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2章3部フィナールの街編
8話 赤熊の洞穴亭
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轟音の件をギルドに報告に来たタケルがギルドマスターに訳を話すと、その場に居たフォルティスのパーティーメンバーが嘘を付いていると言い、タケルは実際に魔法を見せた。その後ビエントに言われ、ギルドカードを渡すと、ビエントは記録された討伐数を見て夢でも見てるようだと言いビエントは椅子にもたれかかり、そのまま暫く動かなくなってしまった。
「ああ、すまない、タケル君。ちょっと驚き過ぎてしまってね。」
ようやく姿勢を正したビエントがタケルにそう声を掛けたが、その顔はどこか疲れていた。
「タケル君、轟音の件は魔法の実験だったと言うことにしておく、今日はもう帰って貰って構わないよ。わざわざ教えに来て貰って悪かったね。」
ビエントはそう言うと、フォルティス達の方をみて一度嘆息すると、フォルティス達に話しかけた。
「フォルティス、聞いての通り今回の調査は無くなった、戻ってくれて構わないぞ。て言うか、いつまでも魔法講義をしてないで早く帰ってくれないか、今日はゆっくり休みたいんだ。」
そう言われたフォルティスは、ミケーレの熱弁を遮り、テーブルのお茶を飲み干すとアクビをしながら部屋から出て行った。
「ふあぁ~。ビエントさん、お疲れ。」
「あ!フォルティスまだ話は終わってないぞ!」
ミケーレはまだ話し足りないらしく、絵が描かれた板をフォルティスに突き出しながら、後を追って部屋を出て行った。ソレーラは静かに立ち上がると、タケルに歩み寄り顔を近付けると、耳元でささやいた。
「また会いましょうね、女神の使徒さん。」
そう言うとタケルにウインクをして部屋を出て行った。
(失敗したな、妹だからそりゃ話に聞いてるよな・・・・まあいずれ話すつもりだったから良いか。)
タケルはビエントにお辞儀をして部屋を出て行った。
「さて、全部話してスッキリしたし。帰るかな。」
タケルは物陰に行き、宿に停めてある馬車の中に転移で戻り、宿の部屋に入って行った。
「ただいま~。」
「おお、タケル。どうだった?」
「まあ。色々あったけど、取り敢えず何かの魔法の実験だったということにするみたいだね。」
「そっか。ところで夕食はどうするんだ?」
「んん~。みんなの意見を聞いてみようか、街の食堂で食べても良いし。」
「じゃあ、ちょっと聞いて来るよ!」
アルセリオはみんなの意見を聞きに部屋を出て行った。
「アルが本当は街に行きたいじゃないか。」
意気揚々と部屋を出て言ったアルセリオを見て、タケルはそう言って笑っていた。
タケル達は結局街の食堂で食べる事にし、フィナールの街の繁華街のような通りを皆で歩いていた。
日もかなり落ちて夕焼けが空を赤く染め、繁華街の店先には松明やランプで明かりが灯され始めていた。
通りは酒場が多く、まだ夕方なのだが、酒場では既に酔って騒いでいる冒険者がおり、ある者は外にまで聞こえる声で自らの武勇伝を仲間に語り、ある者は仲間が亡くなったのだろうか、テーブルで頭を寄せ合い、涙を流しながら仲間の事を話していた。
そして通りには屋台も多く、様々な物を売っており、賑わいに拍車をかけていた。
「おお、良い匂いだ!どの店も旨そうだな。」
アルセリオが、多くの店から漂う料理の匂いを嗅ぎながら声を上げた。
「あらあら、あのアルセリオったら、はしゃいじゃって。」
「お兄様ったら子供っぽいんだから。」
はしゃぐアルセリオをルシアナは微笑んで見つめ、ミレイアはそう言いつつも、にこやかに見つめていた。
「ミレーナちゃん、どこかオススメのお店知ってる?」
ミレイアと手を繋ぎ歩いているミレーナにタケルが声を掛けた。
「う~んとね~。宿に泊まりに来たお客さんが言ってたのは赤熊の洞穴亭って言う所かな。」
「へえ、何だかハチミツ料理でも有りそうな名前だね。」
タケルがそう言うと、ミレーナがタケルを見上げ、嬉しそうに話始めた。
「タケルお兄ちゃん行ったこと有るの?」
「え?じゃあハチミツ料理が有るんだ。」
「うん、そう!す~ごく美味しいらしいよ!」
「そうなんだ、じゃあそこに言ってみようか。」
「うん!」
ミレーナはタケルを見上げ、満面の笑みで答えた。ミレーナはタケル達が泊まる事になっている、深緑の森の泉亭の女主人メリッサの娘である、ミレイアとミレーナが遊ぶ約束をしていたが、外に食事をしに行ったら遊ぶ事が出来ないので寂しそうにしていたので、タケルが一緒に行く?と声を掛けると、行きたいと言うのでメリッサに許可を得て連れて来たのである。
「ミレイアちゃんハチミツの料理たのしみだね~。」
「そうね、楽しみね。」
「ミレーナちゃん連れてきて良かったわ、タケルさん、ありがとうございますね。」
ルシアナはミレイアとミレーナが仲が良さそうにしてるのを見て目を細めて笑いながらタケルに感謝をしていた。
「いえ。元々二人は遊ぶ約束をしてましたからね。折角だから一緒に楽しめたらと思いまして。」
「ミレイアも楽しそうだし良かったわ。」
(あれは楽しんでいるのか?よく判らんな。)
タケルから見るといつもと変わらない大人びたミレイアであったが、母親であるルシアナには違いが判るようである。
「あ、ほら。タケルお兄ちゃん!あそこ、あそこが赤熊の洞穴亭だよ。」
ミレーナが指差した方を見ると、そこは店の外にもテーブルが置いてあり、ほぼ満席状態で冒険者達が装備を着けたままテーブルに置かれた料理に舌鼓を打ちながら、酒を飲み騒いでいた。
「随分と賑やかな店だね~。料理も美味しそうだし。」
店の様子を見たタケルがそう言うと、ミレーナがニッコリと笑い、タケルを見上げた。
「うんとね~。お客さんがこの街で一番だって言ってた。」
「へえ~。それは期待出来そうだ。」
「ねえねえ、タケるん。早く入ろうよ、どんな料理が有るのか楽しみ!」
料理人としての血が騒ぐのか、クシーナが早く入ろうと急かして来た。
「ハハハ、判ったよ、入れるかどうか聞いて来るよ。」
タケルは一人で店の中に入ると、店員に声を掛けた。
「あの、すいません。」
「はい!いらっしゃい!お一人様ですか?」
店員は赤毛の熊人族の女性で、とても活発な感じで、笑顔がとても素敵な少女であった。
「あ、子供二人を入れて10人なんですが、大丈夫ですか?」
「10名様ですか?えっと、団体様用の席で相席なら大丈夫ですが、どうされます?」
「あ、構いませんよ。」
「じゃあ、席のお客さんに聞いてきますね。」
少女は片付けた皿をお盆に重ねて持ったまま、器用に席の間をすり抜け、店の奥へと入って行った。
「お待たせしました~。相席大丈夫です。」
「あ、じゃあ仲間を呼んで来ますね。」
タケルは皆を呼びに表へでて、声を掛けた。
「相席ですが、入れるみたいです。行きましょう。あれ?アルは?」
「ミレイアちゃんのお兄さん、あっちの方にフラフラと行っちゃったよ。」
ミレーナが通りを指差してタケルを見上げてそう言った。
「え?そうなの?判った、教えてくれてありがとうね、ミレーナちゃん。」
「タケルを、私達は先に入ってるわね。」
ミレイアが兄のアルセリオ何か放っておくとでも言うかのように、ミレーナの手を引き店の中へ入って言った。
「あ、俺も行くよ、場所を教えて来て貰うから。」
ミレイアが少し眉を上げ、なるほど!と言うような感じで小さく頷いた。
タケルはみんなを席に案内しながら念話でアルセリオに呼び掛けた。
『おい、アル。どこに行ったんだ?もう皆で店に入ったぞ!』
『悪い!ちょっと興奮し過ぎた、すぐに戻る。何て名前の店だ?』
『赤熊の洞穴亭って店だよ、奥の方のテーブルだから。』
『判った、すぐに戻る。』
タケルはアルセリオに
場所を教え終わると席に座り、相席した人に挨拶をした。
「すいません、お邪魔しますね。」
「いや、良いんだよ、タケル君。」
タケルは自分の名前を呼ばれ、ハッ!として声の主の方を見た。
「ここで会ったのも何かの縁だ、一緒に食事をしながら魔法について語ろうじゃないか!」
声の主はそうタケルに話し掛けた。ギルドでタケルを嘘つき呼ばわりしたフォルティスのパーティーメンバーのミケーレであった。ミケーレは当初あれだけタケルの事を罵っていたにも関わらず、今はタケルの事をキラキラと目を輝かせ、素敵なオモチャを見つけた少年のようになっていた。
「よう、また会ったな。」
「・・・・」
フォルティスがエールを片手に手を上げ挨拶をしてきた。そしてソレーラはエールを飲みながら無言でウインクをしてきた。
「ああ、ど、どうも。」
「あら、タケルさんのお知り合いかしら?」
「知り合いというか・・・・」
「ああ、タケルさんのお母さんですか?どうも、フォルティスと言います。」
フォルティスがルシアナに対して手を差し出し、握手を求めてきた。
「いやいや、こんな美人な方が俺のお母さんの訳無いじゃないですか。」
「あら、タケルさんったら。うふふ。」
ルシアナは、さりげなくタケルに美人と言われ、まんざらでも無いようであった。
「フォルティスさん、こちらはルシアナさんです、そして隣が娘さんのミレイア、その隣が宿の娘さんのミレーナちゃん。」
「おお、ミレーナじゃないか!どうしたんだ?こんな所で。」
タケルがミレーナを紹介すると、フォルティスが声を上げた、どうやら知り合いであったようだ。
「あ、フォルティスおじちゃんだ!帰って来てたの?」
フォルティスに声を掛けられ、ミレイアと話し込んでいたミレーナが振り向くと、フォルティスに気付き声を上げた。
「おじちゃん・・・・ああ、今日帰って来たんだ、今晩飲み過ぎなければ泊まりに行くよ。」
「ほんとう!ありがとう、フォルティスおじちゃん!」
「え、フォルティスさんも深緑の森の泉亭に泊まるんですか?」
「ああ、この街に来た時はいつもあそこに泊まる事にしてるんだが、もって事はタケル君もあそこに泊まるのか?」
「ええ。そうですよ。街に来たときにミレーナちゃんが呼び込みをしてましてね、ウチのミレイアが同じ位だったから声を掛けたんですよ。」
「え?タケル君、まさか新米魔法使いの子供ってその子の事なのかい?」
ギルドでの話を思い出したミケーレがタケルに問い掛けた。
「え?ああ、そうですよ。」
「ま、まさかこんな小さな子供だったとは・・・俺は今まで一体何を学んで来たんだ・・・」
「先生が良いからじゃないですかね?ミレイアには優秀な魔法の先生が居ますからね。」
「え?タケル君、君が教えたんじゃ無いのか?あれだけの魔法が使えるんだ、君が先生なのかと・・・」
「いやあ、俺は魔法は得意ですけど、教えるのはサビオさんの方が上手ですから。」
「え!サビオ?」
「ああ、紹介の途中でしたね、俺の隣がアルミス、その隣がサビオさん、次にアルバ。ミレーナの隣がベルナルドさん、そしてクシーナ。」
ミケーレの言葉にタケルは紹介の途中であった事を思いだし、皆を紹介したが、ミケーレは違う意味で言ったようでタケルに向かい声を上げた。
「違う!自己紹介じゃなくて、誰がサビオだって、そこの格闘家の男性がサビオ?」
「え?ええ、そうですよ。」
タケルはミケーレの言ってる意味が分からなかったが、取り敢えず変事をした。
「そうか、僕が知ってるのは魔法使いのサビオだったんだけど、人違いだったみたいだな。まさかあの格闘家のが大賢者のサビオ・プルーデンスと同じ名前とはね。」
その時、ベルナルドが口を開いた。
「ほう、サビオ殿と同性同名の方が居られるんですな。珍しい事も有るもんですな、しかも同じ大賢者だとは、世の中狭いもんですな。」
(ああ、ベルナルドさん・・・言っちゃったよ・・・)
「ええ?今なんと?この格闘家が大賢者?同性同名?・・・」
ベルナルドの言葉にミケーレは混乱し、ブツブツと独り言を言っていた。
「ほっ、さっきから何度も人の名を呼んでるが、何か用かの?」
自分の名前を呼ばれ連呼され、気付いたサビオが何事かと尋ねた。
「あ、いや。私の知ってる人物でサビオ・プルーデンスと言う人物が居るんですが、貴方も同性同名だと言われたものですから・・・」
「ほっ、ワシの知る限りサビオ・プルーデンスと言う名前はワシしか居ないがの。」
「まさか、貴方が大賢者サビオ・プルーデンス様ですか?」
ミケーレは震えながら、サビオに大賢者サビオかどうかたずねた。
「そうだが?何か用かの?」
「あ、あ、まさか・・・本当に・・・あの!貴方の事は沢山本で読みました!もう死んだと聞いてましたが、生きて居たとは!まさか大賢者、剛腕のサビオにお目にかかれるとは!僕はミケーレと言います。あの、大賢者様」
「ちょっとストップ!まだ俺達注文もしてないんだ、料理を食べてからにしてよ!」
またミケーレが熱くなり、雄弁になるそうな気配があったので、そうなる前にタケルが割って入り、ミケーレの話を遮った。
「フォルティスさん、ここに何度も来てるんですよね?何かオススメは有りますか?」
「おう、そうだな。ここはどれも旨いが、ワイルドボアの炙り焼きが旨いぞ、豆料理も結構旨いしな。」
「そうなんですか、じゃあそのオススメと適当に幾つか頼んでみます。」
タケルはフォルティスにオススメを聞くと、みんなにも食べたい物を聞き、店員を呼び料理を注文した。
暫くして料理が運ばれて来て、料理がテーブルに置かれると、料理を取り分けた。
ワイルドボアの炙り焼きはただ焼いただけではなく、ハチミツを店オリジナルのソースと混ぜ合わせた物を塗り込み、じっくりと焼き上げた物で、表面はパリッと焼き上がり、中はジューシーでとても美味しそうであった。
「おお、美味しそうだね。じゃあ食べようか、いただきます。」
タケルがそう言うと、ミレーナ以外が全員いただきますと言い食べ始めた、フォルティス達は不思議そうな顔をしていたが、特に何も言われる事無かった。
「美味し~。凄い美味しいね、ミレイアちゃん。」
料理を食べたミレーナが満面の笑みを浮かべてミレイアに話し掛けた。
「う、うん、そうね。」
「うん、結構旨いな。ねえ、みんな。」
皆料理を口にしたが、それほど美味しそうにしていなかった。クシーナが作るタケルのレシピの料理を食べていた一同にとっては、美味しいのだが少し物足りなく感じていた。その時、タケル達のテーブルに近より、声を掛けて来た人物が居た。
「おお、ゴメンゴメン裏道に入ったら迷っちゃって。お、料理も来てるのか。」
アルセリオがようやく店にやって来た。
「お、結構旨そうだな。いただきます!」
アルセリオは席に座ると話もそこそこに料理を食べ始めた。
「うん、結構旨いな!でも何か物足りないな。」
アルセリオはタケルに貰ったマジックポーチから胡椒を取り出し、ワイルドボアの炙り焼きに掛けると再びワイルドボアの炙り焼きを食べ始めた。
「お、さらに旨くなったぞ。みんな!胡椒掛けると旨いぞ!」
アルセリオが空気を読まず、大きな声でみんなに話し掛けた。
「お、この豆料理も胡椒が合うな!」
アルセリオはテーブルに並ぶ料理を食べては何かしら調味料を掛けて食べていた。そして美味しそうに食べるアルセリオをじっとミレーナが見つめていた。
「この美味しい料理がもっと美味しく・・・アレがあれば・・・」
ミレーナはアルセリオが食べる様子を見ると、テーブルに置かれた胡椒をじっと見つめてそう呟いた。
「ああ、すまない、タケル君。ちょっと驚き過ぎてしまってね。」
ようやく姿勢を正したビエントがタケルにそう声を掛けたが、その顔はどこか疲れていた。
「タケル君、轟音の件は魔法の実験だったと言うことにしておく、今日はもう帰って貰って構わないよ。わざわざ教えに来て貰って悪かったね。」
ビエントはそう言うと、フォルティス達の方をみて一度嘆息すると、フォルティス達に話しかけた。
「フォルティス、聞いての通り今回の調査は無くなった、戻ってくれて構わないぞ。て言うか、いつまでも魔法講義をしてないで早く帰ってくれないか、今日はゆっくり休みたいんだ。」
そう言われたフォルティスは、ミケーレの熱弁を遮り、テーブルのお茶を飲み干すとアクビをしながら部屋から出て行った。
「ふあぁ~。ビエントさん、お疲れ。」
「あ!フォルティスまだ話は終わってないぞ!」
ミケーレはまだ話し足りないらしく、絵が描かれた板をフォルティスに突き出しながら、後を追って部屋を出て行った。ソレーラは静かに立ち上がると、タケルに歩み寄り顔を近付けると、耳元でささやいた。
「また会いましょうね、女神の使徒さん。」
そう言うとタケルにウインクをして部屋を出て行った。
(失敗したな、妹だからそりゃ話に聞いてるよな・・・・まあいずれ話すつもりだったから良いか。)
タケルはビエントにお辞儀をして部屋を出て行った。
「さて、全部話してスッキリしたし。帰るかな。」
タケルは物陰に行き、宿に停めてある馬車の中に転移で戻り、宿の部屋に入って行った。
「ただいま~。」
「おお、タケル。どうだった?」
「まあ。色々あったけど、取り敢えず何かの魔法の実験だったということにするみたいだね。」
「そっか。ところで夕食はどうするんだ?」
「んん~。みんなの意見を聞いてみようか、街の食堂で食べても良いし。」
「じゃあ、ちょっと聞いて来るよ!」
アルセリオはみんなの意見を聞きに部屋を出て行った。
「アルが本当は街に行きたいじゃないか。」
意気揚々と部屋を出て言ったアルセリオを見て、タケルはそう言って笑っていた。
タケル達は結局街の食堂で食べる事にし、フィナールの街の繁華街のような通りを皆で歩いていた。
日もかなり落ちて夕焼けが空を赤く染め、繁華街の店先には松明やランプで明かりが灯され始めていた。
通りは酒場が多く、まだ夕方なのだが、酒場では既に酔って騒いでいる冒険者がおり、ある者は外にまで聞こえる声で自らの武勇伝を仲間に語り、ある者は仲間が亡くなったのだろうか、テーブルで頭を寄せ合い、涙を流しながら仲間の事を話していた。
そして通りには屋台も多く、様々な物を売っており、賑わいに拍車をかけていた。
「おお、良い匂いだ!どの店も旨そうだな。」
アルセリオが、多くの店から漂う料理の匂いを嗅ぎながら声を上げた。
「あらあら、あのアルセリオったら、はしゃいじゃって。」
「お兄様ったら子供っぽいんだから。」
はしゃぐアルセリオをルシアナは微笑んで見つめ、ミレイアはそう言いつつも、にこやかに見つめていた。
「ミレーナちゃん、どこかオススメのお店知ってる?」
ミレイアと手を繋ぎ歩いているミレーナにタケルが声を掛けた。
「う~んとね~。宿に泊まりに来たお客さんが言ってたのは赤熊の洞穴亭って言う所かな。」
「へえ、何だかハチミツ料理でも有りそうな名前だね。」
タケルがそう言うと、ミレーナがタケルを見上げ、嬉しそうに話始めた。
「タケルお兄ちゃん行ったこと有るの?」
「え?じゃあハチミツ料理が有るんだ。」
「うん、そう!す~ごく美味しいらしいよ!」
「そうなんだ、じゃあそこに言ってみようか。」
「うん!」
ミレーナはタケルを見上げ、満面の笑みで答えた。ミレーナはタケル達が泊まる事になっている、深緑の森の泉亭の女主人メリッサの娘である、ミレイアとミレーナが遊ぶ約束をしていたが、外に食事をしに行ったら遊ぶ事が出来ないので寂しそうにしていたので、タケルが一緒に行く?と声を掛けると、行きたいと言うのでメリッサに許可を得て連れて来たのである。
「ミレイアちゃんハチミツの料理たのしみだね~。」
「そうね、楽しみね。」
「ミレーナちゃん連れてきて良かったわ、タケルさん、ありがとうございますね。」
ルシアナはミレイアとミレーナが仲が良さそうにしてるのを見て目を細めて笑いながらタケルに感謝をしていた。
「いえ。元々二人は遊ぶ約束をしてましたからね。折角だから一緒に楽しめたらと思いまして。」
「ミレイアも楽しそうだし良かったわ。」
(あれは楽しんでいるのか?よく判らんな。)
タケルから見るといつもと変わらない大人びたミレイアであったが、母親であるルシアナには違いが判るようである。
「あ、ほら。タケルお兄ちゃん!あそこ、あそこが赤熊の洞穴亭だよ。」
ミレーナが指差した方を見ると、そこは店の外にもテーブルが置いてあり、ほぼ満席状態で冒険者達が装備を着けたままテーブルに置かれた料理に舌鼓を打ちながら、酒を飲み騒いでいた。
「随分と賑やかな店だね~。料理も美味しそうだし。」
店の様子を見たタケルがそう言うと、ミレーナがニッコリと笑い、タケルを見上げた。
「うんとね~。お客さんがこの街で一番だって言ってた。」
「へえ~。それは期待出来そうだ。」
「ねえねえ、タケるん。早く入ろうよ、どんな料理が有るのか楽しみ!」
料理人としての血が騒ぐのか、クシーナが早く入ろうと急かして来た。
「ハハハ、判ったよ、入れるかどうか聞いて来るよ。」
タケルは一人で店の中に入ると、店員に声を掛けた。
「あの、すいません。」
「はい!いらっしゃい!お一人様ですか?」
店員は赤毛の熊人族の女性で、とても活発な感じで、笑顔がとても素敵な少女であった。
「あ、子供二人を入れて10人なんですが、大丈夫ですか?」
「10名様ですか?えっと、団体様用の席で相席なら大丈夫ですが、どうされます?」
「あ、構いませんよ。」
「じゃあ、席のお客さんに聞いてきますね。」
少女は片付けた皿をお盆に重ねて持ったまま、器用に席の間をすり抜け、店の奥へと入って行った。
「お待たせしました~。相席大丈夫です。」
「あ、じゃあ仲間を呼んで来ますね。」
タケルは皆を呼びに表へでて、声を掛けた。
「相席ですが、入れるみたいです。行きましょう。あれ?アルは?」
「ミレイアちゃんのお兄さん、あっちの方にフラフラと行っちゃったよ。」
ミレーナが通りを指差してタケルを見上げてそう言った。
「え?そうなの?判った、教えてくれてありがとうね、ミレーナちゃん。」
「タケルを、私達は先に入ってるわね。」
ミレイアが兄のアルセリオ何か放っておくとでも言うかのように、ミレーナの手を引き店の中へ入って言った。
「あ、俺も行くよ、場所を教えて来て貰うから。」
ミレイアが少し眉を上げ、なるほど!と言うような感じで小さく頷いた。
タケルはみんなを席に案内しながら念話でアルセリオに呼び掛けた。
『おい、アル。どこに行ったんだ?もう皆で店に入ったぞ!』
『悪い!ちょっと興奮し過ぎた、すぐに戻る。何て名前の店だ?』
『赤熊の洞穴亭って店だよ、奥の方のテーブルだから。』
『判った、すぐに戻る。』
タケルはアルセリオに
場所を教え終わると席に座り、相席した人に挨拶をした。
「すいません、お邪魔しますね。」
「いや、良いんだよ、タケル君。」
タケルは自分の名前を呼ばれ、ハッ!として声の主の方を見た。
「ここで会ったのも何かの縁だ、一緒に食事をしながら魔法について語ろうじゃないか!」
声の主はそうタケルに話し掛けた。ギルドでタケルを嘘つき呼ばわりしたフォルティスのパーティーメンバーのミケーレであった。ミケーレは当初あれだけタケルの事を罵っていたにも関わらず、今はタケルの事をキラキラと目を輝かせ、素敵なオモチャを見つけた少年のようになっていた。
「よう、また会ったな。」
「・・・・」
フォルティスがエールを片手に手を上げ挨拶をしてきた。そしてソレーラはエールを飲みながら無言でウインクをしてきた。
「ああ、ど、どうも。」
「あら、タケルさんのお知り合いかしら?」
「知り合いというか・・・・」
「ああ、タケルさんのお母さんですか?どうも、フォルティスと言います。」
フォルティスがルシアナに対して手を差し出し、握手を求めてきた。
「いやいや、こんな美人な方が俺のお母さんの訳無いじゃないですか。」
「あら、タケルさんったら。うふふ。」
ルシアナは、さりげなくタケルに美人と言われ、まんざらでも無いようであった。
「フォルティスさん、こちらはルシアナさんです、そして隣が娘さんのミレイア、その隣が宿の娘さんのミレーナちゃん。」
「おお、ミレーナじゃないか!どうしたんだ?こんな所で。」
タケルがミレーナを紹介すると、フォルティスが声を上げた、どうやら知り合いであったようだ。
「あ、フォルティスおじちゃんだ!帰って来てたの?」
フォルティスに声を掛けられ、ミレイアと話し込んでいたミレーナが振り向くと、フォルティスに気付き声を上げた。
「おじちゃん・・・・ああ、今日帰って来たんだ、今晩飲み過ぎなければ泊まりに行くよ。」
「ほんとう!ありがとう、フォルティスおじちゃん!」
「え、フォルティスさんも深緑の森の泉亭に泊まるんですか?」
「ああ、この街に来た時はいつもあそこに泊まる事にしてるんだが、もって事はタケル君もあそこに泊まるのか?」
「ええ。そうですよ。街に来たときにミレーナちゃんが呼び込みをしてましてね、ウチのミレイアが同じ位だったから声を掛けたんですよ。」
「え?タケル君、まさか新米魔法使いの子供ってその子の事なのかい?」
ギルドでの話を思い出したミケーレがタケルに問い掛けた。
「え?ああ、そうですよ。」
「ま、まさかこんな小さな子供だったとは・・・俺は今まで一体何を学んで来たんだ・・・」
「先生が良いからじゃないですかね?ミレイアには優秀な魔法の先生が居ますからね。」
「え?タケル君、君が教えたんじゃ無いのか?あれだけの魔法が使えるんだ、君が先生なのかと・・・」
「いやあ、俺は魔法は得意ですけど、教えるのはサビオさんの方が上手ですから。」
「え!サビオ?」
「ああ、紹介の途中でしたね、俺の隣がアルミス、その隣がサビオさん、次にアルバ。ミレーナの隣がベルナルドさん、そしてクシーナ。」
ミケーレの言葉にタケルは紹介の途中であった事を思いだし、皆を紹介したが、ミケーレは違う意味で言ったようでタケルに向かい声を上げた。
「違う!自己紹介じゃなくて、誰がサビオだって、そこの格闘家の男性がサビオ?」
「え?ええ、そうですよ。」
タケルはミケーレの言ってる意味が分からなかったが、取り敢えず変事をした。
「そうか、僕が知ってるのは魔法使いのサビオだったんだけど、人違いだったみたいだな。まさかあの格闘家のが大賢者のサビオ・プルーデンスと同じ名前とはね。」
その時、ベルナルドが口を開いた。
「ほう、サビオ殿と同性同名の方が居られるんですな。珍しい事も有るもんですな、しかも同じ大賢者だとは、世の中狭いもんですな。」
(ああ、ベルナルドさん・・・言っちゃったよ・・・)
「ええ?今なんと?この格闘家が大賢者?同性同名?・・・」
ベルナルドの言葉にミケーレは混乱し、ブツブツと独り言を言っていた。
「ほっ、さっきから何度も人の名を呼んでるが、何か用かの?」
自分の名前を呼ばれ連呼され、気付いたサビオが何事かと尋ねた。
「あ、いや。私の知ってる人物でサビオ・プルーデンスと言う人物が居るんですが、貴方も同性同名だと言われたものですから・・・」
「ほっ、ワシの知る限りサビオ・プルーデンスと言う名前はワシしか居ないがの。」
「まさか、貴方が大賢者サビオ・プルーデンス様ですか?」
ミケーレは震えながら、サビオに大賢者サビオかどうかたずねた。
「そうだが?何か用かの?」
「あ、あ、まさか・・・本当に・・・あの!貴方の事は沢山本で読みました!もう死んだと聞いてましたが、生きて居たとは!まさか大賢者、剛腕のサビオにお目にかかれるとは!僕はミケーレと言います。あの、大賢者様」
「ちょっとストップ!まだ俺達注文もしてないんだ、料理を食べてからにしてよ!」
またミケーレが熱くなり、雄弁になるそうな気配があったので、そうなる前にタケルが割って入り、ミケーレの話を遮った。
「フォルティスさん、ここに何度も来てるんですよね?何かオススメは有りますか?」
「おう、そうだな。ここはどれも旨いが、ワイルドボアの炙り焼きが旨いぞ、豆料理も結構旨いしな。」
「そうなんですか、じゃあそのオススメと適当に幾つか頼んでみます。」
タケルはフォルティスにオススメを聞くと、みんなにも食べたい物を聞き、店員を呼び料理を注文した。
暫くして料理が運ばれて来て、料理がテーブルに置かれると、料理を取り分けた。
ワイルドボアの炙り焼きはただ焼いただけではなく、ハチミツを店オリジナルのソースと混ぜ合わせた物を塗り込み、じっくりと焼き上げた物で、表面はパリッと焼き上がり、中はジューシーでとても美味しそうであった。
「おお、美味しそうだね。じゃあ食べようか、いただきます。」
タケルがそう言うと、ミレーナ以外が全員いただきますと言い食べ始めた、フォルティス達は不思議そうな顔をしていたが、特に何も言われる事無かった。
「美味し~。凄い美味しいね、ミレイアちゃん。」
料理を食べたミレーナが満面の笑みを浮かべてミレイアに話し掛けた。
「う、うん、そうね。」
「うん、結構旨いな。ねえ、みんな。」
皆料理を口にしたが、それほど美味しそうにしていなかった。クシーナが作るタケルのレシピの料理を食べていた一同にとっては、美味しいのだが少し物足りなく感じていた。その時、タケル達のテーブルに近より、声を掛けて来た人物が居た。
「おお、ゴメンゴメン裏道に入ったら迷っちゃって。お、料理も来てるのか。」
アルセリオがようやく店にやって来た。
「お、結構旨そうだな。いただきます!」
アルセリオは席に座ると話もそこそこに料理を食べ始めた。
「うん、結構旨いな!でも何か物足りないな。」
アルセリオはタケルに貰ったマジックポーチから胡椒を取り出し、ワイルドボアの炙り焼きに掛けると再びワイルドボアの炙り焼きを食べ始めた。
「お、さらに旨くなったぞ。みんな!胡椒掛けると旨いぞ!」
アルセリオが空気を読まず、大きな声でみんなに話し掛けた。
「お、この豆料理も胡椒が合うな!」
アルセリオはテーブルに並ぶ料理を食べては何かしら調味料を掛けて食べていた。そして美味しそうに食べるアルセリオをじっとミレーナが見つめていた。
「この美味しい料理がもっと美味しく・・・アレがあれば・・・」
ミレーナはアルセリオが食べる様子を見ると、テーブルに置かれた胡椒をじっと見つめてそう呟いた。
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