ヒトと人

パンダ

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ヒトと人

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「この世には似たような見た目をしていてもヒトと人がいる。しっかりと見極める事が大切だ。」
よく父が言っていた言葉。幼い僕には父の言う意味がわからなかったがその時の記憶は今でも鮮明に覚えている。そして26歳になった今でも僕はまだその真意について探している。

静岡で生まれ育ち大学進学とともに上京してきた僕はしっかりと人生の夏休みを満喫し、気がつけば社会人4年目に突入していた。新人というブランドが消え責任という重圧に押し潰されそうになりながらも上司の機嫌を取り、後輩の面倒をみながら自分のタスクをこなす毎日。心の奥底で何かすり減るのを感じているがこれが大人になる事だと何度も何度も呪文のように自分に言い聞かせた。しかしそんな中でも頑張れる源がある。家族だ。大学卒業後、大学2年の頃から交際していた彼女とはれて入籍し1人の子宝にも恵まれた。家族の事を思えばきつい仕事だって行き帰りの満員電車だって難なく乗り越えられる。まるで魔法にかかったかのように身体が軽くどこまででも行ける気分だ。帰宅ラッシュ真っ只中のこのぎゅうぎゅうに押し込められた満員電車も、もう直ぐ家族に会えると思うとなんだか嬉しささえ感じてくる。
「だだいま。」玄関を開けるとお帰りと言う返事とともに子供がお出迎えしてくれるはずだった。しかし今日は違った。
寝てしまったか。起きてしまっては申し訳ないと思い、音を立てないようにドアの鍵を閉める。ゆっくりとリビングに向かうとそこには??がいた。その見た目は猫に近いモノである。ただ僕らが知っている猫ではなく、2足歩行で爪は長く影のような靄で覆われている。その形が猫のように見えるのだ。目の前に現れた異形に僕の脳は置いてけぼりにされた。そして??の足元に転がっている人影を見て僕の脳は完全に停止をしたのだ。それは出迎えをしてくれるはずの小さな子供が横たわっていた。その姿に恐怖と喪失感、言葉では表しようのない感情が溢れ出した。愛してやまない僕の子供である。これは夢であろうか。現実か夢か混乱している最中、??はぐるりと顔を捻り僕の方を見た。
??と目が合った瞬間、硬直していた僕の体はキッチンに走っていた。脳が指令を出す前に体が動いたのである。野生の勘というものであろうか。洗い終わったばかりの包丁を手に取り震える手を押さえ状況を整理しようと思ったが考える隙も与えず??は勢いよく僕に襲いかかってきた。その速さに対応しきれず僕は??に覆い被さられるように床に倒れた。

埃が宙を舞うように黒い靄はホロホロと崩れ少しずつ僕の目の前に明かりが差し込んでいく。黒い靄が完全に消えかかる時、僕の体の上には僕の手に握られた包丁が刺さった妻が覆い被さっていた。言葉にならない叫びが家に鳴り響く。泣き声と嗚咽がこだまし僕の目の前は再び真っ暗になった。
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