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四章〜最悪の世代と最後の世代〜

第65話「新しき王が傾聴」

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「どこから話し始めよっか。そうだね、まずは前座と行こうか

「人間はどうやって生まれたか、なんて壮大な話はどうかな?

「猿が徐々に進化して四足歩行から二足歩行で移動をして、空いた手で道具を使い始めた。これが人間の誕生?

「それとも、猿の中から環境に適応した猿——二足歩行をし、道具を使う奇妙な猿が生き残って、生き残って、生き残ったのが人間?

「まぁ、人間の始まりなんてどっちでもいいんだけど結局は本能が選んだ相手と愛し合って生まれてくるよね

「そこには縦に連なる系譜がある。魔物も同じだよ

「生き残った魔物が進化して、進化した魔物から魔物が生まれる。お兄ちゃんはよく知ってるよね? ダンジョンの魔物達のことだよ

「これが派系型

「でも、魔物にはそれ以外の方法で生まれる事がある

「彷徨う魂が輪廻の輪から外れた時、その行き着く先が魔界になることがある

「普通は消滅しちゃうんだけどね

「でも、稀に運良く魔界に辿り着く魂がいるの。まるで、誘われる様に、探し求める様に、運命の様に辿り着くの

「この魔物達は転生型って呼ばれてる。そして、その正体はゼーレも知らない⋯⋯知らされていない、が正しい表現かな

「さて、実は他にも魔物が生まれる方法があるんだ!

「魔王が自分で生み出すパターンだね。お兄ちゃんは覚えてるよね? 忘れるはずもないダンジョンを襲った悪魔——マルコシアスだよ

「魔王は自身の力を抑えるために72の悪魔を創り出した。悪魔達に自分の存在を分割することで力を抑えることにしたんだよ

「皮肉なことに、そのせいで自我が保てなくなったけどね。でも、力が暴走すれば自我が保てないから力の暴走を抑える方を選んだみたい

「こうして魔王から生まれた魔物は思念型と呼ばれるようになったよ

「そして最後に自然型

「これはゼーレもホントに分からないの

「原因不明のオリジナル。ゼーレにとっては最悪の相性で、どの魔物とも括りが取れないし、そもそも魔物かどうかも分からない。世界のルールから外れた存在、とでも言えるかな

「さてさて、これで一通り説明し終えたよ。え? ゼーレがどこに分類されるかって? 残念だねお兄ちゃん! ゼーレはこれらには分類されません!

「ちょっ! そんな怒った顔しないでお兄ちゃん! ちゃんと説明するから!

「おっほん、まず普通の魔物は今のどれかに分類できるけど、ゼーレは普通じゃない。それは——存在だから

「誰に造られたかって? それはお兄ちゃんも知ってるはずだよ

「お兄ちゃんをこっち側に連れてきた存在——“声”だよ

「⋯⋯え? なんか反応薄いね。知ってた? 予想してた? そ、そんなこと言わないでよ!

「⋯⋯おっほん。まあ、気を取り直して

「みんなは生きている。心臓があって、心があって、未来がある

「でも、ゼーレには全部ないよ

「ゼーレは生きてない。心臓はないし、心は消されて、未来はない

「お兄ちゃんが死んでゼーレも消える。お兄ちゃんが完全な【ダンジョンマスター】になればお役御免で消える。どっちかしかないんだよ

「完全な【ダンジョンマスター】って何かって? お兄ちゃん、良いところに目をつけたね

「完全な【ダンジョンマスター】⋯⋯それは、魔物を生み出す『装置』だよ。理性なんてない。暴力と怒りが原動力で死ぬまで動き続けるんだ

「それが完全な【ダンジョンマスター】⋯⋯もはや化物だね。でも、ゼーレの役目はお兄ちゃんを化物の変えることだよ

「そう。そこのお姉さんが危険視してるのはそう言うことだよ

「え? どうやって変えるかって? 簡単だよ。ゼーレと一緒にいるだけ。ただ、それだけだよ

「ゼーレの全ては“声”と繋がってるの

「ゼーレの目は見た物を映し、ゼーレの呼吸はお兄ちゃんの理性を奪い、狂気を蔓延させる。

「理性を奪われれば自分をコントロールできなくなる。狂気に包まれれば怒りに身を堕とす。そして、それは不可逆的に進行する

「だから、一緒にいるだけ。それだけで十分なの。まぁ、ただ居るだけなら少ししか効果がないから近くにいる必要があるけどね

「そんなに怯えないで、お兄ちゃん。ゼーレには役目はあるけど気持ちは本物だよ

「ゼーレはお兄ちゃんのことが大好き。好きで好きでたまらなくて、この世の全てを捨ててもお兄ちゃんが好き!

「⋯⋯たとえソレが造られた気持ちだったとしてもね

「とまぁ、ゼーレの身の上話はこんな感じ! お兄ちゃんのことが大好きで、お兄ちゃんとずっとそばに居て、お兄ちゃんを完全な【ダンジョンマスター】にして——ゼーレは消える

「そうなるはず⋯⋯だった。そうありたかった⋯⋯でも、現実は上手くいかないね

「何故かお兄ちゃんは理性を失わなかった。不思議なことに狂気にも堕ちなかった。運良く異世界でも生き延びた。偶然にもゼーレの正体を知った。

「色んな偶然が重なって上にお兄ちゃんはここに居る⋯⋯まだ、ヒトの枠組みで生きている

「さて、長くなったけどゼーレの話はこれで終わりだよ

「言い訳もしないし、弁解の余地もいらない。謝罪もしないし、同情もいらない。

「さぁ、お兄ちゃん一思ひとおもいに——⋯⋯ゼーレを殺しなよ」
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