1 / 15
はじまりで、おわりの村
伝在する世界より1
しおりを挟む
自然に囲まれ、点々と小さな家と大きな畑や田園が並ぶ牧歌的な村。そこに雷鳴が轟いたと思わんばかりの衝撃が走る。
「おばあちゃん!おばあちゃーん!」
声変わり前、純粋な時代を生きる子供特有の高い声がその正体だった。
短く切り揃えられた黒髪が風で揺られ、透き通った黒い瞳には涙を浮かべていた男の子——彼の名前は荒神キヨシ。
祖母や周囲の人達には愛称で『キョンちゃん』と呼ばれている。
「おや、キョンちゃんどうしたんだい?」
泣きながら走ってくるキヨシを受け止めたのは一人の女性であった。
キヨシと同じく黒髪黒目の女性。
白いローブで全身を覆っているため分かりにくいが、祖母というほどの年齢を微塵も感じさせないほどに力強さを感じる。
「おばあちゃん聞いてよ!」
「はいはい、どうしたんだい?」
「町に詩人が来てるって言うから聞きに行ったんだ。そしたらとんでもない嘘話をしてたんだ!」
「嘘話かい?」
身振り手振りで自身の怒りの度合いを伝えようとするキヨシ。
そして、キヨシを温かい目で見守りながら話を聞く『おばあちゃん』と呼ばれる女性。よく見る祖母と孫の一幕である。
「おばあちゃんがいつも話してくれる英雄のお話とは全然違うんだ!あんなのはこの世界の英雄を馬鹿にしてるんだ!」
「うーん、ティアばあちゃんには分からないんだけど、その詩人さんはどんな話をしてくれたんだい?」
「いいよ!おばあちゃんも聞いてよ!」
そう言ってキヨシは『ティアばあちゃん』の手を引っ張り牧歌的な村のすぐ近くにある大きな町へと出向いていった。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
村から降りると景色は一変していた。
大小様々な石で緻密に積まれた壁は町をグルリと囲み侵入者を阻んでおり、東西南北に一つづつある大きな門は侵入者以外を歓迎し迎え入れてくれる。そして、門の前には門兵はいない。代わりに、役所の人と警備員のような人がいるぐらいだ。
一昔前の戦乱の時代ではこの大きな壁も、門に立ちはだかる兵士も見られただろうが今の平穏な時代となってはその姿はなく、刻まれた傷だけが物語っている。
「おばあちゃん早く!こっちだよ!」
「はいはい、すぐ行くよ」
キヨシは我先にと門前の役員に身分証を見せ街の中に入っていく。ティアばあちゃんも続くようにして町へ入る。
町の中は村とはかなり様相が違う。
立ち並ぶ家々は綺麗に整列し塗装されている。賑わう商店街では出店も多く活気に満ちた声が端から端まで聞こえてくるようだ。
そして、キヨシが言っていた吟遊詩人は町の中心にある噴水広場のところで今は休憩していた。
「お、さっきの少年じゃないか。また文句を言いに来たのかい?」
「ま、またってなんだよ!まださっきの話は終わってないんだからな!」
「はいはい。この前も同じ話をしたのに懲りないね~⋯⋯って、そちらの方は君の⋯⋯お母さんかい?」
「おばあちゃんだよ!見て分からないのか!」
お世辞なのか本音なのか分からないが詩人は呆けた後に戯けたように笑った。
「これは失礼!君のおばあちゃんはとても若くて美しいんだね。あんまり美しい者だから君のお母さんだと思ってしまったよ!」
「ふ、ふん!おばあちゃんを褒められるのは悪い気がしないけど、さっきの話は忘れてないぞ!」
「まさか、さっきの話に出てきた本当の話を知っているのって君のおばあちゃんかい?」
「そうだ!」
「あの⋯⋯先ほどからおっしゃってる『さっきの話』と言うのはなんのことでしょうか?」
話の内容についていけないティアばあちゃんは思い切って詩人に話しかけた。
詩人は怒った様子もなく、むしろ好奇心に彩られた少年のような顔つきで説明を始めた。
「実は、私の話すこの国の御伽噺を少年は嘘だと言うのです。そこで、何が嘘なのかい?と言ったら全部と答えたものでして」
「そうですか」
「少年から前に話を聞いた時は埒が開かなかったので、今回は本当の話を知っている人を連れてきてくれないか?と頼んだのですよ」
「それでキヨシは私を連れてきたのですね」
「そう言うことだと思います」
うーん、とティアばあちゃんは手を顔に添えながら唸っている。その仕草はおばあちゃんと言うには若々しいものだ。
「そうですか。では詩人さんのお伽話を聞かせてもらってもいいですか?」
「私のですか?もちろんいいですよ。ぜひ聞いてください!」
そう言って詩人は横に置いてあったハーブを弾きながら一つの御伽噺を語り始めた。
「おばあちゃん!おばあちゃーん!」
声変わり前、純粋な時代を生きる子供特有の高い声がその正体だった。
短く切り揃えられた黒髪が風で揺られ、透き通った黒い瞳には涙を浮かべていた男の子——彼の名前は荒神キヨシ。
祖母や周囲の人達には愛称で『キョンちゃん』と呼ばれている。
「おや、キョンちゃんどうしたんだい?」
泣きながら走ってくるキヨシを受け止めたのは一人の女性であった。
キヨシと同じく黒髪黒目の女性。
白いローブで全身を覆っているため分かりにくいが、祖母というほどの年齢を微塵も感じさせないほどに力強さを感じる。
「おばあちゃん聞いてよ!」
「はいはい、どうしたんだい?」
「町に詩人が来てるって言うから聞きに行ったんだ。そしたらとんでもない嘘話をしてたんだ!」
「嘘話かい?」
身振り手振りで自身の怒りの度合いを伝えようとするキヨシ。
そして、キヨシを温かい目で見守りながら話を聞く『おばあちゃん』と呼ばれる女性。よく見る祖母と孫の一幕である。
「おばあちゃんがいつも話してくれる英雄のお話とは全然違うんだ!あんなのはこの世界の英雄を馬鹿にしてるんだ!」
「うーん、ティアばあちゃんには分からないんだけど、その詩人さんはどんな話をしてくれたんだい?」
「いいよ!おばあちゃんも聞いてよ!」
そう言ってキヨシは『ティアばあちゃん』の手を引っ張り牧歌的な村のすぐ近くにある大きな町へと出向いていった。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
村から降りると景色は一変していた。
大小様々な石で緻密に積まれた壁は町をグルリと囲み侵入者を阻んでおり、東西南北に一つづつある大きな門は侵入者以外を歓迎し迎え入れてくれる。そして、門の前には門兵はいない。代わりに、役所の人と警備員のような人がいるぐらいだ。
一昔前の戦乱の時代ではこの大きな壁も、門に立ちはだかる兵士も見られただろうが今の平穏な時代となってはその姿はなく、刻まれた傷だけが物語っている。
「おばあちゃん早く!こっちだよ!」
「はいはい、すぐ行くよ」
キヨシは我先にと門前の役員に身分証を見せ街の中に入っていく。ティアばあちゃんも続くようにして町へ入る。
町の中は村とはかなり様相が違う。
立ち並ぶ家々は綺麗に整列し塗装されている。賑わう商店街では出店も多く活気に満ちた声が端から端まで聞こえてくるようだ。
そして、キヨシが言っていた吟遊詩人は町の中心にある噴水広場のところで今は休憩していた。
「お、さっきの少年じゃないか。また文句を言いに来たのかい?」
「ま、またってなんだよ!まださっきの話は終わってないんだからな!」
「はいはい。この前も同じ話をしたのに懲りないね~⋯⋯って、そちらの方は君の⋯⋯お母さんかい?」
「おばあちゃんだよ!見て分からないのか!」
お世辞なのか本音なのか分からないが詩人は呆けた後に戯けたように笑った。
「これは失礼!君のおばあちゃんはとても若くて美しいんだね。あんまり美しい者だから君のお母さんだと思ってしまったよ!」
「ふ、ふん!おばあちゃんを褒められるのは悪い気がしないけど、さっきの話は忘れてないぞ!」
「まさか、さっきの話に出てきた本当の話を知っているのって君のおばあちゃんかい?」
「そうだ!」
「あの⋯⋯先ほどからおっしゃってる『さっきの話』と言うのはなんのことでしょうか?」
話の内容についていけないティアばあちゃんは思い切って詩人に話しかけた。
詩人は怒った様子もなく、むしろ好奇心に彩られた少年のような顔つきで説明を始めた。
「実は、私の話すこの国の御伽噺を少年は嘘だと言うのです。そこで、何が嘘なのかい?と言ったら全部と答えたものでして」
「そうですか」
「少年から前に話を聞いた時は埒が開かなかったので、今回は本当の話を知っている人を連れてきてくれないか?と頼んだのですよ」
「それでキヨシは私を連れてきたのですね」
「そう言うことだと思います」
うーん、とティアばあちゃんは手を顔に添えながら唸っている。その仕草はおばあちゃんと言うには若々しいものだ。
「そうですか。では詩人さんのお伽話を聞かせてもらってもいいですか?」
「私のですか?もちろんいいですよ。ぜひ聞いてください!」
そう言って詩人は横に置いてあったハーブを弾きながら一つの御伽噺を語り始めた。
0
あなたにおすすめの小説
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる