二人の太極図

水妖イヨタ

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二章

そしてもう一度

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アンダーグラウンド、地下に存在する地下牢獄。
軽い罪なら地上に存在する牢獄、重く危険な人物はこの地下牢獄に監禁される。
そんな場所になんで水蒸さんと百里が?
そんなことを考えながら僕は近くの屋根に降りた。

「どう思う?水月君」

「怪しい」

「だよね。今入っている警備担当の人間が入り終わったら入ろうと思う。いいか?」

「どうやって入るんだ?入口に警備員が立っているんだぞ?」

「僕は警察の味方のSPHに属している多分入れるさ。入れなかったら強引に入る」

「まあ、そうだな。危険になったら変われ」

「わかった」

僕は計画を行動に移す。

「誰ですか?ここから先は関係者以外立ち入り禁止ですよ」

「僕はSPHに属している人間です」

「じゃあ、証明書の提示をお願いします」

「証明書?」

「はい、証明書をお持ちではないのですか?」

「そんなもの持ってないが?」

「では、入れることは出来ません」

「あ?てめぇどけよ、潰すぞ?」

そう言い僕はその男の胸倉を掴み言う。

「業務妨害罪で逮捕しますよ?」

「うるせぇ、どけよ」

「はぁ、じゃあ逮捕ですね」

その男は僕の腕を掴み、

「はぁ、じゃあ潰れろ」

僕はその腕を折り黙らせる。

「ぐぁぁぁ!何をする!」

「あ?てめぇがどかねぇからだろ?」

その声を聞きつけもう一人の警備員が駆け付けるが、
(スパッ!)
騒ぎにならないように気絶させる。

「最後に質問するぞ?ここで何が起きてる?」

「しら、ねぇよ。お前、覚えてろよ?」

「はいはい、そうかよ。じゃあな」

僕はその男を見下ろしながら足を上げその男の頭を...
(ドスンッ)

僕は階段を降りている。
アンダーグラウンドは何階にも分かれていて下に行けば行くほど極悪人が収容されているようだ。
例えば、地上に一番近い階には人殺しなどの人間。
だが、十階も降りると一人二人など生温いと言いたげな様子の連続殺人鬼の犯人などが収容されている。
ちなみにさっきから警報ブザーが鳴りっぱなしだ。
監視カメラで僕を見つけ、鳴らしているんだろう。

「あぁ、僕はSPHに加入していると思ったんだがな、君らの味方じゃあないんだな」

そう言いながら僕は進んでいく。
昔、噂で聞いたことがあるんだが、アンダーグラウンドは全五十階に分かれているそうだ。
なんだか最近やったゲームを思い出すな。
さっきから向かってくる僕の敵を能力を使ってなぎ倒していく。

「もうちょいマシなやつ連れて来いよ」

これでも手加減している。
この程度かと反吐が出そうになる。
もうすぐだ、もうすぐ迎えに行くぞ、恋月。

そして僕はようやく見つけた。
四十階に存在する拷問部屋で。

「おい、何してる。愛野字」

「あ、来たんだ。見て分からない?能力の抽出だけど?」

「そして、イヤ何してる?」

「利害が一致しただけだよ、そうかっかするなよ」

その場所には僕の通っている学校の男子、女子がいた。
多分、能力者の情報を聞き出しているんだろう。

「生憎、今は戦う気は無い。全員返してもらうぞ?」

「は?そんなことさせるわけないだろ?」

僕は能力を発動した。
その場所、全てを飲み込むほどの影を、

「な!私の能力で!」

「無駄だよ、お前に僕は倒せない」

これでようやくはっきりした。
僕の能力を奪ったのはこの女、愛野字で間違いないと、

「おい!イヤ!お前がやれ!」

「わぁってるよ!すまんが返すわけにはいけないんでな!」

そう言ってイヤは能力を発動したのだろう。
だが、

「無駄だっつってんだろ?俺がいるんだから」

選手交代。
そして...

「じゃあな、」

そう言い残し俺は拷問を受けていた全員を移動させた。

僕はゲームセンターの前で目を覚ました。
あの場所に居た全員移動させたため疲労困憊な状態だった。
そんな僕を百里は支えてくれた。

「大丈夫?水月?」

「あぁ、それよりも妹の恋月は?」

「息はあったけど...ごめんなさい、分からないわ」

「僕にはまだやることがある」

「その状態で何をするつもり?」

「あの組織を解体しないと。じゃないとまた狙われる」

「無茶よ、そんな状態でどうするってのよ?」

「だい、じょう...」


私は倒れる水月を支えた。
私は急いで救急車を呼んだ。
出来るだけ多くの救急車を。
そして私を含め、二十三人の人間が搬送された。
病院では大騒ぎ、一気にこれだけの人間が搬送されたんだから当たり前だけど。
次々に診察を受けていた。
私は拷問の時間が短かったので軽症で済んだ。
だけど、長時間拷問をされた人なんかは骨が何本か折れているらしい。
特に、能力を持っていた人間は能力の抽出なんてことされたせいか長時間眠ったまま目を覚まさない。
水月はあれだけすごいことをしたんだから疲労が出たんだろう、今日で一週間寝込んでいる。
私は貝塚を呼び二人で水月が目を覚ますのを横で待っていた。

「貝塚、水月がこのまま目を覚まさなかったら私たちはどうなるんだろうね」

「そんなこと言うんじゃないって言いたいけど考えちゃうよな」

「今回、私たちを救ってくれたのは水月だもんね」

今回のことはニュースになった。
当然、警察もSPHも叩かれることになった訳だけど、裏で上手く情報操作をしたんだう、そこまで危険視はされなかった。

二週間が経過したが水月はまだ起きない。
警察とSPHは少しずつ裏で行動を始めている。
私は水月の手を強く握りしめながら目覚めるのを願うしかなかった。


「おい、水月、もうそろそろ起きてやってもいいんじゃないか?起きれるんだろ?」

一週間で僕は目覚められる状態にまで回復していた。

「あぁ、でも今回のことで世間では僕が悪者扱いだ。寝ていてもテレビなんかで聞こえてくるよ」

「なんて聞こえた?」

「アンダーグラウンドを襲撃した極悪高校生。犯罪者を脱獄させた凶悪犯罪者。もう、僕の居場所は無いんだよ。それに気づいてるでしょ?」

「何をだ?」

「恋月の状態だよ。あの時間、能力の抽出を行っていたのは恋月だけ。他はみんな抽出は終わっていた。だから次々に目を覚ましている。だけど、」

「恋月が目を覚ますことは無いと。そう言いたいんだろ?」

「あぁ、そうさ。僕のせいなんだ。僕があの場で全ての可能性を考えていれば。僕のせいで眠りについてしまった」

恋月は脳にダメージを負ってしまったため、生きてはいるが目は覚まさない。
もう、お終いだ。
SPHが世界を壊すならいっそもう、
僕はそんなことさえ考えてしまうようになってしまった。

「水月、ここで目を覚まさなかったら恋月はまた捕まって次こそ、だぞ?それでもいいのか?」

「いやだ」

「水月、辛かったら戻ってくればいいよ。ここが君の居場所だよ」

そんな優しい声で背中を押された。

「さぁ、行っておいで」

「あぁ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

そう言い僕は目を覚ました。
真っ白な天井、いつも聞いている声が響いているその場所で。
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