オレからのオレオレ詐欺

刃七

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オレからのオレオレ詐欺

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 会社帰りに圭介のスマホが鳴った。
 見知らぬ番号。
 ひょっとしたらこないだ合コンで知り合った女かも。飲み過ぎたらしく記憶が完全に飛んでいるが、ショートヘアの可愛い子で、会ってすぐ彼女に自分の番号を教えた事だけはかろうじて覚えている。
「はい」
「あ、オレオレ」
「誰?」
「オレだよ、信じられんだろうが、30年後のお前だ」
 オレオレ詐欺にしても頭が悪過ぎる。バイバイ。
「おい、切るな切るな、スズキミサキ!」
スズキミサキ……。
その言葉に引っかかり圭介は耳から離しかけたスマホを元に戻した
スズキミサキ……鈴木美咲?
なんでその名前を?
「おい、鈴木美咲がどうしたんだよ」
「オレが30年後のお前だっていう証拠だ。自分以外誰も知らないからな、実はずっとスズキミサキが好きだったこと」
確かに誰にも話した事はない。高校時代、ずっと付き合ってた彼女よりその親友の美咲の方が好きだった事。しかしだからと言って……
「ちょっと待てよ。お前誰だよ」
「だからお前なんだよ、30年後の。今2053年なんだけど過去に電話出来るアプリが開発されたんだよ。でも1回きり、3分しか通話出来ないんだ。だから早く信じてくれ」
「そんなもんどうやって信じろってんだよ」
「じゃ、これはどうだ、オカザキのエロい母ちゃん」
圭介は息を呑んだ。
岡崎は中学の同級生。よく家に遊び
行っていたが、彼の色っぽい母親で何度もシコッていた事は絶対に自分だけの秘密だった。
「待て待て待て、誰に聞いたんだよ」
「誰に聞くもないだろ、オレしか知らないのに」
「いやそもそも声が違うじゃねえか、その声、オレの声じゃねーし」
「自分の思ってる声と実際の声って意外に違うんだよ、しかも30年経ってるんだぞ。オレは今58歳だ。じゃあダメ押しでもうひとつ。無人島に1枚だけ持って行くアルバムは?って聞かれてレッド・ツェッペリンのセカンドとか答えた事あるけど、実は……」
まさか……。
「B'zのベスト盤だ」
「やめてくれ……もういい、信じるよ」
「よし、時間がない。早速本題だ。今から教える口座に有り金全部振り込んでくれ」
「おいおい待てよいきなり。なんだよそれ」
「その金は200倍以上になる。100パーセントの確率でだ」
「200倍……」
「そうだ、細かい事を話す時間はない。とにかく未来のオレ、この先起きる事を全て知っているオレ、いやオマエ自身が言ってるんだ。黙って信じろ」
「わかったよ。100パーセントだな」
「ああ、100パーで大金持ちだ。口座番号は……」
圭介が口座番号をメモし終えると同時に通話は途切れた。

「すごい、ホントに記憶が消えてるんだ」
とある製薬会社の研究所で、ショートヘアの女が白衣の男に言った。
「ああ、承認はされなかったが、服用後数時間の記憶が完全に消えるこの新薬、結構いい金になりそうだな。とにかくこれからも間抜けそうなカモを見つけたら……」
「<墓まで持って行く秘密暴露ゲーム>で盛り上がればいいんでしょ」
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