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第四章 伯爵と元男娼、共有する
第十七話「倒れる伯爵」
しおりを挟むそれから少し経ったある日の午後のこと。
ロイドが女である可能性を極力考えないように日々を過ごしているノアにこの日与えられた仕事は、外出の用事があるクリスの代わりに、ロイドの執務の補佐を行うことだった。
「なんだか汗ばむな…。すまない、ノア。窓を少し開けてくれないか?」
「――分かった。何か冷たいものでも飲むか?」
ノアがロイドを見やれば、確かにその頬が淡く色づいていて。その日の気温はうららかで、窓を開けるほどでもないだろうと判断していたノアは、自分の主に適した対応ができていなかったことを心の中で小さく悔やんだ。
そうして窓を開ければ、爽やかな風が舞い込んでくる。
「…いや、風で身体が冷えてちょうどいい。このままでいいよ」
「そうか」
再び机に向かって、ロイドはペンを走らせる。
その凛とした姿に、ノアは思わず見惚れてしまっていた。
「―――」
空色の瞳を縁取る睫毛が、その白い肌に長い影を作る。
上気した頬とはまた違う桃色で色づいた唇から、時折そっと息が零れた。
ペンを持つ、角のないほっそりとした手が滑らかに動いてゆく。
「―――、」
そのどれからも目が離せなくて、そのどれもが、ロイドは女だとノアに訴えているような気がした。
「……ノア、」
「っ、」
そっと掛けられた声に、ノアははっと我に返る。
「ど、どうした?」
「…悪い。やはり窓を閉めてくれないか…?身体が少し、冷えすぎたようだ…」
「……ロイド?」
先ほどまで火照っていたはずのロイドの顔は、すっかり青白い色に変わり果てていて。それどころか話すのも辛いようで、青くなった唇から零れる息は乱れていた。
「…っ、」
「ロイド!」
数日前の朝食のときと同じように、ロイドの身体がぐらりと傾く。
そのまま机の上に突っ伏した衝撃で、はらはらと書類が何枚か落ちていった。
「ロイド!大丈夫か!?」
慌てて抱き起したロイドの身体は、ひどく熱い。
明らかに高熱と分かるそれにどうして気づけなかったのかと、ノアは自分に向けて舌打ちをした。
「…う、…はっ」
「しっかりしろよ、ロイド。すぐベッドに運んでやるからな」
ひゅうひゅうと苦しげに呼吸を繰り返すロイドを、ノアは迷いなく横抱きで抱き上げる。
想像以上に軽い身体に驚くも、ノアは足早に書斎からロイドの寝室へと速足で向かった。
「あら、ノアさ…、――ロイド様!?」
途中ですれ違った女の使用人が、抱きかかえられたロイドの様子に狼狽する。
「――ロイド、様が熱を出している。すぐにエマさんを呼んでください」
「っ、はい!」
急を要する事態に廊下を駆けだした使用人の足音を聞きながら、ノアはロイドの部屋へと入り込んだ。
「はぁ…っ、は、…っ」
「…こんなになるまで無理しやがって…。やっぱりあのとき、調子が悪かったんだな」
「…っ、うぅ…」
ベッドの上で苦しみに顔を歪めるロイドの姿に、ノアは顔もみるみる険しくなっていく。
「苦しい、よな。もう少しでエマさんが来るからな…」
そして少しでも楽になれればとロイドのタイを緩め、シャツのボタンを外したときだった。
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