編在する世界より

静電気妖怪

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はじまりで、おわりの村

見在する世界より7

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「はぁはぁ⋯⋯やっと、ついた⋯⋯」

 ミコと別れ、トレーニングとして遠回りで神社に戻ってきたキヨシ。木々の隙間から漏れてくる夕日が赤く、眩しく感じていた。
 汗を拭いながら棒になっている足をなんとか動かし階段を登り切ると見知った人物が迎えてくれた。

「キヨシ君おかえり~。もう少し頑張りな~!」

 セム兄ちゃんが鳥居の柱に寄りかかりながら手を振っていた。
 キヨシも残り少ない力を振り絞り、なんとかセム兄ちゃんの元まで辿り着く。そして、キヨシが地面に身を投げ出すと、セム兄ちゃんはどこから取り出したのかタオルと水の入った瓶を差し出してくれた。

「はい、どうぞ」
「あ、ありが、とぉ⋯⋯セム兄ちゃん」

 ゴクゴク、と勢いよく飲み干すキヨシ。全て飲み切ると、「プハーっ」と仕事終わりの解放感を感じさせるように口元を拭く。
 キヨシの満足気な表情を喜ばしく思いながら、落ちていく夕日を背中にセム兄ちゃんが聞いてきた。

「どこまで走ってきたの?」
「村の外周だよ。あ、途中でミコさんとシンラさんに会ったよ。なんか神社に用があったみたいだけど」

 トレーニングの途中で会った出来事を思い出しながらキヨシは楽しそうに話す。しかし、聞いているセム兄ちゃんからは少し違う答えが返ってきた。

「ああ、さっき来たよ。相変わらずミコさんは私には冷たかったな~。ずっとシンラさんの後ろに隠れて、目も合わせてくれなかったよ」
「ミコさんはいつも目を閉じてるから合わないんじゃない?」
「はははっ!確かにそうだね!」

 夕陽の影でどんな表情をしているか見えないキヨシ。慰めるように言ってみると、セム兄ちゃんから吹き飛ばすような笑いが飛び出た。
 影になって表情の見えないセム兄ちゃんだが、落ち込んでいる様子はなさそうだとキヨシは感じた。そして、次に考えたのは夕飯だった。

「まだティアばあちゃんはいる?もう帰っちゃった?」
「まだいるよ。本堂の中でミコさんと話してると思う。私は爪弾きにされちゃったんだ」
「なんか⋯⋯みんな、セム兄ちゃんの扱い雑だよね」

 時折感じる疎外感。
 キヨシは自分の物心がつく前は、みんながどんな関係を結んでいたかは知らない。聞いたら教えてくれるのかも知れながい、あまり聞く気にもなれなかった。
 そんなキヨシの内心を知ってか知らずか、セム兄ちゃんは明るかった。

「まあ、こうしてキヨシ君と話せているから私はいいんだけどね~。やっぱり物語の主人公と話している方がスポットが当たって楽しいんだよ」
「すぽっと⋯⋯?は何かわからないけど、僕はおとぎ話に出てくる勇者様や英雄みたいな活躍はしてないよ?」
「大丈夫!キヨシ君は間違いなくおとぎ話に出てくる勇者や英雄になれるよ!私の名に賭けてもいいよ!」

 堂々と宣言するセム兄ちゃん。
 カムイからは「似非神官じゃ!」とか「詐欺師め!」と、言われている姿を見ると微妙に信じ難い。しかし、沈みかけている夕日で影帽子のように身振り手振りするセム兄ちゃんは自信に満ち溢れているように見える。

「セム兄ちゃんの名に賭けてもって⋯⋯でも、どうやったらなれるんだろう?ずっと修行だけしててもなれるのかな?」
「いいところに気づいたねキヨシ君。物語の勇者や英雄に必要なものはなんだと思うかい?」
「うーん、なんだろう⋯⋯仲間とか?」

 突然の質問に困惑しながらも答えるキヨシ。
 セム兄ちゃんは「あ~、惜しいっ!」と言いながら指を鳴らした。そして、悪魔のような笑みを浮かべながら続けた。

「答えは——敵だ」
「⋯⋯敵?」
「うん、そうだよ。強大な敵、圧倒的な悪、それらがなければ勇者も英雄もただの暴力でしかない」
「うーん、でも悪い人なんていないよ?ティアばあちゃんも、カムイじいちゃんもミコさんもシンラさんも、セム兄ちゃんもみんないい人だよ?」
「うん⋯⋯まぁ、この村の人はちょっと特殊だから。でも大丈夫!キヨシ君の敵は私が用意してあげる。だから——」

 セム兄ちゃんはそう言いながら、キヨシの背中を押した。

「——だから、安心して逝ってきな」

 押されたキヨシは反動で一歩踏み出すが、そこには本来あるはずの地面はなく——、

「——え?」

 キヨシは宙に放り出された。
 まるで神社から拒絶されたかのように、摩訶不思議な出来事に、本来の法則から捻じ曲がった現象に、キヨシは咄嗟の判断をすることなどできるはずもなかった。
 必死に手を伸ばそうとするが、受け取る相手はなにも返さない。ただ、見ているだけだ。

「平和な日常回なんて何回繰り返しても伝説は作れないんだよ」

 舞うように落ちていくキヨシに向かって話しているのか、はたまた知らない誰かに語りかけているかのようにも見える。

「それに、これを読んでいる読者もそろそろ飽きた頃合いだろう?」

 文句を垂れる子供を諭すように、ゆっくりとセム兄ちゃんは呟く。

「いい加減、物語を進めないとつまらないだろう?」

 口元を袖で隠し、退屈そうな表情で虚空コチラを見つめる。

「大丈夫、もう始まるよ——『神』喰らいの時間が」

 もうすでに夕日は姿を消していた。
 そして暗くなる世界の中で、ぐしゃり、と『何か』が潰れる音が響いた。とても大切で、かけがえの無い『何か』が崩れていく音が。

 こうして、こうしてキヨシの人生は終わりを告げ——
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