もし、隣の席のイキリギャルが突然小さくなってしまったら

早見羽流

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もし、隣の席のイキリギャルが突然小さくなってしまったら

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 ――ガタン――ガタン


 規則的な音が教室に響いている。私はなんとなくそちらの方に視線を送る。
 すると案の定、音の主に睨まれてしまった。

「んだよ地味子。文句あんのか? あぁ?」

 クルクルとパーマがかかった金髪。着崩した制服。いい感じにメリハリのある体つき。腰に巻き付けたセーター。指にはキラキラしたネイル。短いスカートから伸ばした健康的な肌の両足は机の上に乗せられ、彼女――持丸もちまる 那葉なのはちゃんはくちゃくちゃとガムを噛みながら椅子をガタガタさせている。

 彼女は根っからの陽キャラ。イキリギャルだ。臆病で根暗の私とは正反対の存在。――なんでそんな子が私の隣の席にいるのか……。



 ――ガタン――ガタン


 授業中にうるさいなぁ。
 高校の先生も、那葉ちゃんの素行不良さには匙を投げているらしく、注意はしない。もちろん、私が口を出せるはずもない。


 ――ガタン――ガタン


 あー、態度がデカいだけのギャルは、せめて身体がちっちゃければもっと可愛げがあるんだけどなー。
 などともんもんとしていると……。


 ――ガッターン!


 あっ、コケた。ほら言わんこっちゃない。

「いったたたっ!!」

 那葉ちゃんの声にクラス中の視線が集まる。私も何となくそちらに視線を向けてみる。――でも。

 ――びっくりした

 倒れた椅子。
 でもそこに那葉ちゃんはいなかった。

「あれ?」

 クラスがざわつきはじめる。古典の授業をしていた女教師も、授業を中断してこちらに注目している。

「那葉ちゃん……?」

「な、なにこれ、マジで意味がわからないんですけどぉ!?」

 那葉ちゃんの声は私の足元で聞こえてきた。
 見るとそこに那葉ちゃんは立っていた。――小さくなった姿で。

「あれ、那葉ちゃんどうしたの?」

「ウチが聞きたいわ! てかおい地味子! 見てないでさっさとウチを拾って椅子……いや、机の上に乗せろ!」

 服ごと身長10センチほどになってしまった彼女は、キャンキャンと吠える。
 もしかして、私の祈りが届いちゃった?
 いつも那葉ちゃんに迷惑をかけられっぱなしだった私は少しだけいたずらしてみたくなってしまった。

「乗せろじゃなくて、乗せてください……でしょ? あと、私の名前は地味子じゃなくて玉村《たまむら》 彩羽《さわ》だから」

「ふんっ! 誰が地味子なんかに頼むか! もういい! ここで――」


「持丸さん。しっかりと授業は聞いてください」

「えぇっ!? マジかよ!!」

 国語教師も、小さくなってしまった那葉ちゃんに仕返しをしたかったらしく、ここぞとばかりに釘を刺してくる。那葉ちゃんは面食らったような表情になって、床の上でぴょんぴょん飛び跳ねている。可愛い。

「玉村さん、小さくなった持丸さんのサポートをお願いしますね」

「はーい」

 指名されてしまった。


「ってことだから那葉ちゃん。授業受けよっか」

「受けよっかじゃねぇよ! ウチは帰るからよろしく!」

「あ、こら逃げないの!」

 背を向けて逃げ出そうとした那葉ちゃんを私は両手で捕まえた。昔飼っていたハムスターを捕まえたのと似たような感覚だった。温かくて、柔らかくて、気持ちいい。

「おい離せコラ!」

 暴れる那葉ちゃんを私の机の上に乗せてあげる。再び自由を取り戻した那葉ちゃんは走り出し、机から飛び降りようとしたが、小さくなってしまった彼女にとっては予想外に高かったのか、机の端で立ちすくんでしまった。

「ほら、那葉ちゃん。ちゃんとノートとって?」

 私は自分のシャープペンシルを那葉ちゃんに押し付け、ノートを指し示す。

「よっこらせ……ってできるかこんなの! てかなんでウチが地味子のノートとらなきゃいけねえんだ!」

 自分の身長ほどのシャープペンシルを投げる那葉ちゃん。

「あ、こら! だめ!」


 ――ビシッ!


「はぶっ!?」

 軽く胸をデコピンで突っついただけで、那葉ちゃんは尻もちをついてしまった。なんだろうこの感覚は……いつもと完全に立場が入れ替わってしまった今の状況は……とても楽しかった。


 □  ■  □


 そんなこんなで午前中の授業を那葉ちゃんと一緒に受けて、昼休みになった。いつもは目立たない私の席は、小さくなった那葉ちゃんのせいで周りには人だかりができて、那葉ちゃんはクラスメイトに代わるがわる突っつかれてげんなりしたりしていた。

 私が昼ごはんを食べていると、彼女も物欲しそうな顔をしていたので、米粒を指先に乗せて与えてみた。彼女は米粒を手で受け取って、おにぎりみたいな感じで食べていた。小動物みたいですごく愛らしかった。やがて、彼女は顔を赤くしながらこんなことを口にした。

「――なあ地味子……」

「地味子じゃなくて……」

「彩羽……」

「なあに……?」

 彼女は口元に手を当ててなにか言おうとしている。私が耳を近づけると、その耳元でこう囁いた。

「……トイレに行きたいんだけど」

「……え?」

「だーかーらー! トイレに連れて行け!」

「行け?」

「……連れて行ってくださいお願いします彩羽様」

「――よろしい」

 とは言っても小さくなってしまった那葉ちゃんは便座に座れるわけもなく……私は四苦八苦しながら那葉ちゃんのトイレのお手伝いをしてあげたのだった。


 □  ■  □


 いやー、今日は楽しい1日だった。
 家に帰った私は自室のベッドに横になり、1日のできごとを思い返してニヤニヤしていた。
 すると、なにやら学生鞄のなかからガサゴソと……しまった! そういえば那葉ちゃんをお家に送り届けようとして鞄に入れたっきり忘れてそのまま自宅に持って帰ってきてしまったのだった!

 慌てて学生鞄のファスナーを開けると、中から顔を真っ赤にした那葉ちゃんが現れた。

「おい! なにウチを家にテイクアウトしてんのさ!」

「ごめん忘れてた!」

「だからどんくさいって言われんのよ」

 学生鞄から取り出して自宅の勉強机の上に下ろしてあげると、彼女は腰に手を当てて説教の体勢になった。

「うるさい、えいっ!」

「はぶっ!?」

 突っつくとまたコケる那葉ちゃん。可愛い。

「この、ちんちくりんの地味子のくせに!」

「あ? 今の那葉ちゃんが言う? 今の那葉ちゃんのバスト6センチくらいだよ?」

「こ、このぉぉぉっ! 元に戻ったら絶対後悔させてやる!」

「ふーん……だったらこうやって証拠隠滅……」


 ――かぷっ


 私はキャンキャン騒ぐ那葉ちゃんの頭を咥えてみた。

「んーんーんーっ!?」

「ぷはっ」

 窒息されても困るのですぐに解放してあげると、彼女は私の唾液がついた顔をおぇぇっ! という声を上げながら袖で拭っている。

「食われるかと思ったわ!」

「えへへ、美味しかったよ那葉ちゃん!」

「うっせ、バカ! 地味子のくせに!」

 そんな那葉ちゃんが満更でもなさそうに見えるのは気のせいだろうか。私はそんな那葉ちゃんがいつになく愛おしく思えて、ハンカチを取り出してそのパーマのかかった頭をわしゃわしゃと拭いてあげた。

「……お風呂、入らなきゃね。……洗ってあげる」

「……うん」

 この後、私は那葉ちゃんをお風呂に連れ込んで、しっかりと身体を洗ってあげた。ついでに私もお風呂に入って……初めて他の女の子と二人きりのお風呂を楽しんだ。


「……ねぇ、那葉ちゃん」

「……なんだよ」

 湯船で那葉ちゃんが溺れないように手で支えながら、私は話しかける。那葉ちゃんも気持ちよさそうに私の手の上でくつろぎながら話を聞いてくれそうな雰囲気になっていた。

「友達に……なってくれない?」

「ウチが? 地味子と? ……まさか!」

「ふーん、じゃあここで那葉ちゃんをお風呂に沈め――」

「ちょ、待て待て! 続きがある! ――その、ウチらはもう、友達……だろ? こうやって裸の付き合いしてるんだから」

「……」

「……彩羽?」

 目の前がボヤけているのはきっと湯気のせいだ。
 友達のいない私にとって、目の前のこの小さな存在は……唯一の……。


「ふっ……」

 突然、那葉ちゃんが笑った。

「どうしたの?」

「いや、ウチがずっとこのまま……小さいままだったとしたら……彩羽のペットでいるのも悪くないかなって思った」

「うーん、それにはいくつか条件があるよ?」

「条件?」

 可愛らしく首を傾げる那葉ちゃんの顔の前に、私は人差し指を立ててみせた。

「ひとつ、私に意地悪をしないこと」

「うん」

「ふたつ、ちゃんと名前で呼んでくれること」

「うん」

「みっつ、もう不良みたいな真似はしないこと」

「うん」

「よっつ……その」

 私は迷った。葛藤した。これを、この願望を口にして良いものか。

「なんだよ言ってみろ」

 結局、那葉ちゃんに促されるままに口にしてしまった。


「キス、していい?」

「うん」

「いいの!?」

「いいって言ってんだろ? それに断っても彩羽は無理やりやるだろうが! 早くすませろ!」

「じ、じゃあ……」

 私は那葉ちゃんの小さな顔に口を近づける。なんかすごくドキドキする。きっと、お湯でのぼせてるんだ。そうだと思う。
 柔らかい唇が、那葉ちゃんの柔らかいほっぺたに触れた時――


 ――バシャンッ!


「うわぁぁぁっ!」

 私の手の上に乗っていた那葉ちゃんが唐突に巨大化した。魔法が解けたのだ!
 結果として、狭い湯船の中に女の子が二人、重なり合うようにしているという危ない体勢になってしまう。……というかこうして見るとやっぱり那葉ちゃんって大きい……どことは言わないけど!

「……やった戻ったぁぁぁぁっ!」

 喜びの声を上げる那葉ちゃん。

 この後、突如現れた那葉ちゃんに私の服を貸して、家に送り返したりした。二人、裸で密着したりしていたけど、特に……残念ながら特にいけないことは発生しなかった。

 ただ、その後那葉ちゃんは私のことを名前で呼んでくれるようになったし、非行はなくなったし、妙に親しくなって……。

 うちの高校にナンバーワンイキリギャルと底辺臆病女の謎カップルが誕生したという噂がしばらく流れていた。


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