俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流

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第41話 囚われの令嬢

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「……何よ平民」

 すると、視線に気付いたのかフローラがこちらを振り返った。そしてジト目で俺の顔を見るなり不機嫌そうに言う。

「いや、別に……」

 俺は慌てて視線を逸らした。


 すると今度はその様子を見ていたクロエが膨れっ面をして苦言を呈してくる。

「リッくんは無意識に女の子を眺めすぎなのよ。視線がキモい」

 どうやら俺の両側をノエルとアルフォンスに取られてご機嫌ナナメなようだ。

「す、すまん……」

 俺は素直に謝ることにした。すると、今度はそれを見たノエルがわざとらしく俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

「リッくんはそういう年頃だもんね。分かるよ~」

 ノエルはそう言って俺をギュッと抱きしめた。……柔らかい感触が伝わってくると同時にクロエとフローラの鋭い視線が俺に刺さる。

(ちょ、ちょっとノエル!?)

 俺は小声で抗議するが、彼女は全く意に介さない様子だ。それどころかさらに身体を密着させてくる始末である。

「むー……」

 それを見たクロエが不満げに唸ると、対面に座っていたアルフォンスの腕を取って強引に自分の方に引き寄せた。そしてそのまま彼の肩に頭を預けた。

「あはは……」

 アルフォンスは苦笑いを浮かべている。しかし満更でもない様子でされるがままになっているようだ。

「おおっ、見せつけてくれるね~。じゃあこっちだって」

 ノエルはそう言うと、アルフォンスがどいて空いたスペースに足を投げ出し、俺の膝の上に頭を乗せて横になった。いわゆる膝枕の状態である。

「ノエルさん!?」

 俺が驚いて声を上げると、彼女は悪戯っぽく笑った。そしてそのまま目を閉じてしまう。

「私とリッくんは仲良しだもん。これくらいはね?」
「あのなぁ……誤解を招くようなこと言うのはやめてくれよ……」
「別に誤解じゃないと思うけど?」

 ノエルはそう言うと、俺の膝に頬ずりした。その様子を見ていたクロエが叫ぶ。

「わ、私だって! 昨日リッくんに、は、裸見られたもん!」
「おい!」
「……えっ?」
「えっ?」

 クロエの言葉に、アルフォンスとフローラが同時に声を上げた。俺は慌てて弁明する。

「いや! あれは事故というかなんというか……とにかく違うんだよ!」
「ふーん? でも見たことには変わりないじゃん」

 クロエはジトーっと俺を見つめた。俺は冷や汗をかきながら視線を逸らす。

「ま、まあ……それはそうなんだけどさ。てっきり二人だけの秘密にしておくのかと思った。……話していいのかよここで」
「う、うるさい! リッくんが悪いんでしょ!?」

 クロエは頬を赤らめると、そのままプイッとそっぽを向いてしまう。フローラが呆れたように言った。

「全く……アンタたちっていつもそんな感じなの? なんというか……品がないわね。それとも平民だからこんなものなのかしら?」
「いやなんというか……申し訳ないフローラ嬢」

 アルフォンスが苦笑いで頭を下げる。ノエルは既に俺の膝の上で寝息を立てていた。……相変わらず自由な奴だ。
 フローラはフンと鼻を鳴らした。

「むしろ他の三人に言いたいんだけど……まあいいわよ別に。アンタたちがどういう関係だろうとアタシには関係ないし」

 そして、再び窓の外へと視線を逸らすフローラだったが……心なしかその横顔はどこか寂しそうだった。


 ***


 目を開けると、硬く冷たい感覚と、石造りの天井が目に入った。身体が恐ろしく重い。
 地下牢らしき場所で、まだ年若い少女──ルナ・サロモンは朦朧とする頭で思考を整理しようとした。

(そういえばわたしは聖フランシス教団に捕まって……それで……)

 そこまで考えたところで、彼女はハッと我に帰る。慌てて身体を起こそうとするが、手足に付けられた鎖がジャラリと音を立ててそれを阻んだ。

「くっ……これは一体……」

 ルナは自分が今置かれている状況を把握しようと試みる。しかし、頭がボーッとしていて上手く思考がまとまらない。

(クリスティーナが七聖剣であるわたしを殺さずにこうして生かしているということは、身代金目的かそれとも……)

 クロエから聞いた話が脳裏をよぎる。聖フランシス教団は魔力を持つ少女を攫い、非人道的な方法で回復術士として覚醒させるという人体実験を秘密裏に行っているという。

「まさか……」

 ルナは最悪の事態を想像して、顔を青ざめさせた。しかし、すぐに頭を切り替えようとする。

(まだそうと決まったわけじゃない……)

 聖フランシス教団の当面の目的は『リジェネレーション』のリックと『ライフドレイン』のクロエの確保のはずだ。だが、彼らの確保が難しいとなれば、次に狙われるのは自分だということも想像に難くはない。
 そして、ルナとしてはなんとしても彼らには逃げおおせてもらいたい。教団が二人を手に入れたら、この国のパワーバランスは大きく崩れてしまう。

「早くここから脱出しないと……」

 ルナは周囲を見渡すが、地下牢の出口らしきものは全く見当たらなかった。

「……駄目ですか」

 ルナは肩を落とした。すると、地下牢の外からカツッ、カツッという足音が聞こえてくる。誰かがこちらに向かってきているようだ。

(まさか……)

 ルナはゴクリと唾を飲み込んだ。やがて足音は彼女のいる牢屋の前で止まると、ガチャリと音を立てて鍵が外される音がした。そしてギィィィと鈍い音を立ててゆっくりと扉が開かれる。

「あらあら、やっとお目覚めですか? お姫様?」

 現れたのは、聖フランシス教団の大司教──クリスティーナ・ビスマルクその人だった。彼女は妖しい笑みを浮かべながら牢屋の中に入ってくると、ルナに歩み寄ってきた。

「トルステン隊長は! アーベルさんは無事なのですか!?」
「まずお仲間の心配とは、殊勝なことですね。二人がどうなったかは知りません。私があの洞窟から連れ出したのはあなただけですので」
「……わたしをどうするおつもりですか?」

 ルナは警戒しつつ尋ねた。クリスティーナはクスリと笑うと、ゆっくりと口を開く。

「そうですねぇ……まずは『リジェネレーション』と『ライフドレイン』をおびき出す餌として使わせてもらいますかね」
「残念でしたね。彼らはもうわたしとは無関係の組織ですので」
「ふーん? でも彼らはどう思ってるでしょうねぇ?」
「……どういう意味ですか?」

 クリスティーナの言葉に、ルナは眉を寄せる。彼女は相変わらず妖しい笑みを浮かべたままだ。

「彼ら、私がギルドに出した偽の依頼に釣られて、あなたを助けに来ましたよ? あと少しのところで取り逃してしまいましたが」
「っ……!」

 ルナはハッとして目を見開いた。そして唇を噛み締める。クリスティーナが続けた。

「よかったですね、仲間に慕われていて。……お陰で私も手間が省けます」
「わたしを……人質として使うおつもりですか?」

 ルナは震える声で尋ねた。クリスティーナはニヤリと笑う。

「そうだと言っています」
「くっ……」

 ルナは悔しそうに歯噛みした。そんな彼女の様子を楽しげに見つめながら、クリスティーナはさらに続ける。

「まあでも、『月の雫』のような弱小ギルドに、私に一矢報いることができるほどの黒魔導士がいたのは想定外でしたし、少し手を加えさせていただきます」

 クリスティーナはそう言うと、懐から何かを取り出した。それは小さな赤く光る石のようなものだった。

「それは……」
「これは『紅月の涙』と呼ばれるマジックアイテムです」

 クリスティーナはそう言うと、それをルナに見せつけるようにかざす。

「この石を私の魔力で活性化させ、そこにあなたの魔力を注ぎ込むことで、あなたは私に逆らえなくなる。要は『精神の牢獄』といったところでしょうか」「っ……!」

 ルナは戦慄に身を震わせた。そんな反応を楽しむように、クリスティーナは笑みを浮かべる。

「さて、始めましょうか? お姫様」

(わたしは……どうすれば)

 ルナは唇を噛み締めながら、必死に思考を巡らせる。

「普通の洗脳では、時間が経てばすぐに解けてしまいますが、この『紅月の涙』に魔力を注げば、半永久的に効果が続くのです。あなたがどれほど強力な魔力を持っていようと、これを使えばそれすら私の思うがまま。これがどういう意味か分かりますね?」

 クリスティーナはそう言うと、ルナに向かってゆっくりと歩み寄ってくる。そして耳元で囁くように言った。

「あなたは自ら餌となり、そして自分の手で彼らを捕らえることになる。……ああ、なんて可哀想なんでしょう!」

 クリスティーナの嘲笑うかのような声が地下牢に響き渡る。ルナは悔しさのあまり、目に涙を浮かべた。

(リックさん、クロエさん……! どうかご無事で)

 心の中でそう願いながら、彼女はクリスティーナの魔の手を待つことしかできなかった。
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