ダンジョンマスターは魔王ではありません!!

静電気妖怪

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一章〜盤外から見下ろす者、盤上から見上げる者〜

14話「レベル差」

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『大尉⋯⋯C班からの定期連絡が途絶えました』

 新しくできた陸地、通称【ダンジョン】に建てられた仮施設の一角には九人の屈強な男達が腰を下ろし話し合っていた。

 この男達、一人は大尉であり他の者達は各班の隊長は、ここは言わば一%でも各々の隊員の生存率を上げる重要な場所だ。
 そして、その話し合いの途中で隕石の様な威力で投じられた一石は厳かな雰囲気であった室内を一瞬にして動揺させた。

『定期連絡が途絶えたか⋯⋯それはつまり⋯⋯』

『⋯⋯死んだってことでしょうね』

『大尉、D班はどうする? 行かせるか?』

『行かせねえでしょう。ここで行かせたら無駄死に以外の何者でもねえ』

『まあ、行きたくないという気持ちも分からんではないがな⋯⋯』

『な!? それではまるで俺が臆病者と言っている様に聞こえるぞ!』

『いやいや、恥じることはねえよ。ここはマジで⋯⋯死地みてえな場所だよ』

 瞑目し考える大尉を他所に男達は各々の意見をぶつけた。
 所詮、他所が適当なことを言っても最終的に決めるのは大尉だ。故に、この意見はただの野次でしかない——そして、宣告内容が決まった。

『⋯⋯D班の突入は無しだ。まずは先に情報の整理から始める』

 大尉の決断は慎重であった。
 どこかで聞こえた安堵の吐息は誰もが聞かなかかったことにしていた。それはある意味では当然であり、良き配慮だっただろう。

『まず、A班からの報告は【ダンジョン】内では通話が可能、外部との連絡は不可、内部には大きな屋敷、この三点だ』

『後、研究者共の『侵入者仮説』もですぜ』

『そうだな。この報告を聞く限りではその説はかなり有力だろう。次にB班からの報告は⋯⋯白い化け物だったか』

『そいつぁ魔物って言うことでしょうか?』

『恐らくな。今までに確認されていない種類だが間違いなく魔物の一種だろう。銃で倒すこともできたと言っていたが問題は⋯⋯見えないことだな』

 この情報はB班の壊滅と引き換えに得られたものだった。
【ダンジョン】内に現れる新種の魔物は見えないが銃で倒すことができる。これはある種の希望だった。

 だが、視覚とは人間が外部から情報を得る割合の実に八割を占めると言われている。その重要な情報経路を失った前提で戦いを強要されることに室内は静寂に包まれる。

 各々が考えているのだ。
 聴覚か、嗅覚か、経験か、それらで補えればまだ何とかなるが、音は一切なく、臭いもしない。そして、こんな経験は殆ど無い。まさに、八方塞がりであった。

『⋯⋯各々考えただろう。ここで採決をとる』

 暫くの沈黙を経て大尉が重い口を開いた。

『この任務⋯⋯【ダンジョン】の攻略をまだ続けたい奴はいるか?』

『『『『⋯⋯』』』』

 大尉の問いかけに答えるものはいなかった。皆が視線を下に向け、無言で回答していた。

『そうか⋯⋯では、現時点において任務を完遂とみなし、次の任務に入る』

『『『『な!?』』』』

 大尉の言葉に男達の驚きの声が上がる。任務の放棄ではなく、完遂と見なしたのだ。これほど中途半端な状況であるにも関わらずだ。
 更に、男達はこの任務以外を知らない。別途で告知されているのかもしれないと思い周囲を見渡すが全員が驚きの顔をしているのだ。

『た、大尉! それはどういうことですか!?』

『そうだ! こんなことで完遂になるのですか!?』

『それに新しい任務って⋯⋯もうこれ以上は【ダンジョン】の攻略は不可能です!』

 男達が抗議の声を上げる。それも当然だろう。先ほどの採決で結果が出たのにも関わらず次の任務だと言うのだから。しかし、ここで男達は大きな間違いをしていた。

『静かにしろ!』

 大尉の気迫の入った声⋯⋯もはや咆哮に近いそれが不自然に男達の声と動きを止めた。
 一瞬にして静寂に包まれる室内に、大尉がゆっくりと言葉を続けた。

『まず、お前達は勘違いしているようだから言っておくが、今回の任務はあくまでも【ダンジョン】の情報を得ることであって情報がこれ以上得られないと判断した今、ここで任務は完了する』

 大尉の言葉遊びのような文言に声がうまく出せないのか男達は代わりに首を僅かに縦に振り渋々とした了承を示した。

『うむ、次に任務だが⋯⋯入れ』

 大尉の言葉に入り口から五人の男女が現れた。誰も彼もが一般人。ただし、腰には小型機関銃やバックポーチ、体には防刃用ベストを着けている軽武装をした一般人だ。

『この者達は言わば⋯⋯冒険者だ』

『『『『ッ!』』』』

 冒険者、その言葉を聞き男達に動揺が走る。
 米国では冒険者と軍はある種の対立をしていた。と言うのも、冒険者が厳しい訓練も無しに軍のような巨大な組織になっていたからだ。

 結果、そこには深い溝が出来上がり冒険者は対魔物、軍は対人と言うように分かれてしまったのだ。当然、軍も魔物を殺す部隊は存在しているがそれよりも統率された動きのできる軍は救命救助が優先されていた。

 そのため、そこには見えない差が大きく開いていたのだ。

『次の任務の内容だが⋯⋯この者達のサポートだ』

『な、なん⋯⋯だと⋯⋯!?』

 あまりの衝撃で別の力で抑制され閉じられていた声をどうにか振り絞って出せる者がいた。
 そして、その男を感心するように大尉は目を向けた。

『ほぉ⋯⋯やっぱり不服か?』

『と、当然です! どうしてそんな⋯⋯奴等にッ!』

『ふむ⋯⋯一応聞いておくが、君のステータスのレベル幾つだ?』

『⋯⋯え?』

 突然の質問に呆気にとられる。しかし、上官からの質問。すぐに我に返り思い出すように答えた。

『⋯⋯5、だったと思います』

『そうか⋯⋯では君、もし君とこの者達のうちの一人で戦ったらどうなると思う?』

『な!?』

 質問された男は憤慨した。顔を真っ赤にし目を大きく開かせた。
 それも当然だろう。多くの死線を乗り越え、厳しい訓練をしてきた軍人が高々一般市民⋯⋯五人全員でかかってくるならいざ知れず、一人で比べてきたのだ。

 流石にプライドを傷つけられた男は罰を覚悟で大尉の胸倉を掴もうとするが——、

『まあまあ、待ってくださいよ』

『——ッ!?』

 その腕を掴まれたのだ。冒険者と呼ばれた青年に。振り払おうとするがピクリとも動かない。

『⋯⋯先ほどの答えだが、もし君がこの者と戦った場合⋯⋯君が七人いてようやく相手どれるのが理論値だ』

 万力に占められたように圧迫され、動かない腕。自然体であるにも関わらず好きを見逃さない眼光。
 ここまで来てようやく男は自分と目の前にいる冒険者の青年との間にある実力の差を感じた。

『⋯⋯一応言っておくが、君達や死んで逝った者達を捨て駒などと思ったことは一度もない。だが⋯⋯』

 淡々と紡がれる大尉の言葉。
 そこには、先程まで共に悩んでいた姿はなく、ただ冷たく、非常になりきってしまった一人の男でしかなくなっていた。

『この場において我々ができることは少ない。それだけに【ダンジョン】は強大であり、世界の変革について行けなかったのだ。⋯⋯これは私の責任だ。次のこの任務、受けたくない者は帰還する許可を出す』

 どこまでも淡々と話す大尉。
 祖国を想う誇りか、自らを守る誇りか。どちらも選びたく、どちらも選びたくない。その葛藤の中で男達は⋯⋯決断した。

『⋯⋯すいません大尉⋯⋯俺はこんな奴等とやって行くのは無理だ』

 大尉を掴もうとした男が言った。そして、掴まれた腕を体ごと回転させることで振り払った。それは冒険者にはない技術であり、彼にとっての誇りであった。

『⋯⋯すいません大尉。アンタとはもっと上手くやっていきたかったです』

 そう言って男は部屋を出て行った。
 そして、それをキッカケに一人、また一人と申し訳なさそうに部屋を出て行った。結局残ったのは——、

『⋯⋯三人か』

 理由はどうあれ残った数はあった。正直なところ大尉は残らないことも考えていた。それだけに三人も残っていたことは驚きがあった。

『では大尉さん、私達はそろそろ【ダンジョン】へ行きたいのですが』

『ああ、では行こうか』

 大尉の内心を知ってか知らずか先を促す冒険者の一人。その促しに大尉と残った三人は【ダンジョン】へと足を向けた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 冒険者とは世界の独立的な機関であるギルドに所属する者達の通称だ。

 故に、所属している国籍は様々であり、前職が軍人からアルバイトまで幅広い層が与している。と言うのも、冒険者になるのはそこまでお金がかからないのが一因だ。

 日本では一人千円で試験が受けられる。そして、基本的には良識や常識しか問われない。
 故に、誰でもなることができるのだ。その分、法律はかなり厳しくなるのだが、本人が武器になるのだから仕方ないことだろう。

 そして今、レイジ達のダンジョンには金髪の五人が向かっている。誰もがあまり注視して見なかったため中に⋯⋯が居たことに気づかなかった。
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