぇか。俺はそう思ったが口に出すのをやめておくことにする。
代わりに、彼女らを起こさないよう小声で尋ねた。
「……で? 一体何の用だ?」
「君と同じベッドで寝るという話だったから、来ただけだけど?」
俺の返事を待たずアルフォンスは構わずにシーツを捲って隣に滑り込んでくる。
「おい!」
俺の抗議の声を無視してアルフォンスはそのまま俺の隣で横になった。俺は慌てて起き上がる。
「確かにさっきは一緒に寝ていいと言ったけど、いざ寝るとなると色々気になるわ!」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
「僕が一緒だと何か困ることでもあるのかい?」
「……!」
俺は言葉に詰まった。彼が純粋な疑問を持ってこちらを見つめているからだ。
(こいつマジで意味が分からないんだろうなぁ)
そう思ってしまう程の眼差しだった。アルフォンスの問いかけに対する答えを探しているうちに時間が経過してしまう。
「僕は君のことを信用しているし信頼しているんだけどな」
そう言いながら彼は寂しげに微笑む。俺は彼を傷付けないように慎重に言葉を選ぼうとしている自分に気付き内心戸惑った。
「アルが嫌だとかそういうんじゃないからな? ただ、なんていうか……」
歯切れ悪く言っているうちにアルフォンスは再びシーツを被ってしまった。
「それならば気にせず僕と一緒に寝てくれ」
こう言われてしまってはもう何も言えない。諦めて大人しくアルフォンスの隣で横になることにした。
(なんか最近こんなのばっかりだな……)
溜息を吐いてから目を閉じると、自然と意識が遠くなっていった。
「うわぁぁぁっ! よく考えたら私たち四人ともこの部屋で寝るの!?」
クロエが悲鳴を上げた。ノエルが首を傾げる。
「なんで? 何か問題でも?」
「大ありだけど!? バカ乳は痴女だから理解できないだろうけど、普通男女は別々の部屋で寝るものなの!」
「えぇ~? でも、ベッドはちゃんと二つあるよ?」
ノエルが反論する。確かにこの部屋のベッドはキングサイズのベッドが二つもある。……ん?
「二つしかないのよ!つまり四人で寝るなら、誰か二人は床で寝るしかないの!」
クロエが叫ぶ。俺は思わず口を開いた。
「いや、別に俺は床でもいいけど」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあどういう問題だよ……?」
「あの~。別に床で寝なくても同じベッドで二人寝ればよくないかな?」
ノエルが提案してくる。俺は頭を抱えた。
「お前、自分が何言ってるのかわかってんのか?」
「うん? 私は誰と寝ても大丈夫だよ☆」
「いや大丈夫じゃないだろ! 千歩譲ってそっちは大丈夫だとしてもこっちが大丈夫じゃねぇわ!」
俺は思わずツッコむ。ノエルは首を傾げた。
「なんでそんなムキになるの? もしかして、リッくんは私と同じベッドで寝るのは嫌なのかな?」
「嫌とかそういうことじゃなくてだな……」
俺はため息をつく。ノエルが不思議そうに首を傾げた。
「じゃあ何が問題なの? 私はリッくんと一緒に寝たいなー?」
「あーはいはい。どうしても誰かと寝たいなら、バカ乳は私と寝るの。消去法でね?」
クロエが呆れたような顔で言った。ノエルは不服そうに頰を膨らませる。
「え~? なんで私がクロエと寝るの? 一番つまんなくない?」
「面白いつまんない基準で決めんな! そもそも、年頃の男女が同じベッドで寝るとかありえないから! ……これだからバカ乳はバカなのよ」
「え~? なんで?」
クロエがため息をつくと、ノエルは不満そうに頰を膨らませた。俺は額を抑えて首を振る。するとアルフォンスが俺の肩をポンと叩いてきた。
「まあ……その……とりあえず僕は床で寝るから。残りのベッドは君が使ってくれ」
「いや、それはさすがに悪いって」
俺が言うと、彼は首を横に振った。
「……いいんだ。それに、君は僕と同じベッドで寝るのは嫌だろう?」
アルフォンスの言葉に俺は少し考えてから答えた。
「……別に嫌じゃないぞ。他の二人と寝るよりは全然いいし、アルだけ床に寝かせたら申し訳なさすぎてゆっくり眠れないと思う」
「そう……か。なら、お言葉に甘えて寝させて貰うよ」
アルフォンスは微笑むと、部屋の隅にあったソファーに腰を下ろした。静かに持参した本を読み始めた彼は、少し思い詰めているようにも見える。今はやはりそっとしておいてやろう。
俺はそう思いながらベッドに腰掛けた。ふわりとした感触が心地よい。しばらくそうしていると扉をノックする音が聞こえた。返事をすると初老の執事が、なにやら金属製の台車のようなものを押して入ってきた。
「お食事をお持ちいたしました」
「あぁ。ありがとう」
俺たちは礼を言うと夕食を受け取ってテーブルについた。用意されていたメニューはどれも豪勢なものばかりだ。
「……これ全部食べてもいいんだよね?」
ノエルが瞳を輝かせて訊ねてくる。俺は頷いた。
「俺たちのために用意されたものだから、食べていいんだろ?」
「やっほーぃ!」
ノエルは奇声を上げながら嬉しそうに飛び跳ねると料理に手を伸ばし始める。そんな彼女を見てクロエは呆れたように肩を竦めた。
「いただきます」
俺が挨拶すると、二人もそれに続く。俺はスプーンを手にとってスープを一口すくって口に運んだ。その瞬間、口の中に濃厚な旨みが広がる。野菜本来の甘みと鶏肉の出汁がよく染みていてとても美味しい。
「これは美味いな……」
思わず呟くと隣に座っていたクロエが同意するように頷く。ノエルは幸せそうな表情を浮かべながら次々と食べ進めていく。その様子を見ると本当に美味しそうに見える。俺はまたスプーンで掬って飲み込んだ。
「美味い……!」
再び感嘆の声を漏らすと、目の前の皿からはすでに半分以上なくなっていた。見ると、向かいに座るアルフォンスは黙々と食事を続けており既に半分ほど平らげている様子である。
「すごい食欲だね……」
クロエが引き攣った笑みを浮かべてそう言う。実際、二人の食べる速度は尋常ではない。特にノエルに関してはおかわりの要求がないのが不思議なくらいのペースだ。まあ、普段の彼女の食べっぷりを見ていると、この豪勢な食事でも足りるかどうか怪しいところなのだが
俺たちは結局全て平らげてしまった。食後の紅茶を飲みながら一息つくと、クロエが口を開く。
「さてと。これからどうするの?」
クロエの質問に対して、俺とアルフォンスは同時に押し黙ってしまった。
「……とりあえず今は何もできないだろ? 公爵家の庇護下にあるわけだし、迂闊に動けば公爵家に迷惑がかかる」
俺が答えると、クロエは腕組みをして考え込む。
「でも……いつまでもこの状態ではいられないしな」
アルフォンスは渋面を作ってそう呟く。俺も同感だった。今のところは匿ってくれていて助かっているとはいえいつまでも甘えてはいられないだろう。
「まあ、明日以降フローラも含めて改めて今後について話し合いをするべきだと思う」
俺が言うと、他の三人も賛成といった雰囲気だったのでひとまず解散となった。その後部屋に戻りベッドに横になると緊張の糸が切れたかのように睡魔に襲われる。抗うことなくそのまま眠りにつこうとしていると突然声をかけられた気がしたので身体を起こすと、ロウソクの薄い明かりの中すぐ隣にアルフォンスの整った顔があって肝が冷えた。
「やあ」
「やあじゃねぇむぐぐ……」
抗議の声を上げようとするとアルフォンスに口を塞がれる。彼は顎で隣のベッドを示した。
そこには抱き合うようにして眠るクロエとノエルの姿があった。なんだよこいつら、普段いがみ合ったりからかいあったりしてるくせになんだかんだ仲良しじゃねぇか。俺はそう思ったが口に出すのをやめておくことにする。
代わりに、彼女らを起こさないよう小声で尋ねた。
「……で? 一体何の用だ?」
「君と同じベッドで寝るという話だったから、来ただけだけど?」
俺の返事を待たずアルフォンスは構わずにシーツを捲って隣に滑り込んでくる。
「おい!」
俺の抗議の声を無視してアルフォンスはそのまま俺の隣で横になった。俺は慌てて起き上がる。
「確かにさっきは一緒に寝ていいと言ったけど、いざ寝るとなると色々気になるわ!」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
「僕が一緒だと何か困ることでもあるのかい?」
「……!」
俺は言葉に詰まった。彼が純粋な疑問を持ってこちらを見つめているからだ。
(こいつマジで意味が分からないんだろうなぁ)
そう思ってしまう程の眼差しだった。アルフォンスの問いかけに対する答えを探しているうちに時間が経過してしまう。
「僕は君のことを信用しているし信頼しているんだけどな」
そう言いながら彼は寂しげに微笑む。俺は彼を傷付けないように慎重に言葉を選ぼうとしている自分に気付き内心戸惑った。
「アルが嫌だとかそういうんじゃないからな? ただ、なんていうか……」
歯切れ悪く言っているうちにアルフォンスは再びシーツを被ってしまった。
「それならば気にせず僕と一緒に寝てくれ」
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