1 / 1
ヒトと人
しおりを挟む
「この世には似たような見た目をしていてもヒトと人がいる。しっかりと見極める事が大切だ。」
よく父が言っていた言葉。幼い僕には父の言う意味がわからなかったがその時の記憶は今でも鮮明に覚えている。そして26歳になった今でも僕はまだその真意について探している。
静岡で生まれ育ち大学進学とともに上京してきた僕はしっかりと人生の夏休みを満喫し、気がつけば社会人4年目に突入していた。新人というブランドが消え責任という重圧に押し潰されそうになりながらも上司の機嫌を取り、後輩の面倒をみながら自分のタスクをこなす毎日。心の奥底で何かすり減るのを感じているがこれが大人になる事だと何度も何度も呪文のように自分に言い聞かせた。しかしそんな中でも頑張れる源がある。家族だ。大学卒業後、大学2年の頃から交際していた彼女とはれて入籍し1人の子宝にも恵まれた。家族の事を思えばきつい仕事だって行き帰りの満員電車だって難なく乗り越えられる。まるで魔法にかかったかのように身体が軽くどこまででも行ける気分だ。帰宅ラッシュ真っ只中のこのぎゅうぎゅうに押し込められた満員電車も、もう直ぐ家族に会えると思うとなんだか嬉しささえ感じてくる。
「だだいま。」玄関を開けるとお帰りと言う返事とともに子供がお出迎えしてくれるはずだった。しかし今日は違った。
寝てしまったか。起きてしまっては申し訳ないと思い、音を立てないようにドアの鍵を閉める。ゆっくりとリビングに向かうとそこには??がいた。その見た目は猫に近いモノである。ただ僕らが知っている猫ではなく、2足歩行で爪は長く影のような靄で覆われている。その形が猫のように見えるのだ。目の前に現れた異形に僕の脳は置いてけぼりにされた。そして??の足元に転がっている人影を見て僕の脳は完全に停止をしたのだ。それは出迎えをしてくれるはずの小さな子供が横たわっていた。その姿に恐怖と喪失感、言葉では表しようのない感情が溢れ出した。愛してやまない僕の子供である。これは夢であろうか。現実か夢か混乱している最中、??はぐるりと顔を捻り僕の方を見た。
??と目が合った瞬間、硬直していた僕の体はキッチンに走っていた。脳が指令を出す前に体が動いたのである。野生の勘というものであろうか。洗い終わったばかりの包丁を手に取り震える手を押さえ状況を整理しようと思ったが考える隙も与えず??は勢いよく僕に襲いかかってきた。その速さに対応しきれず僕は??に覆い被さられるように床に倒れた。
埃が宙を舞うように黒い靄はホロホロと崩れ少しずつ僕の目の前に明かりが差し込んでいく。黒い靄が完全に消えかかる時、僕の体の上には僕の手に握られた包丁が刺さった妻が覆い被さっていた。言葉にならない叫びが家に鳴り響く。泣き声と嗚咽がこだまし僕の目の前は再び真っ暗になった。
よく父が言っていた言葉。幼い僕には父の言う意味がわからなかったがその時の記憶は今でも鮮明に覚えている。そして26歳になった今でも僕はまだその真意について探している。
静岡で生まれ育ち大学進学とともに上京してきた僕はしっかりと人生の夏休みを満喫し、気がつけば社会人4年目に突入していた。新人というブランドが消え責任という重圧に押し潰されそうになりながらも上司の機嫌を取り、後輩の面倒をみながら自分のタスクをこなす毎日。心の奥底で何かすり減るのを感じているがこれが大人になる事だと何度も何度も呪文のように自分に言い聞かせた。しかしそんな中でも頑張れる源がある。家族だ。大学卒業後、大学2年の頃から交際していた彼女とはれて入籍し1人の子宝にも恵まれた。家族の事を思えばきつい仕事だって行き帰りの満員電車だって難なく乗り越えられる。まるで魔法にかかったかのように身体が軽くどこまででも行ける気分だ。帰宅ラッシュ真っ只中のこのぎゅうぎゅうに押し込められた満員電車も、もう直ぐ家族に会えると思うとなんだか嬉しささえ感じてくる。
「だだいま。」玄関を開けるとお帰りと言う返事とともに子供がお出迎えしてくれるはずだった。しかし今日は違った。
寝てしまったか。起きてしまっては申し訳ないと思い、音を立てないようにドアの鍵を閉める。ゆっくりとリビングに向かうとそこには??がいた。その見た目は猫に近いモノである。ただ僕らが知っている猫ではなく、2足歩行で爪は長く影のような靄で覆われている。その形が猫のように見えるのだ。目の前に現れた異形に僕の脳は置いてけぼりにされた。そして??の足元に転がっている人影を見て僕の脳は完全に停止をしたのだ。それは出迎えをしてくれるはずの小さな子供が横たわっていた。その姿に恐怖と喪失感、言葉では表しようのない感情が溢れ出した。愛してやまない僕の子供である。これは夢であろうか。現実か夢か混乱している最中、??はぐるりと顔を捻り僕の方を見た。
??と目が合った瞬間、硬直していた僕の体はキッチンに走っていた。脳が指令を出す前に体が動いたのである。野生の勘というものであろうか。洗い終わったばかりの包丁を手に取り震える手を押さえ状況を整理しようと思ったが考える隙も与えず??は勢いよく僕に襲いかかってきた。その速さに対応しきれず僕は??に覆い被さられるように床に倒れた。
埃が宙を舞うように黒い靄はホロホロと崩れ少しずつ僕の目の前に明かりが差し込んでいく。黒い靄が完全に消えかかる時、僕の体の上には僕の手に握られた包丁が刺さった妻が覆い被さっていた。言葉にならない叫びが家に鳴り響く。泣き声と嗚咽がこだまし僕の目の前は再び真っ暗になった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
旧王家の血筋って、それ、敵ですよね?
章槻雅希
ファンタジー
第一王子のバルブロは婚約者が不満だった。歴代の国王は皆周辺国の王女を娶っている。なのに将来国王になる己の婚約者が国内の公爵令嬢であることを不満に思っていた。そんな時バルブロは一人の少女に出会う。彼女は旧王家の末裔だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる