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第三章 ジョー
第47話 闡明
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翌日、俺はインターホンの音で目が覚めた。
押し入れから出ると、部屋のカーテンから日が差し込んでいるのが分かった。時計は午前九時を指している。
部屋に愛奈さんは居ない。昨日の夜から帰っていないのだろうか。
テーブルの方を見ると、おそらく愛奈さんが用意してくれたであろう朝食があった。スクランブルエッグとウィンナーの入った皿に、横には食パンが二枚入っている袋と、バターの容器。お腹が減っている俺には、それらがとっておきのご馳走に見えた。
ピンポーン、と、また部屋中に音が響く。
開けても良いのだろうか。愛奈さんの留守中、俺がこの家の留守番を頼まれている。もしもの事が起きないよう、用心しないといけないのだが……。
「ジョーさーん! まだ起きてないんですかー?」
玄関の扉の向こうから、こもった女性の声がした。
俺の名前を知っている? 愛奈さんの声じゃない。おそらくボイスチェンジャーを使ったジンでもないだろう。……だったら誰だ?
俺は恐る恐る玄関を開けた。扉の前には、昨日玄関前で会った女性がいた。確か、愛奈さんの仕事仲間だ。
俺が顔を出すと、彼女は満面の笑みを浮かべ、「良かった、生きてた!」と声を出す。俺は素っ気ない声で、「そりゃあね」と返した。俺はまだ死んでない。
「……どうしたの?」
俺は聞く。
「いや、少しお話したいなぁって思って」
彼女は上目遣いで、家に上げてもらうよう頼んできた。悔しいが、少し可愛いと思ってしまった。
唾を一呑みし、「どうぞ」、とガラガラ声で迎え入れた。
「愛奈さんの仕事仲間なんだって?」
「そうなんです」
彼女はダウンジャケットを脱ぎながら、テーブルの前に座る。下にはグレーのタートルネックを着ていた。
「あ、申し遅れました。赤波 菜々緒って言います。よろしくお願いします」
菜々緒は茶色のロングヘアをしならせ、深々と頭を下げた。
「いやいや、じ、ジョーって言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺も慌てて頭を下げる。「知ってますよ、ジョーさん」と、菜々緒はいつの間にか頭を上げていて、少し微笑んだ。
「昨日、愛奈さんから色々聞いたんですよ。仕事で」
「あ、そうなんですね」
愛奈さんが外で、俺のことを話していた。多数の人に、なりふり構わず俺のことを喋っているのではないか、という不安は生まれなかった。それよりも先に、一つの疑問が生じる。
愛奈さんはいつ、菜々緒さんに俺のことを話したんだ?
俺は昨日、愛奈さんが帰ってきたあとの夜に、菜々緒さんと昼に会ったということを話した。その時、愛奈さんは初耳だという様子を見せていた。辻褄が合わなくないか?
愛奈さんは午前中に仕事に出かけ、夕方頃に帰ってくる。その仕事中に愛奈さんが菜々緒さんに話したのなら、俺が昼に菜々緒さんと会っていたことも知っていたはずだ。そもそも、菜々緒さんは今日、出勤日じゃないのか?
「あの……」
百考は一聞に如かず。俺はとにかくこのモヤモヤをいち早く晴らしたかった。
「愛奈さんは、何の仕事をしてるんですか?」
菜々緒さんはキョトン、とした顔を見せる。「まだ教えてもらってないのか」と、小声で呟き、顔をしかめる。
「まあでも、知りたいよね。というか、知らないと変な誤解とか起きそうだし」
誤解……とは? 俺が聞く前に菜々緒さんは口を開いた。
「愛奈さんと私は、ガールズバーで働いてんの」
脳内の、点と点とが結びつき、電気回路が見事完成した。
そうか、そういうことだったのか。
愛奈さんが昨日、夜遅くに出掛けたのはガールズバーに行くためだったのだ。彼氏とデートなのでは、と、恥ずかしい誤解をしてしまっていた。この菜々緒という女性に、男性の心を掴むスキルが備わってるのもうなずけた。
昨日の夜、九時に寝るのはちょっと早いんじゃないか、と思っていたが、あれは俺に対しての配慮だったに違いない。バーで働いているのを、直接俺に伝えたくなかった。だから一緒に、早めの就寝をしてから、気付かれないように仕事場へ行った。そう考えれば、全て納得がいく。
何故俺に気付かれないようにしてたのか、という疑問は置いといて、もう一つ。俺は菜々緒さんに聞きたいことがあった。
「それなら、愛奈さんは……今どこへ……?」
夜にガールズバーなら、日中はどこに行ってるというのだろうか。
「ああ、今は…………劇団のほうだよ」
菜々緒さんは、そう教えてくれた。
押し入れから出ると、部屋のカーテンから日が差し込んでいるのが分かった。時計は午前九時を指している。
部屋に愛奈さんは居ない。昨日の夜から帰っていないのだろうか。
テーブルの方を見ると、おそらく愛奈さんが用意してくれたであろう朝食があった。スクランブルエッグとウィンナーの入った皿に、横には食パンが二枚入っている袋と、バターの容器。お腹が減っている俺には、それらがとっておきのご馳走に見えた。
ピンポーン、と、また部屋中に音が響く。
開けても良いのだろうか。愛奈さんの留守中、俺がこの家の留守番を頼まれている。もしもの事が起きないよう、用心しないといけないのだが……。
「ジョーさーん! まだ起きてないんですかー?」
玄関の扉の向こうから、こもった女性の声がした。
俺の名前を知っている? 愛奈さんの声じゃない。おそらくボイスチェンジャーを使ったジンでもないだろう。……だったら誰だ?
俺は恐る恐る玄関を開けた。扉の前には、昨日玄関前で会った女性がいた。確か、愛奈さんの仕事仲間だ。
俺が顔を出すと、彼女は満面の笑みを浮かべ、「良かった、生きてた!」と声を出す。俺は素っ気ない声で、「そりゃあね」と返した。俺はまだ死んでない。
「……どうしたの?」
俺は聞く。
「いや、少しお話したいなぁって思って」
彼女は上目遣いで、家に上げてもらうよう頼んできた。悔しいが、少し可愛いと思ってしまった。
唾を一呑みし、「どうぞ」、とガラガラ声で迎え入れた。
「愛奈さんの仕事仲間なんだって?」
「そうなんです」
彼女はダウンジャケットを脱ぎながら、テーブルの前に座る。下にはグレーのタートルネックを着ていた。
「あ、申し遅れました。赤波 菜々緒って言います。よろしくお願いします」
菜々緒は茶色のロングヘアをしならせ、深々と頭を下げた。
「いやいや、じ、ジョーって言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺も慌てて頭を下げる。「知ってますよ、ジョーさん」と、菜々緒はいつの間にか頭を上げていて、少し微笑んだ。
「昨日、愛奈さんから色々聞いたんですよ。仕事で」
「あ、そうなんですね」
愛奈さんが外で、俺のことを話していた。多数の人に、なりふり構わず俺のことを喋っているのではないか、という不安は生まれなかった。それよりも先に、一つの疑問が生じる。
愛奈さんはいつ、菜々緒さんに俺のことを話したんだ?
俺は昨日、愛奈さんが帰ってきたあとの夜に、菜々緒さんと昼に会ったということを話した。その時、愛奈さんは初耳だという様子を見せていた。辻褄が合わなくないか?
愛奈さんは午前中に仕事に出かけ、夕方頃に帰ってくる。その仕事中に愛奈さんが菜々緒さんに話したのなら、俺が昼に菜々緒さんと会っていたことも知っていたはずだ。そもそも、菜々緒さんは今日、出勤日じゃないのか?
「あの……」
百考は一聞に如かず。俺はとにかくこのモヤモヤをいち早く晴らしたかった。
「愛奈さんは、何の仕事をしてるんですか?」
菜々緒さんはキョトン、とした顔を見せる。「まだ教えてもらってないのか」と、小声で呟き、顔をしかめる。
「まあでも、知りたいよね。というか、知らないと変な誤解とか起きそうだし」
誤解……とは? 俺が聞く前に菜々緒さんは口を開いた。
「愛奈さんと私は、ガールズバーで働いてんの」
脳内の、点と点とが結びつき、電気回路が見事完成した。
そうか、そういうことだったのか。
愛奈さんが昨日、夜遅くに出掛けたのはガールズバーに行くためだったのだ。彼氏とデートなのでは、と、恥ずかしい誤解をしてしまっていた。この菜々緒という女性に、男性の心を掴むスキルが備わってるのもうなずけた。
昨日の夜、九時に寝るのはちょっと早いんじゃないか、と思っていたが、あれは俺に対しての配慮だったに違いない。バーで働いているのを、直接俺に伝えたくなかった。だから一緒に、早めの就寝をしてから、気付かれないように仕事場へ行った。そう考えれば、全て納得がいく。
何故俺に気付かれないようにしてたのか、という疑問は置いといて、もう一つ。俺は菜々緒さんに聞きたいことがあった。
「それなら、愛奈さんは……今どこへ……?」
夜にガールズバーなら、日中はどこに行ってるというのだろうか。
「ああ、今は…………劇団のほうだよ」
菜々緒さんは、そう教えてくれた。
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