1 / 1
わたしを助けてくれた人の話
しおりを挟む
昔、同じクラスにすごい人がいたんだよ。
わたしとたくさん喋ってくれたすごいひと。わたしを邪険にしなかったすごいひと。ぬいぐるみともたくさん喋ってくれた優しい人。
なんでいじわるされてたのかわからないくらいにいい人だったの。
顔はまんまるでね、ううん。そうじゃないの。まんまるだったんだよ。
とげとげとかつんつんがいっぱいいるあの場所で、あの人だけがまんまるだった。
ふふ、疑ってる?
ほんとにいるんだよ。
____
きみにもぬいぐるみをあげたでしょ?
そう、お薬を入れてるあの子のことだよ。口がぱかぱか開くあの子のこと。本当はね、お外の学校にあれは持っていったらいけないの。
でもそういう筆箱が流行っていたから持ち込めた。
中にお薬を入れるためって理由でね、わたしも似たぬいぐるみを持っていたんだよ。
彼はあのぬいぐるみとおしゃべりしてくれた。
きみみたいに声が聞こえるわけじゃないみたいだけどね、優しい人だった。
一族についても知りたがったなぁ。
君はお父さんの家系の子だったっけね、お父さんと同じ書体だもの。
わたしがお姉さまのご葬儀でおやすみしたときもたくさん心配してくれたかな。どうしたの、病気だったの?って。
あんまりに優しいまんまるだったから、お父さんとお母さんのおうちのこと、一族のこともちょっとおしゃべりしちゃった。
ふふ、だからわたしはここにいるんだよ。教育係のわたしがこんなところにいるせいで幼かったきみにも苦労をかけたよ。
わたしを反面教師にしなさい。一族のことはお外に話してはいけないからね。
うん、わからないよ。
きみみたいによく見える目ではないから、きみのことも文字の塊に見えると言っただろう。
文字の塊がいっぱいいると周りが見えなくなるんだ。
だから集まってるときは散らしたりしたんだけど、それもあの人に甚く感謝されたなぁ。
正義感?
何を言っているの、一族のことはきみもよく知ってるでしょう。
わたしたちに感情はないんだよ。
でも、彼は好ましかったかな。
ほんとうに優しいまんまるだった。傷をつけないようにとても気をつけたくらいに。
あれほどのまんまるは他に見たことがないよ。
だからあのまんまるが気になって気になって仕方なくて、いっぱいおしゃべりしたんだ。
とげとげがまんまるに近づいたときは怒ったりもしたな。
すごいでしょ、彼と一緒にいたときのわたしは一族じゃなかったんだ、きっと。
そうだね、好きとも言われた。
まんまるが「好きだよ、一緒にいたい」って言ってくれたんだ。
胸の奥がムズムズしたよ。表情が仕事を勝手にするんだ。
ぬいぐるみなしでもきちんとわたしがわたしであれた瞬間でもあった。
でもね、わたしはやっぱり一族だったんだ。お断りしたよ。
でも最後にまんまるって呼んじゃったんだ。ずっと彼の家の名を呼んでいたのにね。
つんつんが傷つけるなら、まんまるはやっぱり好きになるってことだったんだと思うんだ。
彼はいまも元気だろうか。
会いたい?そういうことではないよ。
彼にわたしはどんな風に映っていたんだろうね。
わたしは好ましい人だったろうか。
ぬいぐるみを持たないんだよ、一族以外は。知っているでしょう?
だから変に映っていただろうけど、きっとまんまるだから好きでいてくれたんだね。
ただ最後の最後にわたしがかれの顔も姿も見えていないことに気づかれてしまった。
どうしようかなって思ったんだけど、それ以降はもう会っていないから。
ああそうだね、わたしは高校に入った少しあと持病で死んだことになったから。
一族の女が外に出ることはないんだよ。きみは……ああ、きみは男だったね。
わたしもいずれこの力を使うためにどこかにいくんだろうけど、きみはわたしが一番長く面倒を見た子だから、きっと最後までこうやってお話しできるんだろうね。
きみのお話も聞かせてよ。
今日はぬいぐるみ以外ともたくさんおしゃべりしていい日なんだ。
うん、だって今日はわたしの誕生日だもの。
わたしが死んで生まれ変わった日だよ。
わたしとたくさん喋ってくれたすごいひと。わたしを邪険にしなかったすごいひと。ぬいぐるみともたくさん喋ってくれた優しい人。
なんでいじわるされてたのかわからないくらいにいい人だったの。
顔はまんまるでね、ううん。そうじゃないの。まんまるだったんだよ。
とげとげとかつんつんがいっぱいいるあの場所で、あの人だけがまんまるだった。
ふふ、疑ってる?
ほんとにいるんだよ。
____
きみにもぬいぐるみをあげたでしょ?
そう、お薬を入れてるあの子のことだよ。口がぱかぱか開くあの子のこと。本当はね、お外の学校にあれは持っていったらいけないの。
でもそういう筆箱が流行っていたから持ち込めた。
中にお薬を入れるためって理由でね、わたしも似たぬいぐるみを持っていたんだよ。
彼はあのぬいぐるみとおしゃべりしてくれた。
きみみたいに声が聞こえるわけじゃないみたいだけどね、優しい人だった。
一族についても知りたがったなぁ。
君はお父さんの家系の子だったっけね、お父さんと同じ書体だもの。
わたしがお姉さまのご葬儀でおやすみしたときもたくさん心配してくれたかな。どうしたの、病気だったの?って。
あんまりに優しいまんまるだったから、お父さんとお母さんのおうちのこと、一族のこともちょっとおしゃべりしちゃった。
ふふ、だからわたしはここにいるんだよ。教育係のわたしがこんなところにいるせいで幼かったきみにも苦労をかけたよ。
わたしを反面教師にしなさい。一族のことはお外に話してはいけないからね。
うん、わからないよ。
きみみたいによく見える目ではないから、きみのことも文字の塊に見えると言っただろう。
文字の塊がいっぱいいると周りが見えなくなるんだ。
だから集まってるときは散らしたりしたんだけど、それもあの人に甚く感謝されたなぁ。
正義感?
何を言っているの、一族のことはきみもよく知ってるでしょう。
わたしたちに感情はないんだよ。
でも、彼は好ましかったかな。
ほんとうに優しいまんまるだった。傷をつけないようにとても気をつけたくらいに。
あれほどのまんまるは他に見たことがないよ。
だからあのまんまるが気になって気になって仕方なくて、いっぱいおしゃべりしたんだ。
とげとげがまんまるに近づいたときは怒ったりもしたな。
すごいでしょ、彼と一緒にいたときのわたしは一族じゃなかったんだ、きっと。
そうだね、好きとも言われた。
まんまるが「好きだよ、一緒にいたい」って言ってくれたんだ。
胸の奥がムズムズしたよ。表情が仕事を勝手にするんだ。
ぬいぐるみなしでもきちんとわたしがわたしであれた瞬間でもあった。
でもね、わたしはやっぱり一族だったんだ。お断りしたよ。
でも最後にまんまるって呼んじゃったんだ。ずっと彼の家の名を呼んでいたのにね。
つんつんが傷つけるなら、まんまるはやっぱり好きになるってことだったんだと思うんだ。
彼はいまも元気だろうか。
会いたい?そういうことではないよ。
彼にわたしはどんな風に映っていたんだろうね。
わたしは好ましい人だったろうか。
ぬいぐるみを持たないんだよ、一族以外は。知っているでしょう?
だから変に映っていただろうけど、きっとまんまるだから好きでいてくれたんだね。
ただ最後の最後にわたしがかれの顔も姿も見えていないことに気づかれてしまった。
どうしようかなって思ったんだけど、それ以降はもう会っていないから。
ああそうだね、わたしは高校に入った少しあと持病で死んだことになったから。
一族の女が外に出ることはないんだよ。きみは……ああ、きみは男だったね。
わたしもいずれこの力を使うためにどこかにいくんだろうけど、きみはわたしが一番長く面倒を見た子だから、きっと最後までこうやってお話しできるんだろうね。
きみのお話も聞かせてよ。
今日はぬいぐるみ以外ともたくさんおしゃべりしていい日なんだ。
うん、だって今日はわたしの誕生日だもの。
わたしが死んで生まれ変わった日だよ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】その約束は果たされる事はなく
かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。
森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。
私は貴方を愛してしまいました。
貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって…
貴方を諦めることは出来そうもありません。
…さようなら…
-------
※ハッピーエンドではありません
※3話完結となります
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
それが全てです 〜口は災の元〜
一 千之助
恋愛
主人公のモールドレにはヘンドリクセンという美貌の婚約者がいた。
男女の機微に疎く、誰かれ構わず優しくしてしまう彼に懸想する女性は数しれず。そしてその反動で、モールドレは敵対視する女性らから陰湿なイジメを受けていた。
ヘンドリクセンに相談するも虚しく、彼はモールドレの誤解だと軽く受け流し、彼女の言葉を取り合ってくれない。
……もう、お前みたいな婚約者、要らんわぁぁーっ!
ブチ切れしたモールドと大慌てするヘンドリクセンが別れ、その後、反省するお話。
☆自業自得はありますが、ざまあは皆無です。
☆計算出来ない男と、計算高い女の後日談つき。
☆最終的に茶番です。ちょいとツンデレ風味あります。
上記をふまえた上で、良いよと言う方は御笑覧ください♪
私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました
あねもね
恋愛
妹は私と違って美貌の持ち主で、親の愛情をふんだんに受けて育った結果、傲慢になりました。
自分には手に入らないものは何もないくせに、私のものを欲しがり、果てには私の婚約者まで奪いました。
その時分かりました。婚約破棄されるのだと……。
騎士の元に届いた最愛の貴族令嬢からの最後の手紙
刻芦葉
恋愛
ミュルンハルト王国騎士団長であるアルヴィスには忘れられない女性がいる。
それはまだ若い頃に付き合っていた貴族令嬢のことだ。
政略結婚で隣国へと嫁いでしまった彼女のことを忘れられなくて今も独り身でいる。
そんな中で彼女から最後に送られた手紙を読み返した。
その手紙の意味をアルヴィスは今も知らない。
婚約した幼馴染の彼と妹がベッドで寝てた。婚約破棄は嫌だと泣き叫んで復縁をしつこく迫る。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のオリビアは幼馴染と婚約して限りない喜びに満ちていました。相手はアルフィ皇太子殿下です。二人は心から幸福を感じている。
しかし、オリビアが聖女に選ばれてから会える時間が減っていく。それに対してアルフィは不満でした。オリビアも彼といる時間を大切にしたいと言う思いでしたが、心にすれ違いを生じてしまう。
そんな時、オリビアは過密スケジュールで約束していたデートを直前で取り消してしまい、アルフィと喧嘩になる。気を取り直して再びアルフィに謝りに行きますが……
3年も帰ってこなかったのに今更「愛してる」なんて言われても
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢ハンナには婚約者がいる。
その婚約者レーノルドは伯爵令息で、身分も家柄も釣り合っている。
ところがレーノルドは旅が趣味で、もう3年も会えていない。手紙すらない。
そんな男が急に帰ってきて「さあ結婚しよう」と言った。
ハンナは気付いた。
もう気持ちが冷めている。
結婚してもずっと待ちぼうけの妻でいろと?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる