編在する世界より

静電気妖怪

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神国『勇者誕生祭』

片鱗

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「それで、私たちはどこへ向かっているんですか?」
「天国に一番近い、と言われている国——神国だ」
「しん、こく⋯⋯ですか?」

 記憶を失くしたハクが不思議そうに聞き返すと、ギルディアは溜息を吐きながら「そんなことも知らないのか⋯⋯」と言いながらも説明を付け加え始めた。

「この世界は⋯⋯この国は大きく3つの勢力に分かれている。統一支配を考える覇王国、自由を掲げ覇王国に反対する神国、そしてどちらの国にも加担しない中立国だ」

 世界の情勢までもどこかに置き去りにしてきたハクとしては全体像を説明してくれるのはとても理解しやすかった。
 追いついてきているハクを一瞥したギルディアは更に続けた。

「以前までは覇王国と神国の戦力は拮抗していた。あまりに長く続くものだから和平条約を結び、終戦しようとまで両国が考えていた」
「以前まで⋯⋯?」
「ああ。以前まで、だ。終戦まで漕ぎ着けなかった理由は二つ。一つは覇王が代替わりしたこと。これによって方針が変わったようだ」
「なぜ、終戦を目指していたのに覇王⋯⋯さん?は代替わりしたんですか?」
「さぁな。覇王自身の死期が近かったのか、或いは⋯⋯覇王国内でよっぽど支配欲が強い奴が絡んだか、だな」

 知らないフリをし、憶測で言っている様子を見せるギルディア。しかし、その表情は険しく、まるでその犯人が誰かを知っているかのようだ。

「そうなんですね。じゃあ、二つ目の理由って何だったんですか?」
「二つ目の理由は、勇者が呪われた、という噂だ」
「のろ、われた⋯⋯噂?」
「ああ、あくまで噂だ。しかし、事実としてあるのは、ある日を境に勇者を見なくなった、ということだ」
「見なくなったからって、大袈裟すぎじゃないですか?」
「日常生活のことを言ってるわけじゃない。戦場で、だ。神国の戦線を保っていたのはひとえに勇者の活躍があった。だから、勇者を欠いた神国は戦線を保てずに年々後退する一方となった」
「そ、そんな!どうして?!」

 拮抗していた戦線が何年も続けば少なからず開拓が進む。その拮抗が崩れたのなら開拓した場所に住んでいた者は当然、他にも近い場所では支配や略奪が起きる。その光景を想像したハクは叫ばずにはいられなかった。

「うるさい、大声を出すな⋯⋯だが、民衆の反応はお前と同じだ。勇者はどこだ、勇者を出せ、とな。神国の中枢も別に支配されたいわけではない。むしろ、出せるなら出して戦線を維持したいはずだ。だがそれができないとなると——」
「勇者が呪われた⋯⋯という噂ですか」
「そういうことだ。勇者を出したくても出せない理由がそこにある」

 世界の通り一辺倒は理解できた。しかし、ギルディアの説明を聞いていて理解できない場所が一つあった。気になったハクは「⋯⋯あのぉ」と言いながら手を挙げた。

「なんだ?」
「神国は新たな勇者を作ることはしなかったのですか?」

 これがハクの気になったことだ。
 勇者というのが一騎当千の強者であることは理解できたが、勇者の次くらいに強い人物を勇者にすることだってできるはずだ。しかし、神国はそれをしなかった。

「勇者は作るのではなく、選ばれるのだ」
「選ばれる⋯⋯?どういうことですか?」
「勇者になるための条件は一つ——神器に選ばれることだ」
「神器⋯⋯?もしかして、ギルディアさんの腰にある刀も神器ですか?」

 初対面で名前を聞いた時に堂々と神と公言した時を思い出す。
 万物にその善悪を言い渡す——【裁神】ギルディア。その名こそが彼の原動力であり、存在全てを表す。

 そして、ギルディアの腰に据えてある不気味な刀。鍔と鞘が呪縛のように紐で固定されており、その上に擦り切れた布が巻かれている。一見すれば抜けない刀であるがその威圧感は抜き身の刀以上を感じさせる。

「そうだ。この刀同様に神器は適正が求められる。その適正は因果か、相性か、好みかはそれぞれの神器による」
「それじゃあ、神器に選ばれる⋯⋯人?が現れない限り次の勇者は生まれないってことですか?」
「そうなるな」
「そ、それじゃあ⋯⋯!」

 勇者が誕生しない限り神国に勝ち目はなく、ゆっくりだが確実に破滅への影が裾野を広げていることになる。
 中立国ではなく、全面的に反旗を翻している神国は負ければどうなるかは如何に記憶を失くしたハクにも想像するのは容易かった。

「まぁ、どちらが勝とうがそれは人間の歴史に過ぎない。神である俺には関係な——」

 人間同士の対立は見飽きた、と言わんばかりのギルディアだったが最後まで言い切ることなく、その足を止めた。

「いたっ!?どうしたんですか?」
「⋯⋯」

 急に止まったギルディアの背中に突っ込んだハクはその反動で地面に柔らかなお尻をぶつけた。
 苦言を呈するも、ギルディアの視線は一点を——畑を耕す農夫に注げられ、固まっていた。

「あの農夫さんがどうかしたんですか?」

 ハクもギルディアを釘付けにしている農夫を見た。
 頭から布をかぶっているため顔はわからないが、動きやすそうな格好で畑を耕している。
 先端が三つに分かれた鍬を振りかぶり、カシュッ、と音を立てながら地面を掘り上げる。そして、一歩下がる。また同じように鍬を振りかぶり、地面に振り下ろし、一歩下がる。
 一定の速度で、一定の間隔で、規則正しく、崩すことなく畑は耕される。

「⋯⋯いや、いい。なんでもない」

 ぶっきらぼうにハクの疑問を切り捨てるとギルディアは足早に踵を返した。
 その急な態度の変化を不思議に思いながらも置いていかれそうな勢いだったので急いで立ちがろうとした。
 その時——

「あ、ちょっ!まっ——」

 ——寒気がした。
 一瞬、たった一瞬のことだった。

「——ッ?!」

 振り返った先には農夫が一人畑を耕している。それ以外は誰もないし、何もいない。しかし、ハクにはそれが正しくも間違いに見えた。

 いないのは気づいていないだけ。
 見えないのはフリをしてるだけ。
 わからないのは理解しないだけ。

 直接語りかけられているような囁き。
 あまりに気持ち悪さに、ハクは頭を振り追い出そうとする。

「⋯⋯何をしている。はやく行くぞ」
「え⋯⋯あ、はい⋯⋯」

 たった一瞬だったが、その一瞬で十分すぎるほどに感じた不気味な感覚。二度と味わいたくないと思いながらハクは逃げるようにギルディアの後を追った。
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