らしく

第３６話

 「健二、起きろ大変だ」

　健二の兄貴は部屋を開けてベッドに寝てる健二の肩を揺らし取り乱して言った。

　「……な、なんだよ。まだ、眠いから寝かしてくれよ」

 健二は寝ぼけながら兄貴の手を振り払って仰向けだった体勢を横向きにかえる。

　「隼人君が亡くなったんだ」

 健二の兄貴は健二をビンタして声を張って言った。

　「イタッ！何すんだよ。隼人がなんて言った？」

 ぶたれた健二はベッドの上で飛び上がり眉間に皺を寄せて兄貴の顔を見て訊いた。

　「だから、隼人君が亡くなったんだよ」

　兄貴は俯き暗い顔つきで言った。

 「冗談にしても笑えない冗談もあんだぞ」

 健二は強い口調で兄貴を注意した。

　「そんな冗談を朝っぱからつくかよ。お前の親友の……」

 兄貴は涙ぐみながら言った。

　「兄貴……」

 健二は兄の弱気った表情を見て急に顔が青ざめた。

　「昨日の夜、自分の部屋でロープで首を吊って亡くなったって今朝、洋太郎くんのお母さんから電話があったんだ」

　「洋太郎に電話する」

  健二は机にあるスマホを手に取り洋太郎に電話する。

　(健二か、もう聞いたと思うけど隼人が……亡くなった。明日、お通夜が……あると思うから……)

  洋太郎は随所に言葉を詰まらせながら喋った。

　「……なんで、なんでなんだよ」

　健二は涙ぐみながら苦しい声で言った。

　(……とりあえず学校に来いよ、なぁ)

　洋太郎は悲しい声色からいつもよりどこか力のない快活な声色をで言った。

　「……」

　健二は洋太郎の言葉に応答せず電話を切った。

　「健二、今日は学校休んでも……」

 「いや、行ってくる」

 健二は取り澄ましたような表情で言った。

　「本当に大丈夫か？」

 「あぁ」

 健二は部屋を出て一階に降りた。

「健二、今日は学校を休んでもいいんだぞ」

 「そうよ、今日は休みなさい」

 健二の父親と母親は気を遣って優しい口調で声を掛ける。

　「２人とも安心してよ。俺は大丈夫だから」

  健二は両親を心配させまいと平常心を装う。

　「……あんまり、無理すんなよ」

　食卓のテーブルに腰掛けた健二の肩に手を置いて言った。

　「あぁ」

　　　　　　＊   ＊   ＊

　「彩音、話があるの」

　彩音のお母さんは階段から降りてくる娘に沈んだ顔をして言った。


 「どうしたのママ、そんな暗い顔して」

 「隼人君が首を吊って亡くなったって」

 「え……」

 片手に持っていたスマホを落として目を大きく見開いて口をあんぐりと開けた。

　　　　　　　　
　　　　　＊        ＊        ＊

 「隼人、何で自殺なんてしたんだよ。お前は、誰よりも生き生きしていたのに……」

  隆一はトイレに閉じこもり蹲うずくまって泣きじゃくった。

　「隆一、トイレから早く出なさい。今、お前の精神的ダメージは到底計り知れないが……とにかくそこにいちゃだめだ」

　隆一のお父さんは息子の精神面を心配してトイレから出るのを催促する。

　　　　　　　　＊     ＊       ＊

　隼人が亡くなる２週間前、隼人と洋太郎は地元の公園のベンチに座って喋る。


  「洋太郎、お前は分かってんだろ」

  「お前の好きな人だろ？」

  「あぁ。坂川さんじゃなくて彩音でもなくて……」

 「健二だろ、ずーっと前から分かってたよ」

 「なんとも思わないのか？」

 「隼人が健二の事好きでも、隼人は隼人だからな。別に何とも思わないよ」

　「そうか、その返答はお前らしいな」

　隼人は強張った表情は柔和な表情へと変わっていく。

　「でも、健二はあかねが好きで……」

   「あかねは神木が好き」

    隼人は洋太郎の言葉を遮って言った。

　「そして、彩音はお前が好きだ。告られたらどうすんだよ？」

 「ちゃんと気持ちを伝えるよ」